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第一章 地球圏奪還編

紅の戦姫 ~連合国家SIDE~

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『内部電源供給:内蔵電源80パーセント』

 SAスレイブ・アーマーコクピット内に空中投影された拡張モニターに表示された電源残量を確認した少女はため息をついた。

 彼女は名をメイデンと言い連合国家宇宙軍第二艦隊旗艦『機動戦艦スクイード』から出撃したSAスレイブ・アーマー雷撃小隊の若き小隊長である。

 母艦から出撃してから小一時間程度、既に味方艦隊の無線電力供給システムEPSエリアから外れ、内臓電源で敵艦隊へと向かっていた。

 その間にも目為メナスによる友軍砲撃の自動回避航路を取りつつも、いつあたるかわからない艦隊砲撃に神経をすり減らしていた。

 軍用艦の主砲である荷電粒子砲は数万キロもの有効射程がある為、敵味方艦隊同士の距離もそれほど離れている。

 時速二万キロを超えて飛翔する宇宙機でも敵艦隊に到達するには時間がかかる。

 合わせて機体に内蔵されているロ型液化グラビディウム電池の容量で活動できる時間は、拡張分を加味してもせいぜい1時間強程度である。

 再び戻って無線電力供給システムEPSのエリア内に入るまでの時間を考慮すれば、実際に戦闘する時間はあまり長くない。

 メイデンにとってはこの移動時間こそが一番の苦痛であった。

 しかしそれもあと僅かである。

 メイデンの小隊は、いよいよ目標の敵艦に辿り着こうとしていた。

 運よく敵の迎撃SAスレイブ・アーマーはまだ展開していない。

 メイデンは急ぎ部下に命令を飛ばした。

「ヴァルキリー1よりヴァルキリー2、雷撃用意」

『こちらヴァルキリー2、雷撃準備に入る』

 間伐入れずにヴァルキリー2と言われた連合国家汎用型SAスレイブ・アーマーであるオーガスは手短な敵艦に機体腕部を向ける。
 直後腕部装甲が開き、アンチシールドAS高速ミサイルFMを格納した発射ポッドを展開した。

『ヴァルキリー2、ASFMフォックス3!』

 定型の通信が入ると同時にアンチシールドAS高速ミサイルFMが帝国艦船に向けて発射された。

 すぐさまミサイルは帝国艦船にむけて飛翔して、シールド面に着弾する。

 着弾した弾頭と接触したEBシールドがハニカム状に発光しながらイナズマのような閃光を飛ばしていた。

 ミサイルとシールド面に拮抗状態がしばらく続くが、局所的に接触しているミサイルの貫通力が勝ってシールド面を通過すると、分離した先端の弾頭が二段目としてシールド内部を飛翔する。

 ミサイルは自動的にターゲットの艦船から伸びたシールド展開器に着弾した。

 直後にシールド展開器を破壊された帝国艦船のEBシールドは消滅して、それから数発の連合国家艦隊からの砲撃が着弾すると、爆散しながら轟沈した。

「よし!轟沈確認!引き続きヴァルキリー小隊各機攻撃せよ!」

 さっそく挙げた戦果に笑みを浮かべたメイデンであったが、目為メナスで視界に投影した敵機マーカーに革命軍SAスレイブ・アーマーの反応があったのを確認すると舌打ちをした。

