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第一章 地球圏奪還編

シルフィード、発進

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 第十三独立艦隊シルバーフォースのおよそ二万隻の艦隊は、地球上に散らばるK.Cインダストリー造船ドックにてそれぞれ進宙に向けた整備を完了して間もなく発進する状態であった。

 二キロメートルをゆうに超える艦船がおよそ二万も集まると、大気圏内で艦隊編成をすることは難しい為それぞれが自力で進宙した後に地球の衛星軌道上で集結する手筈となる。

 機動戦艦シルフィードは旗艦となる為、首都ラビッシュに直結したメーンドックで繋留している。

 そのシルフィード船橋ブリッジで最終打ち合わせが行われていた。

「機動戦艦シルフィードはクラリスの尽力によりようやく実用に足る段階まで竣工した」

「だが、ユーリアシス陛下の命により試験なしでの実戦投入となる」

「大丈夫なのです!もともと電力処理系統はクラリスの専門分野なのです。絶対の自信があるのです!」

 ジェスの言葉にすかさずクラリスが返答する。

「・・・ということでセレナ、アイリスツヴァイの準備はどうなっている」

「はい、先ほどすべての艦が準備完了と報告ありました」

「わかった。では作戦概要を説明する。艦隊通信を開いてくれ」

「了解しました」

 直後艦隊通信にてシルバーフォース全艦への通信回線が開く。

「諸君、進宙準備ご苦労。シルバーフォース艦隊司令官ジェス・ディーンだ」

「これより我々シルバーフォースはユーリアシス陛下の勅命により地球圏奪還作戦を開始する」

「ひとまず各艦進宙の上地球衛星軌道上宇宙港にて艦隊を集結し、完了次第月の月面方面防衛艦隊である第二艦隊と合流する」

「現状火星勢力とは睨み合い状態となっているが、いつ会戦してもおかしくない状態である」

「こちらの作戦としては艦隊合流次第敵艦隊への攻撃を行うつもりであるが、敵が先だって攻撃してきた場合は都度進路を設定して援護に回る予定である」

「各員シルバーフォースとして初の実践となるがK.Cインダストリーの技術の粋を集めた艦隊である」

「自信を持って戦いに臨んでほしい」

「それでは現時刻より作戦を開始する。各艦発進せよ!」

 その言葉を聞いて、シルフィードの船橋ブリッジもすぐに発進準備を行う。

「クラリス、申し訳ないが機関士のサポートに回ってくれ」

「了解なのです!」

 そういうとクラリスは自分の浮遊座席を呼び寄せて腰かけると機関士の傍に移動した。

「すぅ・・・・」

「・・・・機関始動!!」

 ジェスは通信回線を切断し、深く息を吸うと船橋ブリッジに響き渡る声で命令を伝える。

「機動戦艦シルフィード!巡航機関始動なのです!」

「セアナ式暗黒物質吸収発電炉エーテル・リアクター起電力安定、エネルギーラインを巡航機関へ!」

 シュゥゥゥゥン--!

 直後、通常の液化グラビディウム電池からの電力供給による低周波音とは全くことなる音が響き渡る。

「グラビディウム機関、始動完了なのです!」

「!・・・早いな!」

 巡航機関の出力上昇があまりにも早いのでジェスは舌を巻いた。

 グラビディウムは電力を用いて引力ないしは斥力を発生させる性質を持つ物質だが、逆に引力ないし斥力を与えると電力を生み出す性質も持つ。

 通常艦船に用いられるイ型液化グラビディウム電池はその名の通り、電池内を液化したグラビディウムが満たしてある。

 その液化グラビディウムを電池内にあるタービンにより高速撹拌したことによる遠心力を利用して膨大な起電力を生み出す。

 つまりは電力供給の第一段階として電池タービンを回転させる動力が必要になる。

 それに用いられるのが初期起動機関である対消滅機関である。

 これはいわばかつての内燃機関におけるセルモーターの役割を果たし、対消滅機関によりタービンを回転し、液化グラビディウム電池の起電力が安定してから巡航機関に電力供給を行うというプロセスが必要になる。

 必然的に一度巡航機関を停止すると再度巡航機関を始動するまでには十五分程度の時間がかかるのだ。

 しかし機動戦艦シルフィードの暗黒物質吸収発電炉エーテル・リアクターは半永久機関である為、常に安定して電力供給ができる状態である。

 よってすかさず巡航機関を始動できるのだ。

 また、基本的にグラビディウム機関一基に対して大型の電池が一本直結されている為システムが大型化して通常艦船は概ね双発式という二基運用が主流だが、暗黒物質吸収発電炉エーテル・リアクターは小型な上に一基ですべてのグラビディウム機関に並列接続できる為、機動戦艦シルフィードは巡航機関を四基搭載(クアッド・ユニット)している。

 これにより巡航機関出力は機動戦艦アマテラスを大幅に超えるものとなり、単体の艦船としては人類最高出力を誇る。

「繋留アームパージ! 機動戦艦シルフィード浮上!」

 直後、機動戦艦シルフィードをドックに繋ぎとめるアームが外されそのまま宙に浮いた状態になる。

 機動戦艦シルフィードは首都都市ラビッシュの近郊にある地下ドックに繋留されている為、ゆっくりとドック天井のゲートが開いていく・・・。

 縦方向と横方向で二重になっている数キロに及ぶゲートが開くと、シルフィードの直上には青空が広がった。

「ジェス、シルフィード発進準備が整いました」

 セレナは操舵席に座りながらジェスへと発進準備が完了したことを伝える。

 全長三キロメートルを超える大型艦を精密に動かすために、軍用艦の操舵士ナビゲーターは体内ナノマシンと艦船の操作制御系を接続する。

 セレナはそれによる思考制御と合わせて手足の動きを読み取り精密動作を可能にするフィジカル・パイロットシステムに繋がりながら機動戦艦シルフィードの挙動を制御している。

「ラビッシュ造船ドック管制および連合国家宇宙軍より発艦許可が下りました!」

 セレナの声を聞いたジェスは続いて発進の為に命令を行う。

「クラリス、機動戦艦シルフィード機関最大、浮上開始!地球を離脱する!」

「了解なのです!機関最大!浮上用意!」

「機関最大!浮上よーい!」

 クラリス、そして機関士の号令があり、機動戦艦シルフィードの高度が上がっていく。

「連合国家宇宙軍、第十三独立艦隊シルバーフォース旗艦、機動戦艦シルフィード・・・発進!!」

 船橋ブリッジの全天球スクリーンの眼下にはラビッシュが映り、近郊のドックから浮上した膨大な数のアイリスツヴァイが見える。

 第十三独立艦隊シルバーフォースはこうして初めての宇宙、そして戦地へ向け動き出した。



~設定資料~
セレナの設定画です。
浮遊座席のイメージが分かりにくいのでセレナを座らせて描いてみました。
全天球スクリーンに浮かぶ座席はこんなイメージです。

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