14 / 19
14.仁・白兵戦①
しおりを挟む部屋を出るとエレベーターに乗せられ、屋上のヘリポートへ連れていかれた。いつぶりかもわからない地上に出ると、空は朱く染まりかけていた。潮の匂いがまじる風が吹き抜けて、仁の頬をなぶる。ああ、風だ。外だ。空調越しではない、生きた空気を腹の底まで吸い込んだ。沈みかけた太陽すら眩しく感じる。
「こっちだ。来い」
桐島に叱咤され、仁は久しぶりの外の感覚を味わう暇もなくヘリコプターに詰め込まれた。桐島は「直接、学園のヘリポートにお前を降ろす」と言った。
「正面は生徒がバリケードを敷いている。無駄な戦闘は避ける。情報によれば、伊原春花は校舎内から出ていないらしい。学園内の地図を渡しておく。頭に入れておくように」
「……はい」
学園の地図を渡されながら、そういえば自分も普通の超能力者だったなら、ここに通っていたはずなんだなと思う。おかしな気分だ。
同じ島内だけあって、学園にはすぐに到着した。夕暮れに染まる屋上に、数人の生徒達が見える。ヘリコプターが近づいているのに、まったく退く気配がない。あれでは着陸できないと思っていると、不意にガクンと大きくヘリコプターが傾いた。パイロットが怯んだように叫ぶ。
「桐島大尉! プ、プロペラが止まりました!」
「 抑制装置を使え」
「は、はい!」
パイロットが何か操作すると、ヘリコプターから超能力をジャミングする電波が発せされた。島内のあちこちに設置されている抑制装置の小型版だが、止められたプロペラを再稼働させるくらいは問題ないようだ。再びヘリコプターが浮上し始める。桐島は無線機で「正門待機班」と呼びかけた。
「宍倉仁を連れて来たことを、対象に伝えるように言ったはずだが」
『――現在、対象を発見できておりません。対象の生命エネルギー派は学園を完全に包み込んでおり、学園内にいる超能力者達と同化していて判別のつかない状況です。その中で濃いエネルギー反応をいくつか確認中ですが、職員も含まれるため人数が多く……』
「残りのポイントはどこだ」
『データを送信します』
ジジッというノイズと共に、そんな返答が聞こえてくる。桐島はため息をつくと、ヘリコプターに搭載されていたアタッシュケースを開いた。中から出てきたのはハンドガンだった。
「持っていけ。射撃の授業は受けただろう」
「俺に、人を撃てと言うんですか」
「中身は麻酔弾だ。お前はまだ能力を使いこなせていない。こっちの方がマシだ」
仁は銃を受け取り、ホルダーにしまった。桐島が手早く、ロープ状のハシゴを垂らす。
ロープは風に煽られ、見るからに不安定な上に、屋上まで届いていない。最後は飛び降りなければいけなさそうだった。桐島がさっさと先を行くので、仁も覚悟を決めてロープを掴む。
ハシゴの中腹まで進んだところで、桐島が飛び降りた。そして屋上に着地をするなり、生命力を奪うMUの波動が発動する。 抑制装置のような、模造品の電波じゃない。危険すぎて世界中で国家機密となっている波動である。
生徒達がドミノ倒しのようにバタバタと倒れていく。仁も屋上に飛び降り、桐島に駆け寄った。
「何も皆殺しにしなくたって……!」
「殺しちゃいない。操り人形の糸を切っただけだ」
倒れた生徒は死んでいるようにも見えたが、胸は上下していた。桐島が言う。
「おまえも地下の隔離部屋を出たければ、波動の出力調整をさっさと身に付けることだな」
「波動が漏れ出さないよう、制御する方法ならもう身に付けてます」
「実戦で使えないようなら話にならん。……ここから一番近いエネルギー反応は、この真下の階にある角部屋だ。ついてこい」
倒れた生徒を放置しておくのは気になったものの、今は勇が最優先だ。仁は「はい」と返事をして、桐島とともに昇降口へ駆け出した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
コドク 〜ミドウとクロ〜
藤井ことなり
ミステリー
刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。
それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。
ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。
警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。
事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

後宮生活困窮中
真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。
このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。
以下あらすじ
19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。
一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。
結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。
逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる