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第一章 地球圏奪還編

月面衛星軌道会戦3

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 デビッド以下第二艦隊が新手の帝国艦隊による物質化マテリアライズに驚きを隠せない状態であった同時刻・・・。

 同様の知らせが交戦中の帝国艦隊にも入った。

「ニアール様、敵艦隊後方に我ら帝国の第八艦隊が物質化マテリアライズしました」

「第八艦隊・・・・」

 それを聞いたニアールは顔を顰めた。

「ニアール様、第八艦隊旗艦『機動戦艦ノーデンス』より入電です!」

「・・・・・繋いで頂戴」

 ニアールの声を聴いたオペレーターが通信を繋ぐと、前方のスクリーンに一人の青年が現れた。

「やあやあ、ニアール嬢久しいねぇ・・・・苦戦しているようだけど」

 そう言いながら妖しく笑った青年は、帝国宇宙軍第八艦隊司令官のユーノス・フォン・グレイハルト中将である。

 彼はニアールより若干年上の二十代前半でありながら、血筋の関係でグレイハルト侯爵家当主となった男である。

 彼の実父は旧大戦で命を落とした為、嫡男であるユーノスがグレイハルト侯爵家を受け継いだのだ。

 ニアールの実家であるソフィミア侯爵家とは同じ爵位であることから、幼少の時より何かと交流があったが、
 ニアールはユーノスを苦手に思っていた。

 そのことから彼女は先ほど顔を顰めたのだった。

「敵は結晶体レーザーを持っている上、月面の援護も激しいので致し方ないのです!」

 ニアールはそういいながらキッとユーノスを睨み付けた。

「おお、怖い怖い・・まああでも第八艦隊も参加すれば戦力差は3倍、しかも挟み撃ち・・・これでだいぶ有利に立つだろ??」

「・・・不本意ながら背に腹は代えられません・・ではこちらの邪魔はしないようにお願いします」

「つれないねえ・・・・俺とニアール嬢の仲じゃないか」

「あなたと何らかの仲になった覚えはこれっぽっちもございません!」

「うーん、やっぱり陛下にいいとこ見せたいよねえ?」

 ユーノスがそう漏らすと、ニアールの顔が真っ赤に染まった。

「へ・・・陛下は関係ありません!!」

「・・・・・侯爵令嬢と陛下では釣り合わないとおもうよ?前から言ってる通り恋するなら手短な相手がいいんじゃないかな・・・たとえば俺とかさ」

 そう言いながらユーノスがウィンクする。

「全力で拒否させてもらいます」

 二アールは自分を抱きかかえながら食い気味に拒否した。

「わ、わたくしは陛下をお慕いしております! たとえ今は気にかけていただけなくても、大きな戦果を挙げれば必ず認めていただけます!」

「じゃあとっとと月面を制圧しないとね」

「・・・ぐっ!」

 ユーノスに指摘されたニアールは押し黙った。

「・・・・まあいいでしょう、ではグレイハルト卿も敵後方からの援護射撃をお願いします」

「グレイハルト卿なんて他人行儀な・・ユーノs」

「戦況は厳しいのです!『急ぎ』援護おねがいします!」

「・・・へいへい」

 そういうと通信が切断された。

 ソフィミアは手に持った扇子を広げて自身を仰ぎつつ、浮遊座席に座りながら組んでいる足を組みなおした。

「・・・・ふぅ」

「シュバイツ」

「はっ」

「これで戦力差は開いたし相手を挟み撃ちにできるわ。兎に角、敵の旗艦周囲を狙うようにするのよ」

「どのみちこっちは相対超光速度跳躍航法で来てる分、バッテリーの残量は圧倒的に少ないわ」

「一気に畳みかけるわよ!」

「艦隊中央を再度魚鱗陣形に展開、敵艦隊本陣へ集中攻撃!」

「了解!陣形変更!ナゴーブ、機関六十!第二戦速!」

「EBシールド前方展開出力十パーセント減、同エネルギーラインを主砲へ供給!砲撃サイクルタイムを減少せよ!」

 機関士の掛け声と供に機動戦艦ナゴーブは更なる戦闘機動を行う。

 いずれにしても相対超光速度跳躍航法で奇襲をしている以上、すでに電源残量は少なく勝利以外の道はない。

「第八艦隊からの援護射撃始まりました」

「敵艦隊、順調に撃沈しております!」

「やはりこの戦力差ではどうにもできないわね!」

