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最終章 決戦!『デスティウルス』編

私を呼ぶ声 〜シエラ視点〜

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 時は少し遡り、ハーティ達が『エルフの国リーフィア』でマクスウェル達と合流した頃。




 ガヤガヤ・・・。

 帝都『リスラム』宿屋『暁の奇跡亭』の食堂は、相変わらず収まり切らないほどの客でごった返していた。

「おーいシエラちゃん!こっちにエールを持ってきてくれ!」

「はーい、ただい・・・」

「シエラ、悪いけど先にこのプレートをオープン席の神官様達に持っていってくれるかい?」

「わかったわ、お父さん!」

「そっちの冒険者さんのエールはあとでもっていきますねー!」


 シエラは先程エールを注文した冒険者達に手を振ると、ジェームズから受け取ったランチプレート数枚を器用に持ってオープン席へと向かった。

「どうぞ!『女神の日替わり定食』です!」

「おぉ・・『聖騎士』シエラ様に手ずから昼食を運んで頂くなど、なんと畏れ多い・・」

 オープン席にいた神官達はシエラの姿を見て感嘆の声をあげていた。

「ごゆっくりどうぞー!」

 ランチプレートを提供し終えたシエラはくるりと踵を返して食堂へと戻ろうとしていた。

『『女神ハーティルティア』に連なる者よ・・』

「!!」

 その時、突如シエラの頭の中に聴きなれない声が響き渡った。

(なに!?一体何の声なの!?空耳?)

 シエラはその声に一瞬首を傾げたが、気を取り直してそのまま歩みを進めた。

『『女神』に連なる勇者よ。は君が来るのを待っているぞ・・』

「やっぱり!!誰かに呼ばれている気がする・・」

 シエラは何故かその声の主が呼んでいる場所が

「でも・・はとても遠くで行けそうにないな・・」

「っ!!そうだ!『神聖魔導甲冑二型』があれば!!」

 突如歩みを止めて独り言ちるシエラを見て、周りにいた客達は首を傾げていた。

「とにかく、仕事が終わったらお父さんに相談しよう!」

 シエラはひとまず考えるのをやめて、目の前の仕事に集中することにした。

 そして・・その日の夜、シエラは厨房で洗い物をするジェームズに声をかけた。

「お父さん」

「ん?どうした、シエラ?」

 洗い物をする手を止めて振り返るジェームズに、シエラは昼間自分に起こった出来事を話し始めた。

「・・・頭の中の声に呼ばれている・・か」

 シエラの話を聞いたジェームズは、顎に手をやりながら考え始めた。

「それは、おそらく『女神様』に関わる重要なことを伝えたいのだろう。向かわないといけない所はわかるんだろ?なら行ってくるといい」

「でも、声のする場所はとても遠いよ?それこそ海を渡るくらい・・だから、鎧の『飛翔魔導フライ』でもどのくらいかかるか・・」

 そう言いながら項垂れるシエラの肩に、ジェームズは優しく手を置いた。

「シエラ、私達はハーティさんに返しきれない恩がある。そして、何者かはわからないが、『『女神ハーティルティア』に連なる者』とシエラの事を呼ぶのなら、それに応えるのが『聖騎士』の使命だよ」

「お父さん・・」

「なに、宿のことなら日頃シエラが頑張ってくれるから数日くらい何とか私一人で回してみせるよ。行ってきなさい」

 ジェームズの言葉にシエラは力強く頷いた。

「ありがとう!お父さん!!」



 そして、翌朝。


「・・・よし!」

『神聖魔導甲冑二型』を装着したシエラは、宿の前で遥か彼方の空を眺めていた。

「シエラちゃん、その姿、凄く様になってるぜ!」

「ああ、何と凛々しいお姿・・さすが『聖騎士』の称号を持つ勇者様です」

「ああ、あの艶やかな黒いふさふさのお耳と尻尾・・ああ、もふりたい」

 そして、シエラの出立を見送るべく、シエラの周りを宿に滞在する宿泊者達が囲んでいた。

「・・若干変な輩もいるが、みんなシエラを見送りに来てくれたよ。・・最後の人は朝食サービスのスープは無しですからね」

「そんな!?」

『もふりたい』発言をした青年冒険者は絶望しながら両膝を地につけた。

「みんな、ありがとう!お父さん!暫く宿をよろしくね!」

「ああ。任せておきなさい」

「じゃあ、みんな!行ってきます!」

「「「行ってらっしゃい!!」」」

 見送りの言葉を聞いたシエラは、その意識を身に纏う鎧へと集中し始めた。

 シュウゥゥゥン!!

 すると、『神聖魔導甲冑二型』全体から溢れる光が増し、背面の小型『フライ・マギ・ブースト・ウィング』が展開される。

「っ!!」

 シエラはその出力を調整しながら、ゆっくりと浮き上がり始めた。

(・・・『聖騎士』シエラ、行きます!)

「「「シエラちゃん!気をつけて!!」」」

 ズビシュウウウン!!ドゥン!

 皆の見送りの声が響き渡る中、地上に影響が出ない高度まで上昇したシエラは全速飛行を始めた。

 そして、一瞬で音速の倍以上の速度に到達したシエラは、衝撃波ソニック・ブームを放ちながら東の空へと向かった。

 イィィィィィィン・・・。

 そのまま東の海上を超音速で飛行し続けること数時間。

 シエラの視線の先に、一つの陸が見えてきた。

「『アーティナイ列島』・・・」

『こっちだ』

 シエラが『アーティナイ列島』に近づくにつれて、頭に響く声はますますしっかりしたものになっていく。

 そして、シエラはその声に導かれながら、『カームクラン』北部に聳え立つ『霊峰』へと降り立った。

 シュウウ・・シュタッ!



 ヒュゴオォォォォォ!!

「っく!凄い吹雪っ!」

 シエラが声の案内を辿って降り立った場所は『霊峰』の頂付近であった。

 そこは植物すら存在しない程極寒の地であったが、鎧によってシエラに発動している防御魔導と『ブースト』によって、その寒さを感じることはなかった。

 しかし、激しい吹雪によって視界は全くなく、叩きつける吹雪にシエラは思わず顔を腕で覆った。

『こっちだ・・』

「こっち・・・」

 ザッ・・ザッ・・。

 そして、シエラは声のする方へ向けて歩みを進めていく。

 やがて、シエラに呼びかける声の存在に近づくにつれて、先ほどからシエラに叩きつける激しい吹雪は収まり始めた。

 それから更に歩みを進めると、シエラは有り得ない光景を目の当たりにすることになる。

「・・・・っ!?あれは!?」

 シエラが驚きの声を上げながら目にする先には、果てしなく広がる白銀の大地の中で、まるでその場所だけが切り取られたように存在する美しい草原があった。

 そして、その中心部の大地に突き刺さるように存在していたのは・・。





 白銀色の光を放つ、一本の美しい巨大な『斧』であった。
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