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第三章 商業国家アーティナイ連邦編

オルクス皇帝の来訪 〜マクスウェル視点〜

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 神聖イルティア王国、王都『イルティア』。

 世界最大の規模を誇るこの都市は『邪神イラ』による襲撃により甚大な被害を受けたが、王宮や聖女リリスを筆頭とした『女神教会』の尽力により、襲撃から三ヶ月ほどが過ぎた頃にはかなり復旧が進んでいた。

 何よりも最優先で復旧が急がれた『女神教』総本部である『白銀の神殿プラチナ・パレス』と王宮の復旧はそのほぼ全てが完了し、王都襲撃により亡くなったデビッドの国葬も終わったことにより、王宮内は何とか落ち着きを取り戻していた。

 そして今、王宮前の広場に勢揃いした王族や重鎮達は皆一様に緊張した様子であった。

「よもやが来るとはな・・」

 立ち並ぶ王族の中央に立つ神聖イルティア王国国王である『ジル・グレイル・サークレット・イルティア』は静かに呟いた。

 遡ること二週間ほど前、玉座に鎮座していた国王陛下へ『魔導帝国オルテアガ』からの使者が謁見のために来訪してきた。

 かつて鉾を交え、今は直接の国交が無い国からの、まるで王国が疲弊したタイミングを狙ったかのような時期での使者来訪ということもあり、国王陛下は帝国が宣戦布告の為に使者を寄越した可能性を懸念していた。

 その為、帝国の使者が伝える内容によっては、その場でその者の首を切り落として帝国に送り返すことも辞さないつもりで謁見の間にいる衛兵達も備えていた。

 しかし、帝国の使者から伝えられたものは、その国王陛下の予想を遥かに上回るものであった。

 それは、隣国である帝国の帝都『リスラム』にも『邪神』が現れたというものであった。

 それだけでも衝撃であったが、何とそれを突如顕現した『女神ハーティルティア』が退けたというものであった。

 その報告を聞いた瞬間、国王陛下以下謁見の間にいた者全ての人が、玉座の奥に聳える『女神ハーティルティア像』に向かって『最敬礼』をしながら咽び泣いた。

 また使者は、帝都においても『邪神』による甚大な被害を被ったことや女神ハーティルティアからの話を聞いたことにより、世界規模の危機が迫っていることを知った帝国がイルティア王国との本格的な同盟を望んでいることも国王陛下へと伝えた。

