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第一章 入学編

はじめての口付け!?

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 ・・・・・・・・・。

 私が『メルティーナ』で演習場を破壊してしまった後、そのせいで実機講習は中止となって生徒全員が駐機場に集められました。

「おい、あの黒髪の女だろ?」

「演習場を火の海に変えて何を考えているのかしら」

「巻き込まれた奴がいなくてよかったな」

「・・・『邪神』の生まれ変わりというのは本当だったのね」

「神帝国は彼女を野放しにしていいのか?」

 駐機場に集まった生徒達は、私の姿を見た瞬間に思い思いの事を言い出します。

「っ!!」

 たったったっ!!

「アリア!」

 その言葉で居た堪れなくなった私は、レオンハルト様の制止を振り切って駐機場を飛び出してしまいました。

 たったったっ!!

 そのまま当てもなく実機講習用学舎の広大な敷地を彷徨っていると、次第に陽が傾いてきました。

「・・・・・」

 そして、いつの間にか学舎を見下ろせる丘にたどり着いた私は、草むらから飛び出た岩に腰掛けました。

 見下ろした学舎にある演習場には私の『メルティーナ』が作った爪痕が痛々しく残っています。

 それを見て更に気分が暗くなった私は、腕で抱いた膝に顔を埋めました。

 あれだけの大惨事を巻き起こした以上、もうこの学園にも居られないかもしれません。

 そして、気まずさから寮に帰ることすらできません。

「イシズおばさんなら、私を受け入れてくれるかな・・」

 そこで、私はふるふると頭を振りました。

 ダメです。

 いきなり『東雲しののめの奇跡亭』から居なくなった私が、たったの数日で戻るなんで虫が良すぎます。

 でも、兎に角『アーティナイ連邦』に帰りたい。

 そう思って仕方ありません。

「でも、どうやって帰れば・・」

 学園へやって来た時には『サイナード』を使わせてもらいました。

 ですが、流石に『サイナード』を帰りの足にお願いすることはできません。

 遥か彼方、極東の『アーティナイ連邦』に帰る手段なんて・・。

 その時、私は『メルティーナ』の事を思い出しました。

 そうだ!『メルティーナ』に乗れば『アーティナイ』まで帰られる!

 私の事を世話してくれたモニカさんやクラスのみんなにお別れができないのは残念ですが、やむを得ません。

 私はすっと立ち上がると、『白銀薔薇のバレッタ』に手を添えました。

「お願いします!『メルティーナ』!!わた・・」

「早まるな!アリア!!」

 その時、背後からレオンハルト様の声が聞こえてきました。

「レオンハル・・・」

 ぱしっ!

 そして、捕まえたと言わんばかりに私の手を掴み取りました。

「間に合ってよかった」

「レオンハルト様!どうしてここが・・!」

「それは君に付けた護衛の『影』・・おっと、それはいいとして」

「影?」

 確かに今は夕方で、影が長い時間帯ですが・・。

 ぐいっ!

「きゃっ!?」

 私が首を傾げていると、レオンハルト様が突然私の身体を引き寄せてきました。

「アリアは『メルティーナ』を呼び出して何処に行くつもりだったのかな?」

 レオンハルト様は私にずいっと顔を寄せながら問いかけてきました。

「・・っ!」

 私はお互いの顔が近い事による羞恥心と、自分のやろうとしていた事の後ろめたさから顔を背けようとします。

 ぐいっ!

