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逃亡失敗
壊せた檻
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先輩は今、掘っ立て小屋にいる。
あの爆発がいつ起こっても被害が少ないようにと城から離れた無人エリアの敷地に建てられた。
その小屋から離れた場所に円を描いて囲むように魔術師が立っている。先輩を監視する役割として。
先輩とはあれから会っていない。
一緒に小屋に行こうと懇願されたが、いろいろ理由をつけてなんとか断った。
新しい転移者の召喚に成功したこと、未知の能力であるが戦力と成り得ることを、各戦地や辺境伯などに手紙を送る仕事があると伝えた。
しかし、先輩は異世界での俺の仕事など知らないから、理解が得られそうになかった。
だから言ってしまった。
能力操作が行えれば一緒に住もう、と。
知らない異世界で心細かったところに先輩が現れた、とても嬉しい再会であり見知らぬ土地で同じ転移者同士生活を共にしたい。
だが危なっかしい能力では安心して暮らせない、力をコントロールできたら一緒に住み始めたい。
それまでに、家の手配や荷物の支度をする準備の時間がほしい…。
以上を伝えた。
先輩は踊る勢いで喜んだ。
以前の世界での希望が転移後に叶ったのだから、それはそれは嬉しかっただろう。
俺にとっては単なる時間稼ぎのつもりだった。
先輩がこちらの世界に来たことの現実逃避をする時間が欲しかった。
こんな騒ぎを起こしとしてお咎めなしとはならないだろうと踏んでいたのだ。
だって王太子も意識を失っていたんだぞ。
しかし、それは希望的観測でしかなく、結果的に先輩は異世界に残ることになったが…。
喜んだ先輩は、「確かに。今の俺じゃコウが危ないね。コウの身に何かあったら困るもん。ナニかはしたいけど…。」ともっともらしく言った。
そして、「一旦離れるとして、コウの全身を見してくれ。どこか怪我していないか心配なんだ。」と、願望を露わにした。
俺は潔く服を脱いだ。
後ろに観客がいるが男同士で躊躇するのも面倒だと思ったのだ。
先輩は「シャルくーん、みんな後ろ向くように言ってー!」と人払いしていたが。
そのあとジロジロと全身隈なく、脇の下まで先輩に見られること数分。満足したように先輩は騎士たちに連れられていったのだ。
もちろん王子と宰相は引いていた。
―――――
「コウーーッ!」
小屋に着けば、先輩が外に浮いていた。
相変わらず、眩しい笑顔だ。白い歯が太陽に照らされてCMの一場面のようだった。
「やっと、来てくれたー!
会いに行きたかったんだけど、なんか結界?みたいなのに弾かれちゃってさ。ここから出られないんだよ~。
スマホないから連絡もできないし。まあ、楽しみあるから耐えたけど!」
「…元気そうっすね。」
「元気に決まってるよ!
もう力抑えられるようになったから、この中入って!
これ(結界)外せって言ってるのに、全然みんな聞いてくれなくてさー。
このままだと、また爆発しちゃうよって王子に伝えたところだったんだよね。」
先輩が指先で突くと、周りの風景が歪んだ。きっと魔術師が張っている結界を触っているのだろう。
結界ギリギリのところで先輩はこちらを招いている。
「…まるで、檻の中の獣ですね…。」と宰相が耳打ちしてきた。
このまま檻の中に入っていてくれ。
「ウィル宰相、入られますか?」
魔術師の男性が言った。
「王子の頼みですからね…。
どれほど、力が抑えられるようになったのか、見せて頂けますかー!?」
宰相は先輩に向かって大きな声で問いかけた。
「うん、いいよー!」
先輩は初めて地面に足を付けた。
周りについていたブヨブヨとした空間の歪みが、両手に集中していく。
形が円形に定まったあと、体の中心に集まって一つになった。
そこから、先輩の胸部から離れて円形の球になる。
ホイッと先輩が掛け声と右手人差し指を上に向かって動かすと、球は勢いよく上昇した。
ッパン!
