6 / 11
6
しおりを挟む
私は当麻を見た。
傷ついたような顔をしていた。
「帰るね」
当麻は立ち上がった。
私は咄嗟にその服を掴む。
「ごめんなさい……」
当麻は屈み、私の目線に合わせる。
当麻の顔が涙で歪んでよく見えない。
「俺の方こそごめん。
舞い上がってた」
当麻は私の額に唇を落とし、出ていった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「当麻は優しいのかヘタレなのか」
真奈美は辛辣だ。
大学のカフェテリアで、私はグレープフルーツジュースを飲みながら拝聴する。
ヘタレなのは私だ。
あの場面で怖じ気づき、男性に恥をかかせてしまった。
「しょ、正直に話してみる。
だめならそこまでだって思うことに」
「へえ」
真奈美は私を見つめて微笑んだ。
「あきらにそこまでさせるなんて、当麻は余程いい男なのね」
確かに。
鴻上瑞樹に別れを告げられた時は、悲劇のヒロインになってしまって、自分を省みなかった気がする。
みっともなくても、当麻に追い縋ってみたい。
好きなんだもの。
「そうね、当たって砕けてきなさい。
骨は拾ってあげるわ」
「砕けたくない……」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
当麻には私から連絡をした。
いつもピクニックをする公園で待ち合わせた。
当麻は変わりない笑顔で私を迎えた。
「あ、あの」
「うん」
「こ、この間の釈明をします」
「釈明?」
当麻の呆れたような声が私を苛む。
だが、ここは踏ん張りどころだ。
「私っ、マグロで不感症で人形なんですっ」
一息に叫ぶ。
風の音と、どこか遠くで鳥が鳴く声がした。
そして。
当麻が吹き出した。
私は当麻を見て目を丸くする。
当麻は本当におかしそうに笑っているのだ。
「あきらっ、そんなこと昼間の公園でっ」
あれ。
なんか私、非常識でしたか。
当麻は私を抱き締めた。
私は当麻の胸に顔を埋める形になって、息が出来ない。
当麻はそんなことお構いなしにぎゅうぎゅうに締め付ける。
「あきらはもう、ほんとに」
そして顔中にキスをされた。
非常識に叫ぶ私と、公園でキスをする当麻。
どっちがおかしいでしょうか。
どっちも。
傷ついたような顔をしていた。
「帰るね」
当麻は立ち上がった。
私は咄嗟にその服を掴む。
「ごめんなさい……」
当麻は屈み、私の目線に合わせる。
当麻の顔が涙で歪んでよく見えない。
「俺の方こそごめん。
舞い上がってた」
当麻は私の額に唇を落とし、出ていった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「当麻は優しいのかヘタレなのか」
真奈美は辛辣だ。
大学のカフェテリアで、私はグレープフルーツジュースを飲みながら拝聴する。
ヘタレなのは私だ。
あの場面で怖じ気づき、男性に恥をかかせてしまった。
「しょ、正直に話してみる。
だめならそこまでだって思うことに」
「へえ」
真奈美は私を見つめて微笑んだ。
「あきらにそこまでさせるなんて、当麻は余程いい男なのね」
確かに。
鴻上瑞樹に別れを告げられた時は、悲劇のヒロインになってしまって、自分を省みなかった気がする。
みっともなくても、当麻に追い縋ってみたい。
好きなんだもの。
「そうね、当たって砕けてきなさい。
骨は拾ってあげるわ」
「砕けたくない……」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
当麻には私から連絡をした。
いつもピクニックをする公園で待ち合わせた。
当麻は変わりない笑顔で私を迎えた。
「あ、あの」
「うん」
「こ、この間の釈明をします」
「釈明?」
当麻の呆れたような声が私を苛む。
だが、ここは踏ん張りどころだ。
「私っ、マグロで不感症で人形なんですっ」
一息に叫ぶ。
風の音と、どこか遠くで鳥が鳴く声がした。
そして。
当麻が吹き出した。
私は当麻を見て目を丸くする。
当麻は本当におかしそうに笑っているのだ。
「あきらっ、そんなこと昼間の公園でっ」
あれ。
なんか私、非常識でしたか。
当麻は私を抱き締めた。
私は当麻の胸に顔を埋める形になって、息が出来ない。
当麻はそんなことお構いなしにぎゅうぎゅうに締め付ける。
「あきらはもう、ほんとに」
そして顔中にキスをされた。
非常識に叫ぶ私と、公園でキスをする当麻。
どっちがおかしいでしょうか。
どっちも。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる