記憶喪失で私のことを忘れてしまった彼をまた取り戻すまでの物語

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今日までもこれからも浜崎乃亜は忘れない

4日目 今日までもこれからも浜崎乃亜は忘れない ⑤

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ノアにキスをされてからどのくらい時間が経っただろう
そんなに時間は経っていないはずなのに、とても長い時間唇を合わせていた気がする。
数秒が数時間にも、数日にも思える。
それはきっと、突然の事だったということ。
そして、彼女が本気で僕を愛してくれていたこと。
そして、僕もそのキスをされた時に感じた、ノアの温もりの安心感に魅せられてしまったこと…。色んな理由が考えられる。

嫌な気持ちをほとんど感じさせない
本当に優しいキス
抱きしめてくる体は細く、少し力を入れたら壊してしまいそうなほど脆く尊い
緊張と不安があるなか、想いを伝えたいというただ1つの純愛がダイレクトに体と心に流れてくる。
震えている身体
そして、ケアのされた不快感のない美しい唇
彼女の存在を強調するような甘いお菓子のような香水の香り
全てが、彼女の存在を僕に刻み込む。

…でも、ごめんね…
今の僕には
君の愛情は必要ない。

僕は、冬華さんとの約束を守りたいんだ。
1番守りたい笑顔があることを知ってしまった。
記憶をなくして、君と最初に出会っていたら変わっていたかもしれない。
いや…変わんなかったかな。
あの懐かしくて、思い出せないことが苦しくて
でも、それでも前に進みたいと思えるあの感情はきっと特別だから感じれた。
その特別にはきっと敵わない。

唇を離し、見つめて来るノアの瞳は涙を含みキラキラと輝いている。
しかし、その奥には暗く淀んだ闇があった。
…不安だよな
そんな中、告白してくれたんだな
…ありがとう。そして

ごめん

「先輩…ご」
「ノア…君に話したいことがある。」
そんな瞳を向ける彼女に
僕の気持ちを全て話すしかない
今の僕の状態のこと
僕の中にある唯一の特別な人のこと
そして、君と僕のこれからのことを

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
先輩ごめんなさい
きっと、こんな強引なキスは嫌だったと思う。
好きでもない人とのキスは嫌だったと思う。
でも、今しかないとそう思ってしまいました。
いつでもいいように
このチャンスが来る時のために毎日準備していました…
先輩の全てが欲しいと言いったけど、それ以上に
私の全てを貰って欲しい
受け取って欲しい
幸せになって欲しいから、私の身体と心全て尽くしてあなたを守りたい。
そう思ってるだけなんです。

複雑な気持ちにさせたくはなかったけど
自分の身と心を心授けたいという気持ちには勝てなかった。
…やっぱり私は最低だ。
記憶のない今しか攻めれない私は
…ただの弱虫なんだろうな

…やっぱり、今日で終わりにしようかな
…嘘つきで卑怯者の私がそばにいたらきっと…

キスをしたとき
私の中でふたつの選択肢が天秤にかけられた

ひとつ
先輩の恩を返したい
だから、自分の身と心全てを使って恩返しをしたい。大好きな先輩のために。初めて人にそう思えたあの時から…ずっと…

そしてもうひとつ
先輩の為に離れる
先輩の彼女である冬華さんが記憶を失って何もしていないわけが無い。あれだけ好きあっていた2人だもの。
今私は、記憶が無い先輩の隙をチャンスだと思って奪おうとしている。
先輩は覚えてなかったとしても、もし私と先輩がつきあったら冬華さんを不幸にしてしまう。それに、記憶が戻った時に先輩を不幸にしてしまう。
だから…そのリスクを避けるためにも、決意を曲げて離れる。

…やっぱり…後者の方が幸せな人が多い…んだろうな
…私の恋はやっぱりずっと卑怯で暗くて
敵わないのだろうか。
私が暗かったんだもん…そりゃ全部暗くなるよ。
髪もピアスも洋服も容姿も、頑張って変わろうと思ったけど、…心はなかなか変えられない。

私はずっと、先輩がくれたあの意識意外は上手く変わることが出来なかった。

どんどんネガティブに
どんどん暗く
どんどん深く
どんどん…帰れなくなって…

また…戻っちゃう…

…1でも変われたんだ…私にはそれだけでも十分過ぎるほどの幸せで。それで満足するべきだった。
そうだったらきっと、今こんなに苦しい思いしてない。もどかしい思いをしていない。

本当に、私は馬鹿でダメな女

…今日で終わりにしよう
キスもしてしまったけど、最後の思い出くらいいいよね?
…気持ちだけで動いてしまったこと
今までのこと…
取り返しがつかないことなのは分かってる。でも…さめて…謝りたい

「先輩…ご」
「ノア…君に話したいことがある」

謝ろうとしたその時
先輩は優しくそう問いかけてくれた。
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