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第三章 商業国家アーティナイ連邦編

黒竜襲来2

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 ギュウン!

「っつ!?速い!?」

 バァァン!!

 猛烈なスピードで迫るエメラダの拳をハーティは両腕で防御する。

 キィィーン!ドゴォォーン!!

 しかし、ハーティの堅牢な防御魔導で受けてもなお勢いの減らない衝撃を受けて、ハーティは勢いよく地面へと叩きつけられた。

「あはははは!あははは!」

 エメラダはそれに追い討ちをかけるように次々と魔弾をハーティが墜落した地面に対して放った。

 チュドォォォン!チュドォォォン!チュドォォォン!

『『ハーティ!』』

「ハーティさん!」

 ハーティが地面に叩き付けられる姿をほとんど見たことがない『白銀の剣』のメンバーはその様子を見て明らかに動揺していた。

「あははっ!よそ見している場合じゃないんじゃあない?」

「グルルァァァァ!」

 エメラダの言葉に続いて『黒竜バハムート』が咆哮した。

 キイィィィィィ!!

 そして、その咆哮によって大きく開かれた口腔へ白銀の光が収束し始める。

『不味いわ!みんな!『ブレス』に気をつけて!』

 キィィーン!ビシュウウウウン!!

 クラリスが叫んだ直後、『黒竜バハムート』の口から高出力のマナによる光線が放出された。

 バシュウゥゥゥ!

 バシュウゥゥゥ!

 ドゥン!

 二機とユナはそれを何とか回避する。

 そして、行き場を失った光線は、そのまま真っ直ぐ突き進んで遥か彼方の山へと命中した。

 ズギャアアアア!チュドォォォン!

 その光線が命中した山は標高千メートル以上あったが、その一撃により山の頂上から三分の一程までが赤熱して吹き飛んでしまった。

『さっき私の『メルティーナ』が食らったのはあれね!?あんなの真面に食らったら、いくら強固な防御魔導があったとしてもひとたまりもないわ!!』

『なんて奴なの!口から魔導収束砲を放つ生き物なんて反則よ!!』

 二機が『黒竜バハムート』から放たれたブレスの威力に恐れ慄いている中、ユナは小柄な身を生かして『黒竜バハムート』の背後に回る。

「はああああああ!」

 そして、背後から『黒竜バハムート』目掛けて『女神イルティア・レ・ファティマ』で斬りつけた。

 ザシュッ!!

『グルルルアアアアアアアア!』

女神イルティア・レ・ファティマ』に付与された『還元』の効果により容易く防御魔導を突破したユナの斬撃が『黒竜バハムート』の頭部に刺さる。

 しかし、三十メートルを超える巨体を持つ『黒竜バハムート』の強靭な鱗と表皮は分厚く、ユナの斬撃では致命傷とはならなかった。

『ならはどうかしら!』

 バシュウゥゥゥ!

 続いて『黒竜バハムート』が怯んだ隙に『プラタナ』が『黒竜バハムート』へ飛翔して肉薄し、リデューシングソードを振りかぶった。

 その『プラタナ』の姿を視認した瞬間、『黒竜バハムート』は瞳を瞑る。

 すると、『黒竜バハムート』の体全体が一瞬淡く光り輝いた。

 ガキィィィン!!

『なんですって!?』

黒竜バハムート』が発光した後にたどり着いた『プラタナ』の斬撃は、剣に付与された『還元』によって『黒竜バハムート』を切断することなく鱗によって弾かれた。

『私がクラリスと戦った時と同じように、自身の鱗に『還元』の魔導を発動して『プラタナ』の斬撃を相殺したのね!』

「悠久の時を生きる『黒竜バハムート』にとっては『還元』の魔導を模倣するなど造作もないというわけですか」

『っく!こんなの反則よ!』

「グルルァァァァ!」

『プラタナ』の斬撃を受け止めた『黒竜バハムート』はお返しと言わんばかりに剛腕に生えた鉤爪を振り下ろした。

 ガキィィィン!

『ぐぅっ!なんてパワーなの!!』

『プラタナ』はその攻撃を何とかリデューシングソードで受け止めた。

 しかし、鉤爪による攻撃は『プラタナ』の飛翔魔導の出力を最大近くまで上げて、やっと受け止められるほどの勢いがあった。

「・・『黒竜バハムート』の攻撃にも『還元』の効果がある以上、私たちの防御魔導は無意味と考えた方が良さそうですね」

 ガキィ!バシュウゥゥゥ!

