上 下
197 / 229
最終章 決戦!『デスティウルス』編

『リルヴァ』との戦い2 〜首都『カームクラン』視点〜

しおりを挟む
 ヒュオオオ・・・。

(なんだろう・・すごくがする・・)

 リルヴァが『カームクラン』を襲撃し始めたのと同じ時・・。

『霊峰』の頂で『聖斧レガリア』を手にした事で『女神化』を果たしたシエラは、なんとも言えない胸騒ぎを感じていた。

 それが、『邪神』を討伐するために備わった『女神』としての本能であるのかは定かではなかった。

 そして、シエラは胸騒ぎがする方角に向かって意識を集中する。

 それは、『カームクラン』がある方角であった。

 ギュウウン!!

「!?」

 シエラは意識を集中した瞬間に自分の視界が変化したことに驚愕する。

 今現在、シエラの視界には吹雪の向こう側であり十キロ程離れている『カームクラン』上空の様子が鮮明に映っていた。

 そして、そこには地上を蹂躙する『邪神』の姿があった。

 視界が悪い中、それ程距離が離れたものを目視することなど常人には到底不可能である。

 しかし、『女神化』を果たしたシエラの身体能力は格段に上昇しており、彼女は脳内で無意識に光魔導を発動させて遠くの景色を認識していた。

「あれは・・『邪神』!!」

 ギリッ・・。

 突如目の当たりにした絶望的な光景によって、思わず『聖斧』を握るシエラの手に力が込められた。

(今、ハーティーさん達は『女神教会』の話によると『エルフの国リーフィアへ向かっている筈・・いや、ハーティーさん達ならすでに到着してなんらかの行動を起こしているかも・・少なくとも『アーティナイ連邦』にはいない筈よね・・?だとすれば・・『カームクラン』が危ない!!)

 もっと言えば『王都イルティア』や、シエラの住んでいる『帝都リスラム』も現在『邪神』の脅威に晒されているのだが、その事を現在シエラが知る術は無かった。

(『聖斧』レガリアに呼ばれたのはこのことを予見していたから!?それとも偶然?)

(・・いずれにしても、今『邪神』に対抗しうることができるのは・・しかいない!)

「とは言っても、私はしがない宿屋の娘・・本当に『邪神』と戦うことができるかな・・・」

 不安に駆られたシエラは無意識に自分の胸元に落ちる『女神ハーティルティア』のペンダントを握りしめる。

 すると、シエラは不安で満たされた心が澄み渡るような気持ちになった。

「・・けど、ハーティーさんに二度も救われたこの命・・この世界を救おうとしているハーティーさん達の為に、決して無駄にはしない!!」

 ゴオォォォ!!

 直後、更に輝きを増したシエラのマナが溢れ出す。

「・・待っていて!『カームクラン』に住まう皆さん・・今、『聖騎士』シエラが助けに行きます!!」

 ドォドォォォォォン!

 そして、『邪神』に立ち向かう決意をしたシエラは『聖斧レガリア』を携えながら、猛烈なスピードで『霊峰』から飛び立った。



 ・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・。



「うわぁぁ!落ちるでござるよ!!」

『ブースト』の効果がある為、跳び上がったあとは普通に着地したら良いと踏んでいたハンゾウは、突如現れた『奈落』に向かってなす術もなく落ちていく。

「ここまででござるか・・」

 そして、自らの死を覚悟したハンゾウは静かに目を閉じた。

 ブワッ!!

 その時、落下するハンゾウに向かって突如強烈な上昇気流が当たり、その身体を再び高く舞い上げた。

「っ!?これはクウゼンの『エアウィンド』でござるな!!」

 自分を救った気流の正体を知ったハンゾウは、クウゼンの方に視線を向ける。

 クウゼンは『奈落』の範囲外からハンゾウに錫杖を向けていた。

「助太刀感謝するでござるよ!」

 ダアァン!

 ハンゾウは聞き取ってもらえるかはからないがひとまずクウゼンに礼を言いながら、まだ完全に『奈落』に飲まれていない家屋の屋根に無事着地した。

 シュタ!シュタ!シュタ!

 そして、ハンゾウは沈み行く複数の家屋の屋根を器用に渡り歩きながら、やっとの思いで『奈落』の効果範囲から脱出した。

「なんだか最近空中戦ばっかりですね・・・しかも、今回は地上に降りたら即『失われた神界ヴァルハラ』行きです」

「それはそれで悪くはないですが、ほむらはまだ現世を楽しみたいです!」

 ドォォン!!

 ほむらは一人でぼやきながら、再びリルヴァへと跳躍する。

 ビシュシュシュシユ!!

 直後、リルヴァは跳躍するほむらに向かって複数の触手を鞭のようにしならせながら伸ばした。

 バシュウ!!

 バシュウ!!

 ほむらは迫り来る触手を、射出したワイヤーで自身の軌道を巧みに変化させながら回避する。

 しかし、回避しきれないものがいよいよほむらへと迫ろうとしていた。

 ジャキン!!

「忍刀術!『鎌鼬かまいたち』!!」

 シュババババッ!!

 ほむらはそれを、二刀流による目にも止まらぬ速さの刀捌きで斬り刻んで対処した。

 シュタッ!

