記憶喪失で私のことを忘れてしまった彼をまた取り戻すまでの物語

えと えいと

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ゴールデンウィーク お泊まり編

7日目 今も過去も愛せるように ⑯

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家族とは、同じ屋根の元生活を共にする他人である。

完璧に同じ考えを持つ人間はこの世に存在しない。
だからこそ、自分以外の存在は

「他人」

なのだと私は思っている。

しかし、家族には血の繋がり自体は関係ない。
血縁関係があろうがなかろうが、家族として受け入れた存在は全て家族になる。

だからこそ
私はそんな「家族」というものが大好きだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

私には大切な2人の姉弟が居た。
しかし、そんな姉弟と私は血が繋がっていない。
私を含め、3人は養子としてとある家庭に受けいられていた。

私はとある2人の若者の間に授かった1つの命としてこの世に誕生した。
母親の年齢は15歳
父親の年令は17歳だったと、父からそう聞いているが、本当なのかは分からない。
ただ、そんな若者には子どもを育てる覚悟も財力もなかった。

案の定捨てられていることから、本当の両親の話は本当のことなんだろう。

しかし、今こうして生きていられていることも事実である。
捨てられる命だった私を受け入れてくれた両親のおかげなのは変わらなかった。

そんな両親は、既に私以外にも2人の子どもを養子として受け入れていた。
年齢は上下2歳差の女の子と男の子。
こうして、一人っ子だったはずの私に、新しく姉弟が出来たのである。

初めて会う他人。
血の繋がりは一切ない。
しかし、何故か嫌悪感は一切感じなかった。
多分この出会いは運命だったのだろう。
自然と私たち3人は、家族としての絆を深めていった。

姉である亜香里(あかり)は、周りから人望が厚く、多くの人から慕われていた。
しかし、それは外での姿であり、家の中では可愛げのある甘えん坊として、私達家族に甘えでばかりだった。

弟の隆之介(りゅうのすけ)は臆病な性格で、私達姉の後ろについてばかりの恥ずかしがり屋だった。そんな姿をよく家族からも周りからもいじられていたが、それ以上に愛されている幸せ者だったと思う。

私を育ててくれた父と母も、心優しい仏のような存在だった。
…まぁ、私達を助けてくれた時点でそれは分かってた話だけども…

こんな素晴らしい人達に囲まれて成長できた私も幸せ者だったと思う。
こんな産まれ方だったけど
捨てられていた人生だったけど
逆に、こんな素敵な人達と家族になれるなら、来世もこんな風に過ごしたい。
そう感じるほど私の心は満たされていた。

そんな人生の途中
自己が固まりつつある
思春期真っ盛りの学生時代。
私はふと気になったことを父親に聞いてみた

「何故、私達みたいな血の繋がってない人達を育てようと思ってくれたのか」と

すると父は一言

「舞?」

と名前を呼び、私のことを手招きしてくれた。私はそれに従い父の近くに寄ると、そっと優しく包み込むように抱きしめてくれた。
そして、1呼吸置くと優しく耳元で話し始める。

「家族はいいものだろ…こうして、恋人でも友達でもない、少し違う温もりの感じ方が出来る。俺は…こんな素敵なことを知らないで生きるのは、もったいないと思っていた。それを感じる機会を与えてやりたい…そう思ってこういうことを始めた…」

父の回答は、普段通りと変わらない優しさに溢れる暖かいものだった。
また、それに合わせ、鼻をすする音が父から聞こえ始める。

「…舞は…家族を…いいものだと思ってくれたか?」

そして父には珍しい、震えを感じる緊張したで話を続けた。

「…もちろんだよ…お父さん。私…家族大好きだよ…」

私は、そう返事をし
父を強く抱きしめ返した。

ここをきっかけに、私の中に1つの人生の目標が生まれる。

「私も、こんな心の広い人を目指したい。」

そこから私は、これまでも大好きだった家族という存在をもっと愛すようになった。
血縁がなくても愛してくれた、この家族たちからの愛情を、思う存分変えせるように…

また、それがきっかけで、私は児童相談所で働くことを目指したのは別の話である。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

久しくあっていないが
私のその姉弟にあの2人は似ている。
最後にあったのは10年前…
いや…15年前か…?
確実に分かっているのはノアちゃんとの生活が始まっていらい、連絡も一切取れていないということである。
電話を入れても、メールを送っても
何一つ返事はない。

そんな時間が続いていく度に
もしかしたら死んでしまったのではないだろうかと、不安で不安で仕方がなくなってしまっていた。

残念な話だが、私の父と母は年齢もあり、今はもうこの世にはいない。
だからこそ、あの2人に会いたいという気持ちはとても強かった。

そんなふうに思っていた矢先
自分の娘が、あの2人を連れてお店に来たのである。
…始めはただの勘違いだと思っていた。
ただの思い込みだと思っていた。
しかし、話をしていくうちに、亜香里と隆之介の特徴と一致する点がとても多かった。いや、多すぎた。
見た目の特徴も似ているように感じる。
性格も話し方も声すらも
懐かしさに浸れるような、そんな感覚が頭の中を満たし始めてしまう。
それほど、かさなる影がとても多かった。

あの2人が付き合っているのなら…本当に悪い事をしたと思う。
しかし、私からしたら2人とも長い時間を共にした家族のように思えてしまう。
そんな懐かしかが、2人からは滲み出ていいた。

…私は、その感情を抑えることが出来なかった。

「…」

「…ママ?」

心配そうに話しかけてくれる優しいノアの声が聞こえる。

「…ごめんね?」

素直に謝る、可愛い娘の謝る声が聞こえる。

でも、それ以上に今は

…亜香里と隆之介に会いたい…
その気持ちが頭の中に充満していた。


…その時

「ママ…」

突然、後ろから抱きついてくる自分の家族からの声が耳に入ってくる。

そんなノアから感じるのは、あの家族ならではの本当の温もり。
あの2人を抱きしめた時に感じた時の温もりとはひとつ違う
父から感じたあの時の温もりと同じものだった。

「…ノア…ちゃん?」

「…ママがよく言ってくれてた…家族はいいものだって…。暖かいものだって…。今はママの傍には私しか居ないけど、私だってママの心を救いたいし…ママのお姉さんとか弟さんみたいに、癒しになりたい…」

だから…思いっきり抱きしめてあげる…
ママが大好きな、少し強めの
包み込むようなそんなギューをしてあげる…だから元気出して??

