小石井あきらの第二の人生

櫟 真威

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あきらの同窓会

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昌武が見立てたのは、上品なデザインの桜色のツーピースだ。
麟太郎が編み込みのハーフアップにしてくれた。
同級生の女子に教わったのだとか。
なんと器用なことか。

昌武と麟太郎が魔法をかけてくれたお陰で、家事疲れのおばさんがシンデレラにでもなった気分だ。

「指輪。
ちゃんとしていってよ」

昌武に釘を刺された。
普段している結婚指輪ではなく、婚約指輪の方だ。
ピンクダイヤも中々な大きさだが、周りを小さなダイヤモンドで縁取られている。
あきらにとっては派手な装飾品だ。
昌武が背後に周り、同じピンクダイヤのネックレスをつけてくれた。

「うん、かわいい」

「写真撮ろう」

「人で遊ばないでください」

それでも、麟太郎に腕を組まれると強くは云えず、甘えるままにしてしまう。
玄関先で三人並んで写真を撮った。
なんだか目頭が熱くなる。

「泣いてるの、あきらさん」

「泣いてないし。
ここはお母さんて呼んでくれても」

「いや、せっかくドレスアップしてるんだから。
このままデートしたいとこだよ」

「高校生は勉強しろ」

昌武の口から出るはずのない台詞が飛び出し、麟太郎とあきらは笑った。
電車を使うので少し早めに出掛けることにする。
件の同窓会の日なのだ。

「気をつけて行っておいで。
女子大だから男はいないだろうけど、変な男に声かけられるんじゃないよ」

心配性な昌武の言葉に、あきらは苦笑するしかなかった。
昌武と麟太郎に見送られ、あきらは出掛けた。
背筋がしゃんと伸びる。
魔法のお陰だ。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

同窓会は、とある料亭の大広間で行われた。
受付に、志筑麻子がいた。
あきらは、精一杯の愛想笑いをした。
志筑麻子は頭から爪先まで、値踏みするように眺めた。

「中々同窓会に来てもらえなかった早瀬さんが、結婚したら重い腰を上げてくれたわね」

「主人が送り出してくれたものだから」

「主人、ねえ」

正直、来るのは気が進まなかったが、昌武のFa◯◯bookを通して誘われては逃げようがなかった。
広間に入ると、男性が参加者の半数はいた。
あきらは目を丸くする。

「早瀬さん」

高校が一緒だった工藤夏海が手招きをした。
あきらはそちらへ向かう。
一緒に図書委員をした仲だ。

「あの、大学の同窓会って聞いてたんだけど」

「早瀬。
変わってないな。
いや、いい身体になって、色っぽくなったな」

あきらは夏海の方へ身体を寄せた。
胸元を凝視されたような気がしたのだ。
だが、お腹の大きい彼に見覚えがない。

「樋川君よ。
サッカー部の」

「え」

二十年という月日の長さに驚く。

「都合のつく人で集まろうって志筑が云い出したのよ。
今は結婚して大宮だけどね。
因みに私は五十嵐」

「あ、うん、葉書もらったね」

「北海道だからね。
早瀬さん、あ、小石井さんもおめでと」

「ありがとう」

「志筑に聞いたら、ついこないだなんだってな。
結婚したの。
そんなことならアタックしてみりゃよかったぜ。
あの頃、早瀬のファンクラブなんてあってさ」

あきらは夏海の隣に座ったが、樋川は反対側の隣に、あきらを挟むように腰かけた。
あきらは困惑して夏海を見たが、彼女は肩を竦めているだけだ。

「文学少女、流行ったからね」

「ああ」

本の虫のあきらをからかっているのだ。
あきらは笑って流した。
気づけば遠巻きにしている人たちも、あきらをちらちらと見ている。
この中では一番結婚が遅いはずだ。
噂の中身が気になる。

大学時代の先生が来られ、あきらは挨拶をする。
杖をつくようになっていたが矍鑠としていた。
乾杯をした後、近況報告を兼ねた雑談が始まる。

「でも私にはできないわぁ。
親子ほども年の離れた、しかも後妻なんて。
介護目的の結婚よね」

「麻子、よしなよ」

「しかも高校生の息子がいるんでしょ。
大変よね」

離れた席で聞こえよがしに志筑が話している。
あきらは否定する気もない。

「でもさ、◯◯コンツェルンの重役でしょ?
あたしなら知り合うことすら無理」

夏海は明るい声で割り込んだ。
樋川が驚いている。
向かいの席の赤井優子は感心したように云った。

「道理でね。
そのスーツ、素敵だもん」

「指輪もよ。
見せて見せて」

「い、いえあのその」

樋川が笑い出した。

「変わってねぇな、早瀬。
その可愛い感じ」

「樋川、代われ。
お前のせいで早瀬にあの頃近づけなかったんだからな」

なんのゲームだろう、露骨なモテ方をしている。
志筑のいたずらだろうか。
好かれてないと思っていたけど。

「志筑さん、この場に私が馴染めるように?」

「それはないわ。
彼女、早瀬さんに敵対心持ってたからね。
先生の呼び出しだとかって嘘ついて、早瀬さんを振り回してたじゃない」

「そんなこともあったなぁ」

「早瀬はのんびりぼんやりだな。
そこも好きだ」

「なんだ、告白タイムか?」

中年のおっさんたちがはしゃいでいる。
昌武よりは若いのだが、暴飲暴食でか体型維持ができていない御仁が多い。
改めて、昌武の意識の高さに驚かされる。

……帰りたくなった。

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