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プロローグ

少年期1

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カーネス星系。

 太陽系からおよそ40光年と宇宙で言えばご近所といっても過言ではないこの星系は、
 ある程度の宇宙観測が可能であった西暦2000年代初頭から西暦4500年代にわたるおよそ2500年に渡り発見されなかった星系である。

 この星系は 相対超光速跳躍航法が確立したしばらく後に外宇宙探査により発見されたのである。
 地球型惑星4つが周回するこの星系において第2惑星リソラはハビタブルゾーンの中でも限りなく地球に近似的な環境を持つ星である。

 自転周期はおよそ28時間と地球よりやや長い程度であり、公転周期は約180日で地球以外の星で唯一気密都市を建造することなく生身で生存可能な惑星である。

 地表のおよそ80%が海洋部分であり、豊かな自然と地球より長い一日、そして地球より温暖な平均気温により過ごしやすい気候を持つ。

 西暦4500年代に移住した地球人はわずかに存在した旧リソラ人と平和的に条約を結び、以後700年に渡る開発により地球に次ぐ大規模都市を有する星となった。

 しかし、その豊かな自然と気密都市内部でしか生身で生存できない火星と比べて広大な土地、そして戦略的拠点への利用としての制圧を狙った革命軍により侵略の対象となった。

 地球連合国家の自治区である惑星リソラの首都リノアには対革命軍への防衛基地が設けられた。

 長期化した大戦による慢性的な人手不足による人材確保の為に、
 リノア基地に併設された連合軍士官学校では初等部からのエスカレーター方式で軍事的教育を行い、
 リソラ防衛の要としての人材育成を行っている。

 その士官学校で今日も一日の授業・訓練を終えた少年少女3人が、日課である夕方の教育棟中庭のベンチでの雑談をしていた。

「今日も激しい戦いをしているな」

 そう呟きながら一人の少年は空を見上げていた。
 その少年の名前はジェス・ディーン。黒髪とこの時代には珍しい黒色の瞳を持つ切れ長の目が特徴的な美少年である。
 今年で14歳の少年は幼少のころから優れた頭脳と身体能力を持ち、まもなくこの士官学校を首席卒業する予定である。
 宇宙最大の財閥であるK.Cグループ総裁長子である彼は、自他共に認める連合軍期待の有能者である。 
 彼が見上げる空には何条もの光線と小さな爆発が肉眼で確認できた。

 兵器としての技術力が飽和状態である昨今の戦争においては、有効な戦略といえば専ら数万隻規模の大規模艦隊同士によるロングレンジからの物量にものを言わせた砲撃戦である。

 連合軍・革命軍双方の放つ荷電粒子砲と爆散した戦艦が地上から肉眼でも見えるのだ。

「今日もたくさんの人間が死んでいくんだろうな」

 そう呟いたもう一人の青年は名をデビッド・シュナイダーという。
 彼もジェスと同じ黒髪たが、ジェスよりもやや長い髪と燃えるような赤く鋭い瞳を持つ少年である。
 彼はジェスと幼少時代からの幼馴染であり、士官学校でも有名な悪友でもあった。
 成績は常にジェスと1、2を争う関係であり、同い年である彼も間もなく士官学校を卒業する身である。

   美しい夕焼け空に浮かぶ光線と爆発を遠目に見上げていると、ふと強い風が吹いた。
 その風により舞い上がろうとする青色の美しい長髪を押さえながら二人に歩み寄る少女がいた。

「近いうちに私たちがいく戦場をこうして毎日見上げるのは不思議な気分ですね」

 くりっとした美しいマリンブルーの瞳を持ち、白磁のような美しい肌をもつその美少女は名をセレナ・スターロードという。
 彼女もまた二人と同い年の幼馴染であり学科成績こそ中の上であるが、操船実技において天才的な腕をもつ女性である。

「ああ、不思議な気分だ。 こうやって眺める景色と実際の戦場ではきっと感じることも違うんだろうな」

 そういいながらジェスは吹き込んだ風に少し目を細めた。
 そんなジェスを横目にデビッドは尋ねた。

「卒業したらお前のおじさんが手掛けた新造艦の運用試験に参加するんだろ。 卒業後に一緒に行けなくて残念だ」

 ジェスの父親が総裁として君臨するK.C財閥は第一次星間大戦に運用する軍用兵器の供給を主として、
 日用品や家電、不動産、建設業なども手掛ける宇宙最大の複合企業である。
 その最大収入源であるK.Cインダストリーは軍需兵器製造においても連合軍最大のシェアを誇る。
   そして、その父親が先導して14年がかりで計画している新世代新造艦計画はいよいよ最終艤装の段階になり、定期試験運用が始まることとなる。

 卒業後は次期K.Cグループ総裁候補であり、また連合軍期待の幹部候補として新造艦運用に携わることになっていた。

 デビッドもその優秀さを評価され、卒業して間もなく幹部候補として連合軍地球方面防衛艦隊旗艦に試験乗船する予定である。

  結果二人とは別の道へ進む事になるのだが。

「空間にあるエーテルを電気エネルギーに変換する半永久機関・・・本当にそれが実現すればきっとこの動かない戦局も大きく変化するのでしょうか」

 そういいながらセレナはジェス達を見つめていた。
 その大きなアイスブルーの瞳は連合軍の新たな希望を期待するかのように見開いていた。

「連合軍艦船のなかでも最大の大きさとも聞いています。 早く操船してみたいです!」

「セレナちゃんの腕なら宇宙最強の船になるかもしれないな」

 そういいながらデビッドはセレナにむかって微笑んだ。

 この時代の軍用艦船は単独で相対超光速跳躍航法を行う為に全長1キロメートルに及ぶ巨大な跳躍用機関を搭載する。
 それにより軍用艦船の平均的な大きさは全長2キロメートルにもなる。

   その中でも試験運用される新造艦は様々な用途での運用を想定した連合軍の要として計画された。
   その大きさは全長3.6キロメートル、幅1.4キロメートルにも及ぶ巨大艦で運用するにも優れた技術が必要である。

 セレナはその天才的な操船技術が評価され、卒業後は新型艦の操船技士として着任する予定である。

「お前ら二人は卒業後もずっと一緒でいいなあ、いっそずっと末永く一緒にいたらどうだ」

「別に・・・あくまで幼馴染なんだから、そんなんじゃないよ。まあずっと一緒にいるのは楽しいかもしれないけど・・さ」

「そ、そ、そ、そうですよ! あくまで私は幼馴染としてジェスのサポートをするんですから・・ね!」

 そういいながら赤面する二人を見ながら、デビッドは少し悲しげに独り言ちた。

「みんなずっと生きて、笑いあえたらいいな・・・」

 再び見上げた空には、相変わらず光線と爆発が輝いていた。
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