そんな優しい声で伝えられたその言葉に、さらに感じる懐かしさと心地良さ。
父に似た、優しさに溢れた温もり…

その存在が私の中で本来するべきことを訴え始める。

…今ある
自分の手の届く範囲の守れる存在に
愛を注げ…と。

私は抱きしめるノアの手を優しくつかみ、そっと振りほどいた。
そして、お返しと言わんばかりに、強く抱きしめ返してあげることにした。

ギュッ…

自ら抱きしめたからこそ感じることの出来る、人としての温もり
家族としての温もり
それがとても心地よいものに感じた。

「…私こそごめんね…色々と心配させちゃって」

その言葉に、涙目になるノア
血の繋がりはないのに、あの時の父のような感覚が今のこの子にはあった。

「ううん…私、良い家族でいられてる??」

「…私の自慢の一人娘だよ。ありがとう…ノア…大好き」

私はその後
しばらく抱きしめたあと
優しく育ってくれた自慢の娘の頬に
軽くキスを残した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しかし、ずっとこうしている訳にはいかない。
そもそもの話だが、私は今調理中だ。
あとは弱火で煮込むだけだが
味見や味付けの微調整など
まだやらなければならいことが多くある。

気持ちが満たされた私は
抱きしめる腕の力を抜き、そっと
家族の頭に手を乗せて
優しく撫で始める。

「十分に充電が出来ました…ありがとうね?ノアちゃん」

「ううん?ママが元気だしてくれるならいつでも呼んでねーん」

ふふふんと自信満々で微笑んでいるノア。
そんな姿を見た私の顔にも笑顔がしっかり戻っているのを感じ始める。

「……よし!とりあえず、最後の調節だけするから、もうそろそろ2人に何食べたいか聞いてきて欲しいんだけど…」

「ママ?」

今日はお店開くのやめましょう!!

すると突然
営業中止を提案し始めるノア

せっかく準備もしてきたのに…
…どうしてだろう
私はその考えにいたった理由が何一つわからなかった。

「…どうして??せっかく準備もしてきたのに…私も旅行が終わって働けるようになったわけだからさすがに…」

「鳴海さん、遊園地の帰りに家でお泊まりしたいって話してたから…ママも2人と交流深めるチャンスかなーって思って!」

…えっ

…お泊まり…したい…の?

………

「え!?それほんと!?!?」

想像以上に自分から大きな声が出ていたが、それどころでは無い。
大切な家族のお友達がお泊まりしたいと言っていたのだ。
自分の娘のためにも、友達のためにも
できることはしてあげたい。

「うんうん、今日はお店閉めましょう!お泊まり会開催決定です!」

「わかった。それじゃとりあえず、2人に話をしてきて欲しいんだけど…」

「舞さん何かありま………」

噂をすればなんとやら
私の声に心配して様子を見に来てくれた鳴海ちゃんがキッチンまで来てくれた。

そんな健気な姿が一瞬
亜香里と被るものの、私は違う理由で鳴海ちゃんをいつの間にか抱きしめていた。

「ちょ、ちょっと!舞さん!?突然抱きしめるのやめてください!!!」

私は、ノアちゃんのおかげで目を覚ますことが出来た。
この2人は決して亜香里と隆之介では無い。
似ているだけで、本人ではないということ。
尊くて、家族のように思えてしまうけれど、家族ではないということ。
これらを理解することが出来た。

では、なぜ今こうして抱きしめてしまっているのか。

それは、大切なことには変わりないからである。

2人は、ノアちゃんの人生を豊かにしてくれていた大切な友達。
自分の家族を大切にしてくれているのなら、私もこの2人を大切にする権利があるはずだ。

…似ているけど少し違う。
家族というものそのものが他人で構成されているからこそ、今こうして大切な存在を愛せている。

「鳴海ちゃん!今だけでもいいからお願い!!ちょっとの間こうしてたいの…私からの健気なわがままだと思って…その…抱きしめられてて欲しい!」

私のできる誠意いっぱいのお礼の仕方
私が知っている、1番幸せを感じることの出来る温もり。
それを、大切だと思った人にはあげていきたい。
そう感じた私は
こうして大切な人に温もりを分けてあげる。
ただそれだけだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後
お泊まり会をしたかったという話をノアちゃんから聞いたことを鳴海ちゃんに話した。

すると

「…ノアちゃんに断られてたんで…ダメなのかなっておもってました…。でも泊まれるなら…泊まりたいです!」

鳴海ちゃんは快くお泊まり会を受け入れてくれた。

鳴海ちゃんを説得できたのだから、残るは一秋くんだけである。

私は鳴海ちゃんを抱きしめながらキッチンを出て、一秋君の名前を呼ぶ

「一秋くんー??」

名前を呼ばれたことに気づいたのか
不思議そうな顔を浮かべた一秋君の表情がこちらを向く。

「…コホンッ…えっとねぇ…」

今日はお泊まり会をするということになったので…夜何食べたい??

その顔に対して、私は笑顔でそう応えた。

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