1 / 1
1
しおりを挟む
アクセルを踏み鳴らす車を全力で押し出す。
柔らかい雪にはまっていたタイヤがようやく抜け出す。
朝の六時から、そんな車を何台も救出していた。
除雪中に見かけてしまうと知らんふりもできない。
無論善意からなのだが、こうも続くと体力的にもたない。
例年にない大雪は、歩行者にも自動車にも迷惑だ。
これから通院という高齢ドライバーの車を押す。
タイヤが雪の中を空転する。
疲労からか、先ほどと違い一気に押し出せない。
気持ちが焦る。
「運転手が絶世の美女で、これきっかけで恋に落ちたりとかしちゃったりなんかして」
くだらない妄想で気持ちを湧き立たせる。
「独り言きも」
すぐそばまで来ていたのに気配に気づかなかった。
飛び上がりそうなほど驚く。
そして、発言内容に落ち込む。
「そんなきもい奴と関わらずにさっさと学校行けば」
拗ねたような俺の発言に、楽しそうな笑顔を見せる。
「いやいや、十年来の幼馴染が絶世の美女と恋に落ちる瞬間を見逃す訳にはいかないでしょ」
なんつう嫌味だ。
奴は俺のそばに来て一緒に車を押す。
車はふっと浮いて走り出すことができた。
車窓越しにドライバーが、お礼を言い、走り去る。
柔らかい路面は下手に止まらず走り続けるしかない。
またタイヤがはまっては大変だからだ。
「馬鹿言ってないで、行くぞ」
「そうだね、もう美人ドライバーは現れそうにないね」
しつこい。
俺は渋面になる。
雪はね用のママさんダンプを物置にしまう。
奴は勝手知ったる我が家の玄関から俺の鞄を持って出てきた。
俺の好みは目の前にいる十年来の幼馴染だということは絶対に秘密だ。
「遅刻するぞ、ほら」
幼馴染が楽しそうに俺の肩を叩いた。
〈了〉
柔らかい雪にはまっていたタイヤがようやく抜け出す。
朝の六時から、そんな車を何台も救出していた。
除雪中に見かけてしまうと知らんふりもできない。
無論善意からなのだが、こうも続くと体力的にもたない。
例年にない大雪は、歩行者にも自動車にも迷惑だ。
これから通院という高齢ドライバーの車を押す。
タイヤが雪の中を空転する。
疲労からか、先ほどと違い一気に押し出せない。
気持ちが焦る。
「運転手が絶世の美女で、これきっかけで恋に落ちたりとかしちゃったりなんかして」
くだらない妄想で気持ちを湧き立たせる。
「独り言きも」
すぐそばまで来ていたのに気配に気づかなかった。
飛び上がりそうなほど驚く。
そして、発言内容に落ち込む。
「そんなきもい奴と関わらずにさっさと学校行けば」
拗ねたような俺の発言に、楽しそうな笑顔を見せる。
「いやいや、十年来の幼馴染が絶世の美女と恋に落ちる瞬間を見逃す訳にはいかないでしょ」
なんつう嫌味だ。
奴は俺のそばに来て一緒に車を押す。
車はふっと浮いて走り出すことができた。
車窓越しにドライバーが、お礼を言い、走り去る。
柔らかい路面は下手に止まらず走り続けるしかない。
またタイヤがはまっては大変だからだ。
「馬鹿言ってないで、行くぞ」
「そうだね、もう美人ドライバーは現れそうにないね」
しつこい。
俺は渋面になる。
雪はね用のママさんダンプを物置にしまう。
奴は勝手知ったる我が家の玄関から俺の鞄を持って出てきた。
俺の好みは目の前にいる十年来の幼馴染だということは絶対に秘密だ。
「遅刻するぞ、ほら」
幼馴染が楽しそうに俺の肩を叩いた。
〈了〉
0
お気に入りに追加
2
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら
たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら
何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。
特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで…
*別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話
天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。
レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。
ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。
リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる