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就職が内定した。
発展途上の中小企業だが、働きたいという私の意向を評価してくれた。
大学のカフェテリアで、真奈美がささやかなお祝いをしてくれる。
真奈美はマスコミ関係に早いうちに決まっていた。
「卒論もほぼ完成だし、あとはのんびり好きなことをしましょ」
カフェオレをグラスのように掲げて、真奈美はいたずらっぽく笑う。
こんな仕草がおしゃれに見える、真奈美が羨ましい。
「三ノ宮あきらさん。
就職内定おめでとう。
俺に、お祝いさせてくれないかな、今夜」
真奈美の隣の椅子に滑り込むように腰かけた彼に話しかけられる。
学内で会えば時々挨拶をする、当麻一樹だ。
あれ、そこまで仲良しだっけ?という真奈美の視線に、私は首を横に振る。
二人の不審な表情に、おどけた調子で当麻は云った。
「俺もやっと内定取りつけたから。
三ノ宮さんにお祝いをしてほしくてさ」
「……なら、今ここでパンケーキおごるよ。
夜出掛ける必要なくない?」
無愛想に私はメニューを見せる。
どうしても男性には身構えてしまう。
真奈美はにやにやとことの成り行きを眺めている。
他人事だと思って。
「あ、うーんと」
当麻は頭をかきながら考え込んでいる。
なんだろう。
もしかしてナンパだったのだろうか。
それなら、真奈美の方が適任だ。
流行りのおしゃれに身を包み、ぱっちり二重に妖艶な口元は芸能人と間違われかねない逸材だ。
「お菊人形」と称される私とは対照的。
尤も、真奈美には年上の、フィアットに乗ってる彼がいるが。
「三ノ宮あきらさん。
俺と、付き合ってください」
私は目が点になった。
「……なんの罰ゲームでしょうか」
私の氷点下な態度に、当麻は慌てている。
「え?
あの」
「残念ながら殿方とお付き合いする余裕は今の私にはありませんので悪しからず」
私は息継ぎもしないで一息に話す。
真奈美とアイコンタクトをして立ち上がる。
真奈美も頷き、私とカフェテリアを後にした。
その場に当麻一樹を残して。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「いいの?
あきら」
「え?」
「かなりイケメンだったよぉ。
当麻一樹、だっけ」
その男性の容姿に騙されて苦い思いをしたのだ。
同じ轍は踏みたくない。
「カフェテリアでナンパするような人は信用できない」
「真面目ねぇ。
もう一年以上経つんだから、切り替えなよ」
異性に免疫がないと、拗らせすぎて厄介だ。
私も、自分で自分が嫌になる。
それでも当時は世紀の大失恋、と世を儚んでいたのだ。
発展途上の中小企業だが、働きたいという私の意向を評価してくれた。
大学のカフェテリアで、真奈美がささやかなお祝いをしてくれる。
真奈美はマスコミ関係に早いうちに決まっていた。
「卒論もほぼ完成だし、あとはのんびり好きなことをしましょ」
カフェオレをグラスのように掲げて、真奈美はいたずらっぽく笑う。
こんな仕草がおしゃれに見える、真奈美が羨ましい。
「三ノ宮あきらさん。
就職内定おめでとう。
俺に、お祝いさせてくれないかな、今夜」
真奈美の隣の椅子に滑り込むように腰かけた彼に話しかけられる。
学内で会えば時々挨拶をする、当麻一樹だ。
あれ、そこまで仲良しだっけ?という真奈美の視線に、私は首を横に振る。
二人の不審な表情に、おどけた調子で当麻は云った。
「俺もやっと内定取りつけたから。
三ノ宮さんにお祝いをしてほしくてさ」
「……なら、今ここでパンケーキおごるよ。
夜出掛ける必要なくない?」
無愛想に私はメニューを見せる。
どうしても男性には身構えてしまう。
真奈美はにやにやとことの成り行きを眺めている。
他人事だと思って。
「あ、うーんと」
当麻は頭をかきながら考え込んでいる。
なんだろう。
もしかしてナンパだったのだろうか。
それなら、真奈美の方が適任だ。
流行りのおしゃれに身を包み、ぱっちり二重に妖艶な口元は芸能人と間違われかねない逸材だ。
「お菊人形」と称される私とは対照的。
尤も、真奈美には年上の、フィアットに乗ってる彼がいるが。
「三ノ宮あきらさん。
俺と、付き合ってください」
私は目が点になった。
「……なんの罰ゲームでしょうか」
私の氷点下な態度に、当麻は慌てている。
「え?
あの」
「残念ながら殿方とお付き合いする余裕は今の私にはありませんので悪しからず」
私は息継ぎもしないで一息に話す。
真奈美とアイコンタクトをして立ち上がる。
真奈美も頷き、私とカフェテリアを後にした。
その場に当麻一樹を残して。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「いいの?
あきら」
「え?」
「かなりイケメンだったよぉ。
当麻一樹、だっけ」
その男性の容姿に騙されて苦い思いをしたのだ。
同じ轍は踏みたくない。
「カフェテリアでナンパするような人は信用できない」
「真面目ねぇ。
もう一年以上経つんだから、切り替えなよ」
異性に免疫がないと、拗らせすぎて厄介だ。
私も、自分で自分が嫌になる。
それでも当時は世紀の大失恋、と世を儚んでいたのだ。
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