記憶喪失で私のことを忘れてしまった彼をまた取り戻すまでの物語

えと えいと

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ゴールデンウィーク 再会編

8日目 小さかった幸せ ①

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「…あーーーっ!!!もう!やっっっと帰って来れた!無理!海見るだけで船酔いするわこんなの!!ばーか!ばーーかばーか!」

久しぶりの陸
海から朝日が登り始め、海にキラキラと反射するその世界が一面を照らしていくなか
僕はその場で地団駄を踏み、
さっきまで居た海に向かって溜まった鬱憤を出し切るかのように叫び散らかす。

周りには浜辺を散歩するご年配など、人はいるもののそんなのはお構い無しである。
なぜならそれほどムカついてるし、疲れたのだから。人に気を使ってられるわけが無い。

……

……あ、皆さん
お久しぶりです
元部です!
なんかすみません…久しぶりの登場なのに突然こんなお姿見せてしまい……
母親に連れられて本当に海に連れ出され、船に乗せられた後、ようやく帰ってきました。
辛い辛いブラック労働の末、身体と心はクタクタだし…帰ろうにもここがどこか分からない…多分距離的にそんなに遠くではないんだけど…

周りをキョロキョロと見渡し、ここがどこなのか、なにか手がかりがないかを探す。
…………

いや、ここどこやねーーーーーーん!!

何度周りを見渡しても、今自分がいる場所を認知できるものが何も無い。
船でグロッキーになった上で知らない所に置いていったあの船長…人間ちゃうやろ。

…まぁ正直、手がかりに関してはあってもなくてもよく理解出来ないと思うけどね。

なぜなら浜辺なんてほとんど来たことないからである。
だから、なにか見つかっても初めて見るものばかりだし、たぶん…あそこでは無いよな。
てか、最後に来たのはいつだろうか…引きこもるようになる前………あの時が最後か??
まぁどちら、何があったとかどこにあったとかそんなに詳しく覚えていない。

…仕方ない…はずなんだ。

だって、あそこに最後にきたのは約10年前。
あの日以来だから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「こうちゃんは将来何したいとかあるの??」

とある神社の石段に座り
ジリジリと日光が大地を照らすなか、木々の影の下で僕たち2人。
そんな2人は唯一素を出せる時間をのんびりと過ごしていた。

お互い足や腕に傷が隙間から覗く光に照らされ少し痛々しい。
しかし、そんな傷を忘れさせるほどの空気と幸せそうなその表情はたぶん、どんな人よりも綺麗で幸せを表している。

「…うーん、そうだなぁ。とりあえず大切だなって思る人を守れるような人になりたい!」

「そっかそっか!ちなみに大切な人って…今のところいる?」

「うーーーーん…実は1人だけいるよ!」

「えっ!だれだれ!」

「ちょ、それ聞く!?そんなの秘密だよ秘密!いつかその言葉を伝えても大丈夫になったらちゃんと言うんだ…だからその…」

待っててね。

最後に呟いたその言葉弱々しく
小さく震えている。
普段なら見つめることが出来ていた彼女の顔でさえ、顔が熱くて見ることが出来ない。
しかし、この言葉の返事が欲しいと心が訴えてくる。
いつの間にか僕は、その返事を求めるように、細く小さな小指を差し出す。

「…そっか、わかった。約束だからね」

すると、彼女はその返事として優しく僕の小指をつむいでくれた。
普段ひんやりと冷たい彼女の指は何故か今日だけは温もりに溢れているように感じる。

サラサラと聞こえる浜辺の波の音
近くにある浜辺には珍しく人がいないため、聞こえるのは僕たちふたりの声と波の音だけが聞こえた。

この思いも言葉も…しっかり伝わってるといいな。

僕はその日から、小さな体で抱いた大きな夢に向かって頑張ることを誓う。
この小さな幸せが無くならないように。
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