 しかし、レオンハルト様は私の顎を持ち上げて無理やり目を合わせました。

「まさか、私を置いて何処かに行ってしまおうと企んでいたりしないよね?」

「っ!?」

「やはり、図星だったか・・アリア、君はだね」

 そう言いながら、レオンハルト様は妖しく目を細めました。

 そして、『悪い子』という言葉を聞いた瞬間、私の瞳から涙が溢れ出しました。

「だ・・だって!!私は力を抑えようとしました!それなのにあんなことになって・・・!!」

「私は化け物なんです!!このままではたくさんの人に迷惑をかけてしまいます!」

「それだったら、私は一人で生きていきます!!」

「それが、みんなにとって一番幸せな道なんです!!」

 一度感情が溢れたら、もう止まりません。

「だから、私はこの学園を出ていくんです!!」

 私は叫びながらレオンハルト様の手を振り解こうとします。

 ですが、その手は離れません。

「離してください!!」

「いいや、離さない」

「お願いします!!はなし・・っ!?」

 チュッ。

 私がレオンハルト様の手を振り解こうとした時、頬に小さなリップ音と一緒に温かい感触を感じました。

 チュッチュッ。

 それがレオンハルト様のキスと気づいた時には既に涙に沿って何度かの口づけを頬に落とされていました。

「いいか?君が何者であってもアリアは『アリア』だ」

「そして、私も・・エカテリーナ嬢やユイ嬢も・・だがアーヴィンもだ・・」

「彼女達はアリアの事を絶対に見放したりしない」

「それに、アリアの事を悪く言う不届き者など放っておけば良い」

「君は選ばれた人間で大きな力を持っているんだ。君は君らしく生きていればそれでいい」

「だからアリア、私達を信じてくれ。全てを一人で抱えなくて良いんだ」

「みんなに迷惑をかけたっていいんだ。私だって周りの人間に迷惑をかけるときがある、アーヴィンなんてその例だ」

「だけど、お互いにだからこそ、迷惑を掛け合いながらでも成長していけるんだ」

「レオンハルトさ・・・」

 ペロッ。

「ぴゃあ!?」

 今、レオンハルト様に唇の端を舐められっ・・!?

「『レオン』だ」

「無・・無理です!」

 私は顔を真っ赤にしながら首を振ります。

「そうか、なら仕方ない」

 そう言いながら、レオンハルト様が再び顔を寄せてきます。

「わかりました!呼びます!呼びますから!!」

 ぐいっぐいっ!

 私はまた唇を舐められるわけにはいかないと、必死にレオンハルト様の胸を押し返します。

「・・私が顔を寄せているのに手で突き返して来る令嬢は君くらいだよ・・まあいい、じゃあ呼んで?」

「レ・・レオン・・様」

「・・・・・あと一息だね。まあいいだろう、次回に期待しているよ」
  
 そう言いながら、レオンハルト様は私の顎を掴んでいる手から親指を伸ばして唇を撫でてきました。

「っ!?」

「けど、次に私へ何も告げずに何処かに行こうとした時は、その可愛くて美味しそうな唇をからね」

「っ!?こくこくっ!!」

 私はとにかく言う事を聞かないといけないと思って必死に頷きました。

「・・良い子だ」

 チュッ。

 レオン様は満足気に頷くと、私のおでこに唇を落としてから漸く解放してくれました。

 ザッザッ・・。

 それと同時に誰かの足音が近づいてきました。

「レオンハルト様。私の見間違えでなければ・・今、アリア様の顔に口づけをされていませんでしたか?」

「ちっ・・アーヴィンか」

「まあまあまあ!お兄様とお義姉様がそこまで進展なさってたなんて!!見逃したのが残念でしたわ!」

「レオンハルト殿下!!お、おそれながら!アリアちゃんにそ、その!口付けは早いと思います!!」

「はあ・・アリア、厄介な相手に執着されましたわね」

「権力を持ったストーカーは一番厄介ですわよ」

「み・・みなさん!?」

「皆アリアが心配で探しにきてくれたんだよ。こんなにアリアの事を心配してくれる人がいるんだ。勝手に居なくなろうなんて考えたらダメだよ」

「レオン様・・みんな・・ありがとう」

「さあ、今日は疲れただろう。魔導車を待たせている。寮まで送ろう」

「さあ、帰りましょう!お義姉様!今夜も遊びに行きますわ!」

「つまり、パジャマパーティという事ですわね!では、わたくしも行きますわ」

「アリアちゃん!私も行くよ!」

「・・・はい!」

 みんなの言葉を聞いて、私は少し気を持ち直すことができました。

 そして、私は目尻に残った涙を指で拭うと、クラスメイトの元へと駆け寄りました。
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