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昼過ぎに佐久間さんは現れた。
佐久間さんは暖かかそうなコートを着ていた。
流石、わかっていらっしゃる。

「交代するわ。
帰ってもいいし、会社に顔出してもいいし。
今日の君はお花見要員だからね」

「便所行ってきます。
一人で待つのも辛いし、一緒にいますよ」

「あら優しい」

辺りには同じようにブルーシートを敷いて場所取りしている人が増えてきた。
枝振りのいいところは早い者勝ちだ。
ちょうど良い場所がなくて斜面まで降りていく人もいた。

便所の帰りに自動販売機でコーヒーを二本買う。
眞島さんから受けた親切を、佐久間さんに返そうと思った。

「あら嬉しい」

佐久間さんは少女のように笑い缶を受け取る。

「用意がいいのね、座布団三枚も。
新井さんたちが会社からも持ってくると思うわ、座布団」

「あ、それは眞島さんが」

佐久間さんは目を見開いた。

「あら、そうなの」

「俺みたいな新人のフォロー、毎年してくれてるって」

佐久間さんはふふっと笑う。

「去年の新人て西尾さんね。
彼女は、まあわかるでしょ。
あんな風だから場所取りなんか引き受けないわ。
見兼ねた眞島くんが場所取りしたの」

「そうでしたか」

西尾さんは場所取りどころかコピーも取らない。
営業の連中が放って置けないと色々構うので、困ってはいないだろうが会社としてはどうなのだろう。

「で、それまでは新入社員はいなくて、眞島くんが一番年少なのよ。
去年までは眞島くんが場所取りしてたの。
久しぶりに新人が入って、期待してたらあれでしょ。
参っちゃうわね」

会社には二十代の社員が多いが、詳しい年齢まではわからない。
眞島さんが年少だったのか。

あれ。
でも。
てことは。

「後輩ができたから、嬉しかったのね。
張り切ったわね、眞島くん」

「ですよね」

朝もらったおにぎりの残りを頬張る。
二つ目はおかかだった。
佐久間さんがこちらを見ている。

「…それも、眞島くん?」

「あ、はい」

「その本も?」

「はい」

「春だわね」

佐久間さんは楽しそうに笑う。
ふくみがある笑い。
しかし理由はわからない。

「いい先輩に恵まれたわね」







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