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第五章『天下布武』

3『平安楽土』

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○もう一つの平安京


信長は、天下布武の根拠地岐阜を出てから、近江・伊勢・京周辺と着実に支配地域を増やしていった。


とくに千年の長きにわたりこの日本の首都であった京の都は、当然信長にとっても最重要拠点の一つなのである。


そこで岐阜と京の間の中間点に新たな活動拠点を創ることにした信長が、目をつけたのが――

近江の琵琶湖東岸の地『安土』であった。

この地は北陸街道が通る交通の要所で、越前の大名上杉謙信への抑えとして重要地点である。


またそれ以上に当時活発であった琵琶湖の水運を利用し、琵琶湖西岸の特に京地区に速やかに人・物を移動する拠点である。

当時は、天下布武の首都のランドマークタワーである安土城がある、安土山の西側山麓まで――

琵琶湖の水域があったのでとても水上交通に便利で、

第35話『海を歩いた男』(信長)の信長の大船による奇跡の“神速移動”が可能だったのも、信長がこの地に目をつけたからであった。


もとよりこの周辺で以前より安土と呼ぶ小字程度の小地域もあったらしいのだが、

信長が天下布武の拠点・首都とするに及んで――

新たに安土という名前をピックアップして、天下布武の首都の地名として――大々的にこの安土という地名を日本中に広めた。


というのはこの安土という地名――

信長が的発想で読み解くと、


《平安楽土》


からとった地名になるからだ。(『逆説の日本史』参考※諸説あり)


平安楽土といえば、当時の首都にして千年の都『平安京』の名前の由来となった言葉である。

また当時の人々も認識していた事実であり、その千年の都と同じ言葉をあえて使って天下の首府名として命名するところに――

信長の熱き意志が込められていると感じてならない。


つまり、天皇という神を中心とする朝廷勢力を旧勢力の代表とするなら、

織田信長は新たな新世界の秩序を、この安土という平安楽土から始めると宣言したのである。


先程紹介した『岐阜』という名前も、もとより古来その場所を、「川を分岐する場所」からいわゆる文学で使う雅号として、岐阜のように“岐○”とつけた名前で呼ぶ場合があった。


それが沢彦宗恩の進言により候補地名となった理由は――

中国の周王朝か岐山から出て天下を取った故事から《岐》の文字が真に縁起よくて選ばれた。

それにより岐阜、岐陽、岐山という沢彦があげた三つの候補地名の中から――

小高い山を意味する《阜》も、儒教の祖・孔子の生誕の地『曲阜』に通じるとして、信長に選ばれ名付けられたものである。(『安土創業録』等)


――このように信長は、地名を天下布武の推進のために重要なことだと考えている。

地名を新たに大々的に名付け直すことで、

そう『岐阜』や『安土』というとっても縁起が良い地名を首府名にすることで、新しい支配者は、国民目線の政治を行うとアピールすることができるのであった。


そう何故ならーー


始めに言葉があった。
(『ヨハネによる福音書』)


そう、活動を成功させるためには、行動と共にそれを広める言葉――

そう宣伝の必要性も信長は理解していたからだ。


そう何故なら、ネットも新聞も無い時代に、

地名を変えることは、最高の伝達手段であり――

そうつまりは、日本中に天下布武の理念・理想を伝える宣伝になるからであった。


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