「・・まあ、思わぬお邪魔が入ったけどこれで予定通り月面を制圧してジル陛下に評価していただけるわ!」

 そう言いながら二アールは浮遊座席で微笑んだ・・・。


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 機動戦艦スクイード船橋ブリッジ

「艦長!第二艦隊の撃沈率が五十パーセントを超えました!」

「本艦のシールド強度復元率もなんとか持ちこたえている状況です!」

 物量がものを言う現代艦隊戦において、一方的に撃沈されて艦数を減らすことは更なる不利な状況へ持ち込まれていくことになる。

 このままでは第二艦隊はそんなに時間を必要とせず壊滅状態となるのは明らかであった。

「くそ!次々と増援してきやがって!」

 そう言いながらデビッドは浮遊座席のアームコンソールに拳を落とした。

「挟み撃ちで撃たれているからシールドを周囲展開するので精いっぱいか・・・」

「各SAスレイブ・アーマーも流れ弾に命中して撃墜されています!」

「・・・ここまで戦力差がついてしまうともはや陣形や作戦でどうにもできない・・」

「万策尽きる・・・か」

 既に大きく開いた戦力差により、EBシールドもお構いなしに次々と自軍の艦が沈められていく。

 既に通常の艦隊戦であれば敗走やむなしの状況であった。

 しかし、戦闘が行われているのは連合国家の最終防衛ラインである。

 デビッドには最後の一隻になるまで戦い続ける義務があった。

 ズドォォォォォォォォォン!!!

 その時、デビッドの乗艦する機動戦艦スクイードに衝撃が走った。

 慣性緩和装置イナーシャルダンパーの能力限界を超えた揺れにデビッドは驚く。

「し、シールド強度限界突破!!」

「右舷第八ブロック付近に被弾!装甲軽微ダメージ!跳弾能力低下!」

「EBシールド復元再開!」

 既にスクイードの盾になる艦が撃沈していっている為、スクイードシールド面への着弾が増え、とうとう被弾し始めた。

「くそ!第十三独立艦隊シルバーフォースはどこまで来ている!?」

「現在月の裏側を周回してきている模様!もう間もなく到着すると思われます!」

「・・・いずれにしてもこちらはもたない可能性が高いな・・・」

「・・・そんな・・」

 デビッドの呟きに船橋ブリッジのクルー全員が押し黙った・・・。

 その瞬間にもシールド面に着弾した砲撃による閃光が船橋ブリッジを照らす。

 もはや大半の艦船が撃沈されるであろう現実に、艦隊全体が絶望した雰囲気に包まれていた。

 ズドォォォォォォォン!!!!

「・・・くそ!!」

 再び機動戦艦スクイードに衝撃が走り、船橋ブリッジクルーの何人かが浮遊座席から転落しそうになっていた。

「右舷機関に被弾!!当該機関停止!隔壁閉鎖、隔離します!」

「船内死者多数確認!右舷シールド展開器破損!EBシールド出力低下!」

「船内気圧低下!復元開始!」

 敵の砲撃による直撃を食らった機動戦艦スクイードは、まさに上を下への状態であった。

「・・・・機関一基だけでそう長くはもたないな・・・もはやこれまでか・・・」

 ドォォォン!!

「第二艦隊、八割五分損失しました!」

「左舷軽微被弾!! EBシールド展開出力復元不可!シールド消失します!」

 ドォォォン!

「左舷再度被弾! 左舷機関出力低下! 自立航行困難! 隔壁閉鎖してますが、艦内気圧低下が止まりません!船内気圧復元不可!」

 自立航行が不可能になった知らせを聞いたデビッドは、キャプテンズ・シートに深く腰掛け直しながら、静かに目を閉じた・・。

 そして徐に艦内通信を開く。

「・・・・第二艦隊旗艦機動戦艦スクイードは本時刻をもって作戦行動を中止・・」

「現在乗艦している全乗組員は脱出船に乗り込み速やかに本艦から離脱せよ」

「脱出後は最寄りの月面都市へ降下の上、地球連合国家本部からの指示を待て」

「・・・・艦長」

「乗組員のみんな・・・・すまない」

「・・・・第十三独立艦隊旗艦シルバーフォース、機動戦艦シルフィードへ通信を開いてくれ」

 デビッドがそう指示すると、目の前に通信画面が展開された・・・。
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