セリフ箱

朗読

朗読 君が嫌いだ。

君が嫌いだ。
朝になると、毎日同じ時間に起こしに来る君が嫌いだ。
君はいつも、カーテンを大きく開けそっと一言
「朝ごはんできたよ？」と呟く。
平日ならまだしも、休日にだって同じ時間に同じことを伝えに来る。
休日くらいゆっくり寝かせてくれてもいいじゃないか。
私は、そんな律儀な君が嫌いだ。

君が嫌いだ。
困った人を助けずにはいられない君が嫌いだ。
迷子になった子どもを見つけては、子どもと同じ視点にまでしゃがみ
「どうしたの？ママは？」と、そっと声をかける。
物を沢山持って歩く人が転んだ時は
「大丈夫ですか！？」と、必ず拾うのを手伝いに行く。
これが、どんな記念日でも、大切な用事があったとしても、必ず君はそうする。
これではもう、予約したレストランには間に合わない。そうなったとしても。君はそうする。
私は、そんな献身的な君が嫌いだ。

君が嫌いだ。
毎日「愛してる」と伝えてくる、君が嫌いだ。
何気ない日々だとしても、喧嘩したとしても、誕生日の日にも、変わらず君は「愛してる」と伝えてくる。
1人になってしまった日だって、数秒の電話をかけ、「愛してる」と一言伝えてくれる。
私は、そんな愛情深い君が嫌いだ。

君が嫌いだ。
君が嫌いだ。
君が嫌いだ。

私を1人置いていく、そんな君が嫌いだ。

毎朝もう、優しい声をかけてくれる律儀な君はもういない。
困った人をほっとけない、そんな優しい笑顔を浮かべる献身的な君はもういない。
愛していると、心の底から伝えてくれる、愛情深い君はもういない。
1度でも起きなかった日は無いはずだ。
1度でも付き合わなかった日は無いはずだ。
1度でも「愛してる」と返さなかった日は無いはずだ。
なのに、君は私を置いていく。

白いベッドの上
アルコールの香りが鼻腔をくすぐる。
シワの深く入った優しい顔で眠る君は
いくつになっても綺麗だった。

突然君は、私を1人にしてしまう。
こんなにも、君に夢中になってしまった私を置いていく。
そんな、罪な君のことが
私は、嫌いだ。