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第八章『最後の晩餐と安土饗応』
19 『光秀にしかないもの』
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「……儂には、他の武将には無いものがありますじゃ!」と堂々と言う明智光秀。
「ほう、なんであるか?」何を言うか楽しみになっている織田信長。
「いや、なに特別なことではありませんが……
儂は――高年齢でありますじゃ!」
「そうきたであるか!」
「はい、織田家中において、なんの功績もなんの縁故も無く全くな新参の者で、どこの馬の骨か解らぬような五十過ぎの者は……
いくら信長様の配下でもいますまい」
「であるな。確かに何も功績もない、
……ただの高齢な者は、さすがの余とて雇わんであるな」
「――だからこそです、
なのに家臣にしてもらったとしたら……
儂は、どうすると思いますじゃ?」
「なるほどのう、――その分、励むと?」
「そんなものではありませぬじゃ。
儂には信長様に受けた恩を返す時間が、他の武将方の誰よりも少ないですじゃ!
儂には残された時間は少ししかありませぬ。
ですから――」
「であるから?」信長も合わせる。
「その分誰よりも早く、信長様に受けたら恩を返さねばなりません。
それこそ必死に必死に、その為なら死をも恐れずですじゃ」
「なかなか良いことをいうであるな、光秀よ」
信長は、完全に落とされた。
実は光秀は、信長の好きな言葉、好きな態度、好きな表情などを、
足利義昭に信長への伝令を頼まれてから――
この日の為に研究しつくして来ているのであった。
何のためにと言えば――
人生最大のチャンスをものにするためである。
「実はな光秀、余は人材を求めておる。
――そこで少し面白話をしてやろう。
余はな、義昭公の上洛の要請を受けようと思っておる。
そしてその後、新将軍様の威光を旗印に――
天下を統一しよう考えておる」
「なんと、もう信長様はそんな先まで……」
「である。
――その時、重要なのが京のある近畿の防衛である。
その為に一番気にかかかるのは、越前で百年にも及ぶ大大名朝倉氏の動向である」
「……あ、朝倉……」
「――つまり、光秀お前の朝倉に仕え、また義昭公に下っぱとはいえ近くにて仕えたお主の経験は――
実は余には、凄く貴重で有難いものなのである」
「の……信長様、それはつまり」光秀、もう泣きそう。
「である。
余はお主のその高齢となるまでの、その経験を買うこととするである!」
信長は最後に、光秀の両肩を両手でバンと叩いて――
「光秀よ、人生長生きして苦労してみるものであるな」
「あ……有り難き幸せにございますじゃ……」
ついに採用が決定した光秀の瞳からは、大粒の涙が流れた。
その後の光秀の頑張りは凄まじく、仕えて三年目には、あの出世頭の羽柴秀吉とともに、日本の首都京を管轄する所司代に任命された。
また秀吉が一軍を率いる軍団長に任命されるまで、信長に仕えてからに二十五年程かかったのに対し、光秀はほぼ十年で秀吉と同じように軍団長となったのであった。
どれだけどれだけ信長に仕えることが嬉しかったか、凄く伝わってきますね。
――ここまで読んだ方は、
「なんか、光秀というより、秀吉と信長の出合いの場面みたい」
「ただの作者の創作部分でしょ?」と感じるかと思いますが、
実は――この話には当然、《根拠》があるのだ。
次回、『外国人が見た明智光秀』
あなたの光秀のイメージが、完全に覆される!?
「ほう、なんであるか?」何を言うか楽しみになっている織田信長。
「いや、なに特別なことではありませんが……
儂は――高年齢でありますじゃ!」
「そうきたであるか!」
「はい、織田家中において、なんの功績もなんの縁故も無く全くな新参の者で、どこの馬の骨か解らぬような五十過ぎの者は……
いくら信長様の配下でもいますまい」
「であるな。確かに何も功績もない、
……ただの高齢な者は、さすがの余とて雇わんであるな」
「――だからこそです、
なのに家臣にしてもらったとしたら……
儂は、どうすると思いますじゃ?」
「なるほどのう、――その分、励むと?」
「そんなものではありませぬじゃ。
儂には信長様に受けた恩を返す時間が、他の武将方の誰よりも少ないですじゃ!
儂には残された時間は少ししかありませぬ。
ですから――」
「であるから?」信長も合わせる。
「その分誰よりも早く、信長様に受けたら恩を返さねばなりません。
それこそ必死に必死に、その為なら死をも恐れずですじゃ」
「なかなか良いことをいうであるな、光秀よ」
信長は、完全に落とされた。
実は光秀は、信長の好きな言葉、好きな態度、好きな表情などを、
足利義昭に信長への伝令を頼まれてから――
この日の為に研究しつくして来ているのであった。
何のためにと言えば――
人生最大のチャンスをものにするためである。
「実はな光秀、余は人材を求めておる。
――そこで少し面白話をしてやろう。
余はな、義昭公の上洛の要請を受けようと思っておる。
そしてその後、新将軍様の威光を旗印に――
天下を統一しよう考えておる」
「なんと、もう信長様はそんな先まで……」
「である。
――その時、重要なのが京のある近畿の防衛である。
その為に一番気にかかかるのは、越前で百年にも及ぶ大大名朝倉氏の動向である」
「……あ、朝倉……」
「――つまり、光秀お前の朝倉に仕え、また義昭公に下っぱとはいえ近くにて仕えたお主の経験は――
実は余には、凄く貴重で有難いものなのである」
「の……信長様、それはつまり」光秀、もう泣きそう。
「である。
余はお主のその高齢となるまでの、その経験を買うこととするである!」
信長は最後に、光秀の両肩を両手でバンと叩いて――
「光秀よ、人生長生きして苦労してみるものであるな」
「あ……有り難き幸せにございますじゃ……」
ついに採用が決定した光秀の瞳からは、大粒の涙が流れた。
その後の光秀の頑張りは凄まじく、仕えて三年目には、あの出世頭の羽柴秀吉とともに、日本の首都京を管轄する所司代に任命された。
また秀吉が一軍を率いる軍団長に任命されるまで、信長に仕えてからに二十五年程かかったのに対し、光秀はほぼ十年で秀吉と同じように軍団長となったのであった。
どれだけどれだけ信長に仕えることが嬉しかったか、凄く伝わってきますね。
――ここまで読んだ方は、
「なんか、光秀というより、秀吉と信長の出合いの場面みたい」
「ただの作者の創作部分でしょ?」と感じるかと思いますが、
実は――この話には当然、《根拠》があるのだ。
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