 しかし、触手を回避したことによってリルヴァ本体に到達できなかったほむらは、再び家屋の上へと着地することになった。

 そして、着地したほむらの方へ再び触手が迫ろうとしていた。

「くっ!このままではジリ貧です!!」

 ほむらは悔しさに歯を食いしばりながら、迫り来る触手に対処すべく再び双剣を構える。

 ドゥルルルル!!

「っ!あれは!!」

 しかし、ほむらに襲い掛かろうとしていた触手は、突如飛来した弾丸の嵐よって弾かれた。

 ドゥルルルル!!

「お"の"れっ!小癪な"あ"!」

 そして、止むことのない弾幕はリルヴァの動きを妨げ始めた。

 その弾幕が味方の攻撃だと判断したほむらは背後に目を向ける。

 すると、ほむらの視線の先、『奈落』の範囲よりも遥か遠い場所に、魔導高射機関砲が鎮座しているのが小さく見えた。

 そして、その周りには、連邦軍が集結しつつあった。




 ・・・・・。
 ・・・・・・・・。

 ドゥルルルル!!!

「ヒャッハー!弾はまだまだありますぞ!!撃って撃って撃ちまくるのです!!」

「今回の魔導高射機関砲はのとは違いますぞおおお!!」

 けたたましい発砲音が響き渡る中、ほむら達へ援護射撃をしている魔導高射機関砲の側で、壮年の美丈夫が大声で叫びながら目を血走らせていた。

 そして、その様子をミウとシゲノブ、連邦軍の兵士達が唖然とした様子で見ていた。

「・・・シゲノブ殿、マルコは気でも触れたのかえ??」

「いや・・某も少々驚きを隠せないのだが・・・」

 ドゥルルルル!!

「ふはははは!『邪神』の好きにはさせませぬぞ!この街にはハーティー様やクラリス様達が生み出した魔導具財産がたくさんあるのです!やらせはしませんぞおお!さあ!皆さん!今回弾丸はです!砲身が焼き切れるまで撃ちますぞお!」

「マルコ殿!その弾丸は付与した魔導を発動させる為に魔導結晶が組み込まれているのだぞ!?一体一発いくらすると・・・ああ、仕方ないとはいえ軍の予算が・・・」

 シゲノブはの弾を発射する魔導高射機関砲を眺めながらオロオロしていた。

「・・・まあその予算を決めるのは主に妾なんじゃがな・・」

 ミウは無事に今回の戦いが終わった後、どうやって議会を説得しようかと頭を抱えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

酔っぱらった神のせいで美醜が逆転している異世界へ転生させられた!

よっしぃ
ファンタジー
僕は平高 章介(ひらたか しょうすけ)20歳。 山奥にある工場に勤めています。 仕事が終わって車で帰宅途中、突然地震が起こって、気が付けば見知らぬ場所、目の前に何やら机を囲んでいる4人の人・・・・? 僕を見つけて手招きしてきます。 う、酒臭い。 「おうおうあんちゃんすまんな!一寸床に酒こぼしちまってよ!取ろうとしたらよ、一寸こけちまってさ。」 「こけた?!父上は豪快にすっころんでおった!うはははは!」 何でしょう?酒盛りしながらマージャンを? 「ちょっとその男の子面くらってるでしょ?第一その子あんたのミスでここにいるの!何とかしなさいね!」 髪の毛短いし男の姿だけど、この人女性ですね。 「そういう訳であんちゃん、さっき揺れただろ?」 「え?地震かと。」 「あれな、そっちに酒瓶落としてよ、その時にあんちゃん死んだんだよ。」 え?何それ?え?思い出すと確かに道に何か岩みたいのがどかどか落ちてきてたけれど・・・・ 「ごめんなさい。私も見たけど、もうぐちゃぐちゃで生き返れないの。」 「あの言ってる意味が分かりません。」 「なあ、こいつ俺の世界に貰っていい?」 「ちょっと待て、こいつはワシの管轄じゃ!勝手は駄目じゃ!」 「おまえ負け越してるだろ?こいつ連れてくから少し負け減らしてやるよ。」 「まじか!いやでもなあ。」 「ねえ、じゃあさ、もうこの子死んでるんだしあっちの世界でさ、体再構築してどれだけ生きるか賭けしない?」 え?死んでる?僕が? 「何!賭けじゃと!よっしゃ乗った!こいつは譲ろう。」 「じゃあさレートは?賭けって年単位でいい?最初の1年持たないか、5年、10年?それとも3日持たない?」 「あの、僕に色々な選択肢はないのでしょうか?」 「あ、そうね、あいつのミスだからねえ。何か希望ある?」 「希望も何も僕は何処へ行くのですか?」 「そうねえ、所謂異世界よ?一寸あいつの管理してる世界の魔素が不安定でね。魔法の元と言ったら分かる?」 「色々突っ込みどころはありますが、僕はこの姿ですか?」 「一応はね。それとね、向こうで生まれ育ったのと同じように、あっちの常識や言葉は分かるから。」 「その僕、その人のミスでこうなったんですよね?なら何か物とか・・・・異世界ならスキル?能力ですか?何か貰えませんか?」 「あんた生き返るのに何贅沢をってそうねえ・・・・あれのミスだからね・・・・いいわ、何とかしてあげるわ!」 「一寸待て!良い考えがある!ダイスで向こうへ転生する時の年齢や渡すアイテムの数を決めようではないか!」 何ですかそれ?どうやら僕は異世界で生まれ変わるようです。しかもダイス?意味不明です。

処理中です...