空の結界とぶつかって、結界と球の双方が弾けた。
「いらっしゃい。
何もないけどゆっくりしていってね。」
結界がなくなって、先輩は俺に手を伸ばし微笑んだ。
先輩から伸ばされた手を拒むことはできなかった。
結界をいつでも壊すことができたのに、この男はわざわざ俺たちが来る前まで隠し、目の前で壊して見せたのだ。
拒否してはこの場の人たちがどうなるか分からない、空気で感じた。
手を握ると先輩は嬉しそうに微笑む。
「結界、壊せるんすね…。」
「うん!でもせっかく作ってくれたのに壊しちゃ悪いかなって思って待ってたんだ。
今日コウを連れてこなかったら、壊すつもりだったけどね。」
魔術師が唾液を飲み込む音が聞こえた。
そこから、俺は宰相と招かれるまま小屋に入った。
「なんすかこれ。」
どう考えてもこの時代にないはずのテレビや冷蔵庫、自動お掃除ロボット、洗濯機の数々が綺麗に並んでいることだ。宰相の顔を見れば?マークが浮かんでいる。
「あ!どうどう?早く見せたかったんだよね~。現代機械勢揃い!」
「これ、どうやって…。」
「んー、イメージすると作れるよ。」
あの爆発がいつ起こっても被害が少ないようにと城から離れた無人エリアの敷地に建てられた。
その小屋から離れた場所に円を描いて囲むように魔術師が立っている。先輩を監視する役割として。
先輩とはあれから会っていない。
一緒に小屋に行こうと懇願されたが、いろいろ理由をつけてなんとか断った。
新しい転移者の召喚に成功したこと、未知の能力であるが戦力と成り得ることを、各戦地や辺境伯などに手紙を送る仕事があると伝えた。
しかし、先輩は異世界での俺の仕事など知らないから、理解が得られそうになかった。
だから言ってしまった。
能力操作が行えれば一緒に住もう、と。
知らない異世界で心細かったところに先輩が現れた、とても嬉しい再会であり見知らぬ土地で同じ転移者同士生活を共にしたい。
だが危なっかしい能力では安心して暮らせない、力をコントロールできたら一緒に住み始めたい。
それまでに、家の手配や荷物の支度をする準備の時間がほしい…。
以上を伝えた。
先輩は踊る勢いで喜んだ。
以前の世界での希望が転移後に叶ったのだから、それはそれは嬉しかっただろう。
俺にとっては単なる時間稼ぎのつもりだった。
先輩がこちらの世界に来たことの現実逃避をする時間が欲しかった。
こんな騒ぎを起こしとしてお咎めなしとはならないだろうと踏んでいたのだ。
だって王太子も意識を失っていたんだぞ。
しかし、それは希望的観測でしかなく、結果的に先輩は異世界に残ることになったが…。
喜んだ先輩は、「確かに。今の俺じゃコウが危ないね。コウの身に何かあったら困るもん。ナニかはしたいけど…。」ともっともらしく言った。
そして、「一旦離れるとして、コウの全身を見してくれ。どこか怪我していないか心配なんだ。」と、願望を露わにした。
俺は潔く服を脱いだ。
後ろに観客がいるが男同士で躊躇するのも面倒だと思ったのだ。
先輩は「シャルくーん、みんな後ろ向くように言ってー!」と人払いしていたが。
そのあとジロジロと全身隈なく、脇の下まで先輩に見られること数分。満足したように先輩は騎士たちに連れられていったのだ。
もちろん王子と宰相は引いていた。
―――――
「コウーーッ!」
小屋に着けば、先輩が外に浮いていた。
相変わらず、眩しい笑顔だ。白い歯が太陽に照らされてCMの一場面のようだった。
「やっと、来てくれたー!
会いに行きたかったんだけど、なんか結界?みたいなのに弾かれちゃってさ。ここから出られないんだよ~。
スマホないから連絡もできないし。まあ、楽しみあるから耐えたけど!」
「…元気そうっすね。」
「元気に決まってるよ!
もう力抑えられるようになったから、この中入って!
これ(結界)外せって言ってるのに、全然みんな聞いてくれなくてさー。
このままだと、また爆発しちゃうよって王子に伝えたところだったんだよね。」
先輩が指先で突くと、周りの風景が歪んだ。きっと魔術師が張っている結界を触っているのだろう。
結界ギリギリのところで先輩はこちらを招いている。
「…まるで、檻の中の獣ですね…。」と宰相が耳打ちしてきた。
このまま檻の中に入っていてくれ。
「ウィル宰相、入られますか?」
魔術師の男性が言った。
「王子の頼みですからね…。
どれほど、力が抑えられるようになったのか、見せて頂けますかー!?」
宰相は先輩に向かって大きな声で問いかけた。
「うん、いいよー!」
先輩は初めて地面に足を付けた。
周りについていたブヨブヨとした空間の歪みが、両手に集中していく。
形が円形に定まったあと、体の中心に集まって一つになった。
そこから、先輩の胸部から離れて円形の球になる。
ホイッと先輩が掛け声と右手人差し指を上に向かって動かすと、球は勢いよく上昇した。
ッパン!
空の結界とぶつかって、結界と球の双方が弾けた。
「いらっしゃい。
何もないけどゆっくりしていってね。」
結界がなくなって、先輩は俺に手を伸ばし微笑んだ。
先輩から伸ばされた手を拒むことはできなかった。
結界をいつでも壊すことができたのに、この男はわざわざ俺たちが来る前まで隠し、目の前で壊して見せたのだ。
拒否してはこの場の人たちがどうなるか分からない、空気で感じた。
手を握ると先輩は嬉しそうに微笑む。
「結界、壊せるんすね…。」
「うん!でもせっかく作ってくれたのに壊しちゃ悪いかなって思って待ってたんだ。
今日コウを連れてこなかったら、壊すつもりだったけどね。」
魔術師が唾液を飲み込む音が聞こえた。
そこから、俺は宰相と招かれるまま小屋に入った。
「なんすかこれ。」
どう考えてもこの時代にないはずのテレビや冷蔵庫、自動お掃除ロボット、洗濯機の数々が綺麗に並んでいることだ。宰相の顔を見れば?マークが浮かんでいる。
「あ!どうどう?早く見せたかったんだよね~。現代機械勢揃い!」
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「んー、イメージすると作れるよ。」
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