「帝国のラピスか・・・・手早く攻撃して引き揚げるぞ!!」

 その合図によってヴァルキリー小隊各機が散開して攻撃目標へと向かう。

「我々も第二艦隊旗艦お抱えの部隊だ・・そう簡単にはやられるわけには・・ん??」

 そう一人言ちたメイデンは、一機だけ異常な動きをしている機体を発見した。

 それはまるでイナズマのような軌道を描きながら迫ってくる。

『ヴァルキリー3、ASMFフォックス3!』

 通信に味方機の攻撃合図が入電すると同時にその機体へ向けて鋭い閃光が突き刺さり、まともに食らったヴァルキリー3は爆散した。

 メイデンが確認すると、それは先ほどの異常な軌道を描く機体から放たれていた。

 間伐入れずにその機体は近づいてくる。

 そして目にもとまらぬスピードでビームブレードと思わしき武器でヴァルキリー小隊の機体を次々と切り伏せてゆく。

 その機体は汎用機でラピスタイプの新型のようであったが、機体色や細かなデザインがメイデンの記憶と異なっていた。

「なっ!?」

 ラピスにしてはあまりにも高機動であり、しかもその動きはまともでないようで正確である。

 その得体の知れないエースパイロットにメイデンは戦慄した。

「くっ、雷撃は無防備になる!ヴァルキリー小隊各機攻撃停止!先にあの赤い機体を仕留めるぞ!」

 そういうとメイデンもマルチパーパス・ビームライフルを連射モードに切り替えて向ける。

 しかし目前の機体があまりにも高機動である為、目為メナスのロックオン補正が追い付かない。 

 敵の機体は帝国艦隊から電力を得ているのでいくらでも最高出力で戦えるが、それにしても他の機体とはけた違いのスピードであるから、おそらく指揮官機としてカスタマイズされているのだろうとメイデンは判断した。

 しかし、あれほどの動きをすればいくら慣性減衰装置イナーシャルダンパーが備わっていたとしても操縦者への負荷はかなりのものであるはずだった。
 そもそもあれほどの高機動であれば、いくらカスタマイズしているとはいえ機体への負荷も計り知れない。

 その真紅のラピスはまるで鬼気迫る勢いであった。

 まるで、決して譲れない何かがあるかの様に・・・。

 そして、その真紅の機体背後を注視してみると、そこには他の艦船よりも一回り大きな美しいフォルムの艦船が鎮座していた。

 おそらくは帝国軍艦隊の旗艦である機動戦艦であろう。

 メイデンはすぐにこの真紅のラピスを駆る搭乗者がこの艦を護ろうとしていると判断した。

 おそらくはこの機体を始末しない限りこれ以上の攻撃は不可能であると判断したメイデンはありったけの銃撃を真紅のラピスに浴びせようとする。

 しかし、その機体は銃撃の嵐をまるで踊るように回避しながら眼前にまで迫ってきた。

「ちっ!!」

 メイデンは素早くマルチパーパス・ビームライフルを投げ捨て、腕部に内蔵されたビームブレードを展開した。

 バジュゥゥゥゥゥゥ!!!

 お互いのビームブレードが交差すると、激しい閃光を発した。

 全天球スクリーンの自動防眩機能が働いて目がくらむことはなかったので、すかさず二撃目に供える。

 しかし、あまりにも高速で緻密な動きによってブレードが備わった腕部が切り捨てられた。

 それを見たヴァルキリー小隊各機が援護に来るが、その機体は器用にブレードで応戦しながらビームライフルを併用して次々と味方の機体を撃破していく。

 その深紅の機体はたった一機にも関わらず、あまりもの戦力差に絶望を感じるほどの動きであった。

「この動き・・・帝国にも『オリジナル』がいると言うことか・・・」

 メイデンがそう独り言ちた直後に目前の全天球スクリーンには、ビームブレードを振りかぶった深紅の死神が映り込む。

 メイデンが静かに瞳を閉じると、コクピットに響く衝撃音と共に意識は永遠の暗闇へと沈んでいった。

 メイデンの機体を切り伏せた深紅の機体は、間伐入れずに他の機体へと攻撃を開始する。

 第二艦隊の精鋭部隊であるヴァルキリー小隊がこの宇宙から消え去るまでに、その後大した時間は必要ではなかった。


~設定資料~
連合国家SA汎用機『オーガス』
連合国家宇宙軍艦隊で標準採用されている機体である。
旧大戦から最も用いられている機体であり、旧大戦時代は連合国家軍部により直接設計・製造されていたが、その後大戦末期の特需により以降はK.Cインダストリーと篠崎重工がOEM生産している。
性能は三者製造元とも大差はないが、使用武器(マルチパーパス・ビームライフル等)は各社によりFCSのファームウェアが異なるため、当機体については相互互換できるようになっている。
これにより、製造元により保有武器の性能は若干異なる。



スペック
全高 19.8m
乾燥重量 73.5t (宇宙戦闘用標準フレーム時)
主機関 双発式グラビディウムエンジン
機関定格出力 225,000kw
主電源 (内蔵)ロ型液化グラビディウム電池 6本 +拡張4本 (外部)EPS方式
主装甲 ハイチタニウム合金
主兵装 マルチパーパス・ビームライフル(機体製造メーカー準拠) ビームブレード(内臓式) 対艦アンチシールド高速ミサイル(雷装時・機体製造メーカー準拠)

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