『一体、こんな化物どうやって倒したらいいのよ・・・』

 鉤爪の攻撃を何とか受け流して距離を取った『プラタナ』からクラリスの思い詰めた声が聞こえた。

 バラバラ・・・。

「ぐっ・・かはっ!」

 ちょうどその時、ハーティは魔弾によって出来たクレーターの底でずたぼろになって倒れていた。

 ハーティの強固な防御魔導も雨のように降り注ぐ魔弾には流石に耐えられず、ハーティは自身の『身体強化魔導ブースト』による身体能力のみで辛うじて生き残っていた状況であった。

「ぐふっ!かはっ!」

 既に身体中の骨がバラバラになって手足がありえない方向に曲がっていたハーティは、その口から勢いよく血を吐き出した。

「・・ひ・・ぃ・・る・・」

 パァァァ・・。

 ハーティは辛うじて呼吸をする中、自身に『上級治癒魔導』を発動した。

 すると、ハーティが受けたダメージはまるで時間を逆回しにする様に回復していく。

 シュタ!

 ザ・・ザッ・・・。

 そんな中、ハーティのすぐ側に着地したエメラダは急速に回復していくハーティへ歩み寄った。

 ガシッ!

「ぐはっ!」

 そして、回復途中のハーティの髪を乱雑に掴むと、そのままハーティの身体ごと持ち上げた。

「はぁ・・無様ねぇ」

 エメラダに捕まって治癒魔導が中断されたハーティは中途半端に回復した状態となり、相変わらずボロボロの状態であった。

「うーん・・『女神ハーティルティアクソビッチ』ってこんなに弱っちい奴だったかしら?それとも、あんたもこの世界で受肉して弱体化したのかしら?」

 そう言いながら、エメラダは値踏みするように血を流すハーティの顔を見つめる。

「え・・めら・・だ・・」

「まぁいいわ。わたくし達にとっては好都合。さて、じゃあどうやって嬲ってやろうかしら?腕を順番に捻り切って、その小さなお口とお尻の穴にでもぶち込んでやろうかしらねえ?」

 エメラダはつまらなそうに独り言を言うと、ハーティの右腕をつかんでねじり始めた。

 ブチブチ・・。

「ア・・ガァ・・!!」

 ハーティの脳にまで自分の右腕の骨があげる悲鳴が伝わってきて、苦痛に顔を歪めていたその時・・。

「グアァァァ!グルゥアアアア!グルルル!」

 先程までユナ達と戦っていた『黒竜バハムート』が突如雄叫びを上げながら苦しみ出した。

『一体どうしたっていうの!?』

「っつ!わかりません!先程通った私の攻撃で正気を取り戻そうとしているのでしょうか!?」

 ユナ達の憶測が飛び交う中、『黒竜バハムート』は悶えながら歪な軌跡を描いて北の方角へと飛び去って行った。

「うーん・・まだみたいねぇ。思ったより『黒竜バハムート』の力が強かったと言う事かしら?」

「んもう、ペットはペットらしくしていればいいのに・・困ったものだわ・・・」

 やれやれとエメラダはため息をつくと、ハーティの腕を離した。

 しかし、離されたハーティの腕は既に皮膚と僅かな筋肉で繋がっているだけで、肘から先はプラプラと揺れている状態であった。

「残念だけど、『女神ハーティルティアクソビッチ』を嬲るのはまた今度にするわぁ」

「まっ・・て・・えめ・・ら・・」

「た・・だ・・し!あんたに一つ、わたくしからのよ」

「うーん、本当は、私の趣味じゃないんだけどね」

 ギリッ!

「ぐぶっ!」

 エメラダは掴んでいた髪を捻ってハーティの顔を自分の方へと向けさせる。

 シュタ!

 ドォン!ドォン!

「ハーティさん!」

『あんた、ハーティを離しなさい!』

『あたし達のハーティに何をするつもり!?』

 ちょうどその時、『黒竜バハムート』の脅威が去ったのを確認した三人がハーティの元へやってきた。

「やだっ!こんなにギャラリーがいたら恥ずかしいわあ!」

 しかし、エメラダはそんな三人を見ても、冗談めかして身体をくねらせるだけであった。

「じゃあ、行くわよぉ」

 グイッ!

 そして、エメラダは再びハーティの方へ向き直ると、その顔を近づけて・・・。

「むぐうっ!?」

 そのままハーティへと口付けた。
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