 その為に後日、正式に皇帝陛下自らが同盟の条約を結ぶ為に王都イルティアの王宮へ伺うという。

 その知らせを聞いた王宮は大慌てで皇帝陛下を迎える準備を始めた。

 そして、今日いよいよその日を迎えたのである。

「『魔導帝国オルテアガ』皇帝、オルクス十四世陛下の御成ぃぃー!」

 門兵が高らかに声を上げると、王宮の正門が開け放たれた。

 そして十数台程にもなる大小様々な『魔導車』が次々と場内へと進んだ。

「なんと!帝国の魔導具における技術力は噂通りですな!」

「あれがマナで動くのか・・」

 王国では見ることのない『魔導車』を見て王国の重鎮達が感嘆の声を上げていた。

 そして、その中でも最も豪華な『魔導車』が停車すると、騎士達によって踏み台と赤絨毯が敷かれる。

 続いて『魔導車』の扉が騎士によって開かれると、そこから皇帝であるオルクスが降り立った。

 そのオルクスに続くように一人の少女が騎士のエスコートを伴って同じ『魔導車』から降りた。

 そして、『魔導車』から降りたオルクスは真っ直ぐに国王陛下の元に向かうと口上を始めた。

「直接会いまみえるのは初めてであるな。余は『魔導帝国オルテアガ』皇帝『オルクス十四世』である。此度は王宮での歓待感謝する」

「丁寧な挨拶痛み入る。余は『神聖イルティア王国』国王『ジル・グレイル・サークレット・イルティア』である。今日は両国にとって歴史的な一日になろう」

 そして、二人は硬い握手を交わした。

 二人が握手を交わした後、国王陛下は自身の妻と側室であるミリフュージア王妃陛下とユーリアシス側姫殿下を紹介した。

「最後に、此奴が余の息子である『マクスウェル』だ。我が国の次代を担う王太子である」

 国王陛下の紹介を受け、マクスウェルがオルクスの前に立つと一礼した。

「ご紹介に預かりました、『マクスウェル・サークレット・イルティア』です。陛下にお会いできて光栄です」

 マクスウェルはオルクスより九つも年下ということもあるが、王太子という立場上オルクスよりも身分が低い。

 その為、オスクスに対して頭を下げたのだ。

「マクスウェル殿。噂はかねがね聞いている。これから二国は未だかつてない友好を深めようとしている。であるから、歳は少し離れるが貴殿とは『良き友』としてこれから関わって行きたい。故にそんなに畏まらずとも良い。敬語もいらん」

 そう言いながら、オルクスは手を差し出した。

「余のことは『オルクス』と呼ぶといい」

 マクスウェルはオルクスから差し出された手を取った。

「なら私の事もただ『マクスウェル』と。そう呼んで欲しい」

 二人が微笑みながら視線を交える姿は華やかで、まさにいがみ合った歴史をもつ二国が友好を深めようとする歴史的な瞬間を体現していた。

「そういえば、マクスウェルはかの『ハーティ』の婚約者であったようだな。婚約者が『女神』であるとは、大変名誉なことだな」

 オルクスから放たれた言葉にマクスウェルが凍りついた。

 しかし、直ぐに気を取り直す。

「・・婚約者とはいささか認識の相違があるようだ。我が国は私とハーティとの婚約は継続しているとの認識であり、わが国の総意だ。婚約破棄したという事実は全くない」

 マクスウェルはオルクスを牽制するが、当のオルクスは全く気に留めていないようであった。

「で、あるか。だがハーティは貴族としての身分は捨てているという素振りであったが?」

 ピクッ!

 マクスウェルはオルクスがハーティの事を呼び捨てていることに眉を顰めた。

「ハーティは『女神ハーティルティア』という志尊の存在。今は世界の危機に奔走している御身かも知らぬが、世界に平和が訪れた暁には『女神教』の聖地であるこの地で私と共に世界を導くつもりだ」

 マクスウェルの言葉を聞いたオルクスはわざとらしく顎へと手をやった。

「はて、ハーティはそのような事は言って無かったがな。それにイルティア王国に対して『一度眠りにつく』と言って国から去ったのであろう?だがそれは真実ではなかった。現にその足でハーティは我が帝国にやってきたそうだ」

「・・・っく!そ、それはきっと彼女なりの思いが何かしらあったはずだ!」

「・・まあ、彼女はだ。案外貴国で『女神』として崇められるのを嫌がって逃げてきたのかもな。まあ、それは本人が追々語るであろう。それより話は変わるが、私からがいるのだ」

 オルクスはハーティの話題を無理やり終わらせると、同じ『魔導車』に乗っていた少女へ自分の側に来るように促した。

「余は国を預かる身故、此度の会談が終われば急ぎ帝国に帰らねばならぬ。帝都の復興指揮を取らねばならぬしな」

「故に、これから貴国と友好を深める為に進めていきたい様々な事業を担う代表として、を貴国にてしばらく預かっていただきたい」

「紹介しよう。我が妹である『フィオナ』だ」

 オルクスに促されてやってきた少女は、兄であるオルクスと同じ真紅色の長髪とやや垂れ目でつぶらな瞳を持った美少女であった。

 その長髪は毛先にかけてボリュームのある縦ロールに巻かれており、肌は処女雪のように白い。

 髪色と同じ真紅のドレスは全身に宝石が散りばめられた豪華な物で胸元部分が大きく開いており、愛らしい見た目の年齢にはそぐわない豊満な胸に置かれた大粒の魔導結晶でできたペンダントが男達の視線を誘うように輝いていた。

 そして、その赤髪の美少女はオルクスの紹介を受けると自身のドレスの裾を摘んで優雅に膝を折った。

「両陛下並びに王家に連なる皆様。ご尊顔を拝見しまして恐悦至極に存じます。只今皇帝陛下より紹介賜りました、私は陛下の実妹にあたります『魔導帝国オルテアガ』の皇女である『フィオナ・エンパイアス・オルテアガ』と申します。以後お見知り置きを」

 フィオナは自己紹介を終えると、微かに頬を染めながら、その瞳をマクスウェルへと向けた。
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