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第八章『最後の晩餐と安土饗応』
13 『儀式の始まり』
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「いよいよであるな、
最後に……
光秀、信忠、お主らに渡したい物がある」
織田信長はそういうと、天主最上階『黄金の間』を出て、朱色の階段を降りていった。
階下の、そう五階の部屋は――
周りの窓か全て閉められいるため部屋が――薄暗い。
しかし、沢山の銀の燭台が縦横に並べられ、その上で蝋燭ろうそくがゆらゆらと部屋を灯しながら揺れていた。
「――上様」
森蘭丸が声をかけながら、部屋に入って来た。
あとから、明智光秀と織田信忠もついてくる。
――信長はその部屋の一番奥に行くと振り返った。
その背後には――
悟りを開いた釈迦、つまり仏陀が弟子たちを集め仏法を伝授している絵が描かれてある。
そうここは『仏陀と弟子の間』である。
その仏陀の顔が明々と蝋燭の光で照らし出される絵の前に、悠然と立つ信長の前には――
腰ぐらいの高さがある、赤い布を被せた――
机が置かれてある。
「蘭!」
「はい」
蘭丸は、用意していた装飾された銀製のトレーを運んできて、信長の前の机においた。
銀製のトレーの上には何か乗っているようだが、上から布をかけられていて、解らない。
「では、始めるとするか――」
信長は、赤い布に覆われた机を挟んで、向かい合って一列に並んでいる――
左から蘭丸、信忠、光秀を順番に見終わったあと、頷いて――
「余は、この乱世に終止符を打つために生まれてきた者である」
「はい、仰せの通りです」一同、声を揃える。
「そして――余は、乱世を再び起こさぬために、そう泰平の世の礎を築くために死にゆく者でも……ある」
信長が、語尾を言い淀んだのは、信長が死を恐れたから……では決して無かった。
それは、向かい合って立つ蘭丸の瞳からツーと涙がなん筋も顔をつたっているからである。
「蘭!」
「上様すいません」
蘭丸は涙を拭いもせず、「この儀式を成されるということは、
『福音書』計画を近いうちに成遂げられることを、上様が最終決断された証し」
「である」
「私は上様の……民のために、救世主になられるお考えを、とても素晴らしいことだと感じております」
「であるか」
「はい、けれども、私個人の思いとしては、やはり上様が……」
「……」信長は蘭丸の所に行って、指で涙をぬぐってあげた。
「蘭よ、余がこの世を去ることを泣いてくれるのか」
「上様、私はやはり、上様と別れることなどできませぬ」
「気持ちは有り難いであるが、余は命を捨てると決めた。
……それは、もうかわらぬ」
「上様に小姓見習いとして使えた幼少の時より早十余年。
上様の生きざまを誰よりも近くで見ておりました。
もう私は上様無しでは生きれぬ身なれば、上様と共に逝きたいのです」
「蘭、余は、まだ若いお主には、祐筆の牛一と共に『計画』後も生き残り、この世の行く末を見届けてほしいと思っていたのであるが……」
「上様、私を一人にしないでください。あなた以上の……」
「であるか……お主の好きにするがよいであるぞ」
信長はふと悲しい顔をした。
「光秀、信忠、……蘭丸」信長は、仏陀の絵の前に再び立つと告げた。
「――今よりエヴァンゲリオン計画を始動する。
その為に余は、命を捨てる。
……そしてお主たちの命をも、その使命の為に余が頂く――」
次回、
計画を実行するために信長自身以外にも、
光秀、信忠、蘭丸の命を必要とする、この計画とは一体なんなのか……?
最後に……
光秀、信忠、お主らに渡したい物がある」
織田信長はそういうと、天主最上階『黄金の間』を出て、朱色の階段を降りていった。
階下の、そう五階の部屋は――
周りの窓か全て閉められいるため部屋が――薄暗い。
しかし、沢山の銀の燭台が縦横に並べられ、その上で蝋燭ろうそくがゆらゆらと部屋を灯しながら揺れていた。
「――上様」
森蘭丸が声をかけながら、部屋に入って来た。
あとから、明智光秀と織田信忠もついてくる。
――信長はその部屋の一番奥に行くと振り返った。
その背後には――
悟りを開いた釈迦、つまり仏陀が弟子たちを集め仏法を伝授している絵が描かれてある。
そうここは『仏陀と弟子の間』である。
その仏陀の顔が明々と蝋燭の光で照らし出される絵の前に、悠然と立つ信長の前には――
腰ぐらいの高さがある、赤い布を被せた――
机が置かれてある。
「蘭!」
「はい」
蘭丸は、用意していた装飾された銀製のトレーを運んできて、信長の前の机においた。
銀製のトレーの上には何か乗っているようだが、上から布をかけられていて、解らない。
「では、始めるとするか――」
信長は、赤い布に覆われた机を挟んで、向かい合って一列に並んでいる――
左から蘭丸、信忠、光秀を順番に見終わったあと、頷いて――
「余は、この乱世に終止符を打つために生まれてきた者である」
「はい、仰せの通りです」一同、声を揃える。
「そして――余は、乱世を再び起こさぬために、そう泰平の世の礎を築くために死にゆく者でも……ある」
信長が、語尾を言い淀んだのは、信長が死を恐れたから……では決して無かった。
それは、向かい合って立つ蘭丸の瞳からツーと涙がなん筋も顔をつたっているからである。
「蘭!」
「上様すいません」
蘭丸は涙を拭いもせず、「この儀式を成されるということは、
『福音書』計画を近いうちに成遂げられることを、上様が最終決断された証し」
「である」
「私は上様の……民のために、救世主になられるお考えを、とても素晴らしいことだと感じております」
「であるか」
「はい、けれども、私個人の思いとしては、やはり上様が……」
「……」信長は蘭丸の所に行って、指で涙をぬぐってあげた。
「蘭よ、余がこの世を去ることを泣いてくれるのか」
「上様、私はやはり、上様と別れることなどできませぬ」
「気持ちは有り難いであるが、余は命を捨てると決めた。
……それは、もうかわらぬ」
「上様に小姓見習いとして使えた幼少の時より早十余年。
上様の生きざまを誰よりも近くで見ておりました。
もう私は上様無しでは生きれぬ身なれば、上様と共に逝きたいのです」
「蘭、余は、まだ若いお主には、祐筆の牛一と共に『計画』後も生き残り、この世の行く末を見届けてほしいと思っていたのであるが……」
「上様、私を一人にしないでください。あなた以上の……」
「であるか……お主の好きにするがよいであるぞ」
信長はふと悲しい顔をした。
「光秀、信忠、……蘭丸」信長は、仏陀の絵の前に再び立つと告げた。
「――今よりエヴァンゲリオン計画を始動する。
その為に余は、命を捨てる。
……そしてお主たちの命をも、その使命の為に余が頂く――」
次回、
計画を実行するために信長自身以外にも、
光秀、信忠、蘭丸の命を必要とする、この計画とは一体なんなのか……?
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