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第七章『愛宕百韻』と光秀謀反の句の謎

28 『ホトトギス』

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○引き続き光秀の読んだ句を中心に、どんどん解釈していきます!


25 泊瀬路やおもはぬ方にいざなわれ  心前


――この句は、拙者の推察では――

『万葉集』の柿本人麿の一首、


 隠口こもりくの泊瀬はつせの山の山の際まに

   いさよふ雲は妹いもにかもあらむ


《訳》


隠り国の泊瀬の山のあたりに漂っている雲は、あの妹であろうか。


――という「泊瀬」という地名を詠んだ古典の句からの引用だと感じます。連歌は上級者のテクニックとして、古典からの引用がよくありますので。

そうすると、この句の「雲」とは、

亡くなった妹を“火葬した煙”、それを雲と例えている歌なので――


つまり、25の句は――

「火葬した煙は思わぬ方へ誘われた」となる。


26 深く尋ぬる山ほととぎす      光秀


――この句、ホトトギスと聴くと歴史好きには、


鳴かぬなら 殺してしまおう ホトトギス  信長

鳴かぬなら 鳴かしてみせよう ホトトギス 秀吉

鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス  家康


という戦国三英傑の三人を比較する、この句を思い出しますね。

この場合、ホトトギスは「天」とか、「天下」と捉えると理解しやすいです。


天が余の望みを叶えんなら、そんな天は滅ぼしやる!

――by信長


天が儂の望みを叶えんなら、叶える天に変えてやろう!

――by秀吉


天が儂の望みを叶えんなら、叶えてくれるまで生きて待つのみじゃ!

――by家康


見たいな感じですね。

もし、この天下人の句に、“三日天下”と言われる光秀もいれるとしたら――


 鳴かぬなら 尋ねてみよう ホトトギス  光秀


こんな感じでしょうか。なんだか、本能寺の変の後――

天下は取ったが、そのあと何をしていいのか右往左往している印象にも感じます。

それにしても、光秀は山ホトトギスに、何事を深く尋ねたのでしょうか?

――もちろん、“事の成否”だと拙者は解釈しますが。


また25の上の句と26の下の句を合わせると――


 泊瀬路やおもはぬ方にいざなわれ

 深く尋ぬる山ほととぎす


となり、

本能寺が炎上した煙、つまりそう織田信長が犠牲になることで、戦乱の今では予想できない《平和な世》へ誘われる。

――その為に、私(光秀)は、上手くやれるだろうか?

と、ホトトギス=“天”に尋ねてみた。

となる。


32 うらめづらしき衣手の月      行祐


「衣手」は、衣類の袖の意。

ただこの句は歌枕としてよく使われる「衣手の森」という地名ととると真意が解ります。


そう今、拙者がリアルタイム研究・執筆していて驚いたのですが――

この『衣手の森』の歌枕の使用例として、かの有名歌人・藤原定家が詠んだ歌があるのです。

読者様も次の歌を読んだら、びっくりすると思います。


 ほととぎす声あらわるる

   ころもでのもり(衣手の森)の雫を涙にやかる


これは藤原定家の私撰集『拾遺愚草』にのる和歌なのですが、

現在のところ訳文が見つからないので、浅学の拙者ですが挑戦してみます。


ホトトギスの鳴き声が聴こえる衣手の森、その葉に落ちる雨や朝露の雫を涙とみてしまう。


多分、こんな感じの訳になると思いますが――

「鳴き声=泣き声」と「涙」という悲しい言葉が二回出てくるので、この和歌は「悲しみの歌」「悲しい心情を吐露した歌」であると感じます。

また「衣手」「衣手の森」という言葉は、和歌によく使われるのに、何故32の句が、藤原定家のこの歌を引用したと推察できるのか?というと――

定家の歌に「ほととぎす」という言葉があるからです。

そうこの連歌興行で主賓である明智光秀が前に、

そう26句で『山ほととぎす』と詠んでいるのに応えて――

またその句を詠んだ光秀の心情をも汲み取って――

連歌会の主催者である行祐が詠み上げた句だからです。

そう連歌は場の流れも大切にしますし、また主賓の句をピックアップしているので、主賓の光秀を立てているのを感じます。


――ということで、32の句は、

『うらめづらしき衣手の月』ですので――


「月」を満月=成功とすると、

信長様が自らを犠牲にするという、特異な行為をなされる。

もちろん成功を祈っておりますが、月を見上げると――

それが信長様との今生の別れかと思い……

悲しみの涙で袖を濡らしてしまう。

となる。



――ということで、《信長公認》の連歌会なので、その出席者も『親信長派』として詠まれた句を推察してみると、新しい発見がどんどん出てきます。



……ということで、次回


まだまだ連歌解釈続きます!



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