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第二章 魔導帝国オルテアガ編

帝都襲撃

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 キィィィン・・。

「ナラトス様、間もなく帝都市街地上空に到着します」

 ニアールの駆る『メルティーナ』は人造ゴーレムの集団を追い越すと、超音速飛行から低速飛行に切り替える。

 ナラトスは生身のままで『メルティーナ』から一定距離を保って飛行していた。

『ああ、もうすぐ人造ゴーレムも到着するだろう』

「・・・いよいよナラトス様と私の力を帝国、そして世界中に知らしめる時が来たのですね!」

 そう言いながら歓喜するニアールの瞳からは既に光が失われており、濃紺の髪と黒のパイロットスーツも相まって少女らしい雰囲気は邪悪なものへと変貌していた。
  
『・・そういえば、そなたには私のについて話をしていなかったな』

「私はナラトス様を信じております。ですのでどのような目的があれど、私はナラトス様に従うだけです。例えそれが帝国を滅ぼすことであっても・・」

 ナラトスの口付けにより純粋な研究者としての心を失ってしまったニアールは、ただひたすらにナラトスを盲信していた。

『で・・あるか』

「それに、私の願いを叶える為にたくさんの獣人達を犠牲にしました。ですから、既に私はもうただの研究者に戻ることは出来ないのですから・・」

『愚かにも哀れな人間ニアールよ。それではそなたには私の一番側でこの世界の行く末を見せてやろうではないか」

「ナラトス様・・」

 そして、とうとう『メルティーナ』と人造ゴーレムの一団は帝都市街地上空に到着した。

「おいっ!なんだあれは!?」

「ゴーレム!?ゴーレムが空を飛んでいるぞ!」

「なんだぁ?何かのパフォーマンスか?」

 巨大な人造ゴーレム達の影が市街地に落ち、日常を過ごしていた帝都民たちは突然の出来事に皆空を仰ぎ見ているしかなかった。

 それを空中に漂う『メルティーナ』に乗るニアールとナラトスは、だだ冷めた眼差しで見下ろしていた。

「踊れ、人造ゴーレム達よ!」

 そして、ナラトスの声で上空に漂う人造ゴーレム達が次々と地面へと降り立つ。

 ズガァァァン!

「うわぁぁぁぁ!なんだぁぁ!?」

「ああ!俺の家が!家族がみんないるのに!そんな!!」

「ああああ!俺の足がぁぁぁ!」

「ぐべらぁっ!」

 数十トンにもなるゴーレムが地上に建物があろうが、人がいようがお構いなしに踏み潰していく。

 既に市街地は阿鼻叫喚の様相となっていた。

 そして、その状況は速やかに宮殿にいる皇帝へと伝わっていった。

「一体どう言うことであるか!クウォリアス軍務卿!!」

「それが、実態は把握できておりませんが、ニアール博士の人造ゴーレムが帝都市街地を攻撃しているとのことです!」

「よもや人造ゴーレムの暴走ではあるまいな?!」

「それが、人造ゴーレムは皆統率された動きをしているようです。なので暴走の類ではないかと」

「ならば、ニアール博士とナラトスがこの事態を起こしているということか!二人はどこにいる!?」

「『メルティーナ』も帝都上空にて確認されております。おそらくそれに搭乗しているものと思われます!」

「何故だ!?そんなことをして何になるというのだ!!」

 皇帝は思わずクウォリアスに向かって怒鳴りつけていた。

「恐れながら皇帝陛下、私は以前よりあのナラトスという男について疑問に思っておりました」

「ある日現れたあの男について、我々は何故か何の疑問もなく受け入れておりましたが、私の武人としての勘が、あの男には何か得体の知れない力を秘めているように感じさせたのです」

「また、隣国のイルティア王国にいる間者からの報告によれば、少し前に王都において神話の存在とされていた『邪神』が復活して、大規模な襲撃による被害が発生したようです」

「その際は多数発生したアンデッドにより王都が壊滅の危機に瀕しましたが・・これは真の話かわかりませんが、それらを顕現した女神が大規模な魔導によって浄化したということです」

「そんな御伽噺みたいなことがあるわけないだろう!」

「私もそう思いましたが、事実それによりイルティア王国の第二王子が亡くなっておりますし、なによりも我が国の間者からの情報なので信憑性は高いかと」

「それと今回の一件が関わっていると?」
  
「ええ、少なくとも王都イルティア襲撃との関連はあり得ます」

「ひとまずは目先の問題だ!とにかく帝国軍全軍、衛兵らを総動員して人造ゴーレムを止めよ!冒険者ギルドにも事にあたらせよ!」

「はっ!」

 ダン!

「くそ!何故このようなことに・・!」

 若き皇帝オルクスはやりどころの無い怒りに顔を歪ませた。





 ・・・・。

 ・・・・・・・。





「っつ!あれは!?」

 その同時刻、シエラ捜索の為に市街地を駆けていたハーティ達も上空から降り立つ人造ゴーレムを目の当たりにした。

「ゴーレム!?ですがあんなタイプ見たことがありませんね」

 そのゴーレムはマックス達も見覚えが無いようであった。

「・・あれは以前クラリスが話をしていた、帝国が軍備増強の為に開発していたという『人造ゴーレム』では?」

「人造・・ゴーレム・・」

 確かにユナが言う『人造ゴーレム』の話についてはハーティも聞き覚えがあった。

 すると、目の前に降り立った人造ゴーレムのうち一体が徐に近くで脱線していた魔導路面列車マギ・トラムを持ち上げた。

「・・おいおい、ちょっと勘弁してくれよ・・!」

「っつ!マックスさん達!危ない!」

 ビュン!

 その動作から嫌な予感がしたハーティ達は回避行動を取ろうとする。

 しかし、愚鈍と認識されているゴーレムとは思えない俊敏な動きによって投擲された車体が、マックス達の方に向かって弾丸のように飛んできた。

「っく!」

 ジャキン!シュイイイン!

 ドォン!

 全員の回避が間に合わないと判断したユナは素早く『女神イルティア・レ・ファティマ』を展開して『ブースト』によって迫りくる車体に向かって飛び出した。

 シュパン!

 ドガァァァン!!

 そしてユナの斬撃により抵抗なく真っ二つにされた車体の片方は軌道が逸れて誰もいない場所に激突した。

 しかし、もう片方はハーティの方へと軌道を変えて飛来する。

「ハ、ハーティ様!?」

 それを見たマックス達は目を見開くが・・・。

「てぇぇぇい!」

 バッキャア!

 ・・・ドガガァーン!

 ハーティは飛来してきた車体の片割れを美しいフォームによる回し蹴りで華麗に蹴り返した。

 そして、蹴り返された車体は大きく変形しながら、遙か彼方へと飛んでいった。

 その速度と角度を推測するに、その車体が帝都の防壁の向こうまで飛んでいったのは誰が見ても明らかであった。

「「「・・・・」」」

『ブラックスミス』の三人は、以前から目の当たりにしていたとはいえ、改めて二人の異常な戦闘能力の高さに戦慄していた。
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