上 下
171 / 310
第七章『愛宕百韻』と光秀謀反の句の謎

58 『これはミスなのか?、ミステリーなのか?』

しおりを挟む
愛宕百韻、『九十九句問題』を考察する。


……何故、『愛宕百韻』の各『写し』によって内容がこうも違うのか?


愛宕百韻に限らず、古典の写しは、そう昔は印刷機が無い以上――

つまり人間の手で書き写すしかない以上、誤字脱字等、原本と違ってくるのは、よくあることではある。


例えばある原本の写しは、写しによって同一箇所が漢字表記であったり、平仮名表記であったり脱字があったりするのはよくある。


……しかし、である。


愛宕百韻は、百韻連歌興行なのは当たり前の中の当たり前の事なのだ。

つまり、歌が百句あるのが当たり前なのに、一句足らずでは九十九韻なのにである。


そう、写す作業をした者が、人間だから書き写し間違える可能性はあるとしても、一句足りないという大問題に気付かない、こんな初歩的なミスをするのだろうか?


何故書き写した者は、百句しっかりと数えなかったのか?


いや、例えば拙者が何の文献を引用するために、文献を写しても、……写し間違いはある。


しかし、古典の写しをその古典の記された時代に作成する場合、そもそもその古典自体が一冊しか無い場合が多い訳で、そんな大切な古典を一般の誰も彼もが手に入れたり触ることすら到底無理な話である。


――そう、それを写す者も、相当の知識技量が無い者ではないと、そもそも依頼されることもないのである。

だいたいは、日本の場合は、日本の知識階級である仏僧か公家の場合が多い。


つまり、ある原本を写したいと思っても、そもそも原本を託せるような信頼できる知識者と認められた者しか、写すことは通常できないのである。


ということで、誤字脱字とかでは無く、百韻連歌が九十九韻しかない……

こんな大きなミスを、果たして写した知識人がするのだろうか?

ということである。


そう、そこに「これは人間のミスではないかも知れない」という発想か生まれてくる発想の根拠があるのだ。


そして、これが人間のミスではないとしたら……

そう、写した本人かまたは写しを依頼した者が、意図的に原本と違うものを作成した、させたのではないか?

ということである。


――そしてその考察では、反対の結論も出せる。


そう、そもそもこの『愛宕百韻』は、やはり九十九韻しかもともと存在しなかったのではないのか?


それを例えば誰かが『本能寺の変』の後に、書き替えて、つまり一句足して百句ある写しを製作したのでは?

ということである。


……そうすると、写しを偽造したにしても、そもそも原本を一句足らずにしたとしても、それが意図的行為であると仮定するのならば――


……つまり、それが誰の意図的行為なのか?

……そして、何のための意図的行為なのか?


その答えが必ずこの歴史上に存在することになる。

(……もちろんそれを発見できるかは別として。)



――ということで、拙者としては、以上の考察から、

“一句足らず”は、『ミスではない!』と断定させて頂きます。



――次回、ミスではないなら、さらなる謎が生まれる。


何故、何のために、そして誰がそうしたのか……?



この『歴史ミステリー』に拙者が挑んでいきます!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

信長の秘書

にゃんこ先生
歴史・時代
右筆(ゆうひつ)。 それは、武家の秘書役を行う文官のことである。 文章の代筆が本来の職務であったが、時代が進むにつれて公文書や記録の作成などを行い、事務官僚としての役目を担うようになった。 この物語は、とある男が武家に右筆として仕官し、無自覚に主家を動かし、戦国乱世を生き抜く物語である。 などと格好つけてしまいましたが、実際はただのゆる~いお話です。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

大罪人の娘・前編 最終章 乱世の弦(いと)、宿命の長篠決戦

いずもカリーシ
歴史・時代
織田信長と武田勝頼、友となるべき2人が長篠・設楽原にて相討つ! 「戦国乱世に終止符を打ち、平和な世を達成したい」 この志を貫こうとする織田信長。 一方。 信長の愛娘を妻に迎え、その志を一緒に貫きたいと願った武田勝頼。 ところが。 武器商人たちの企てによって一人の女性が毒殺され、全てが狂い出しました。 これは不運なのか、あるいは宿命なのか…… 同じ志を持つ『友』となるべき2人が長篠・設楽原にて相討つのです! (他、いずもカリーシで掲載しています)

異・雨月

筑前助広
歴史・時代
幕末。泰平の世を築いた江戸幕府の屋台骨が揺らぎだした頃、怡土藩中老の三男として生まれた谷原睦之介は、誰にも言えぬ恋に身を焦がしながら鬱屈した日々を過ごしていた。未来のない恋。先の見えた将来。何も変わらず、このまま世の中は当たり前のように続くと思っていたのだが――。 <本作は、小説家になろう・カクヨムに連載したものを、加筆修正し掲載しています> ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。 ※この物語は、「巷説江戸演義」と題した筑前筑後オリジナル作品企画の作品群です。舞台は江戸時代ですが、オリジナル解釈の江戸時代ですので、史実とは違う部分も多数ございますので、どうぞご注意ください。また、作中には実際の地名が登場しますが、実在のものとは違いますので、併せてご注意ください。

処理中です...