識る

「……そういや、俺らのファーストコンタクトって、めちゃくちゃタイミングが悪かったよな。」

ふと、昔を懐かしむようにおもむろに呟いたのは、机を挟んで正面の椅子に腰掛ける彼。

「……確かに、そうね。」

私も当時を思い出して苦笑する。

その際、一瞬胸に浮かんだのは、旧懐の念と少々の寂しさ。

「……でも。」

しかし、直ぐにそれらの感覚は消え去って、私は正面に座る彼を見据えて微笑んだ。

「……あの時にキミと出会ってなかったら、今の私はいないと思うな。」

胸を満たすは温もり。

『永遠に埋まることはない』と、そう思っていたはずの空洞は、彼の存在が満たしてくれた。

「……それを言うなら俺もだよ。」

恥ずかしそうに頬を掻き笑う彼もまた、私に向ける表情は柔らかい。

「…………。」

この世に、『絶対』も『永遠』も無いように。

いつまでも続くかのように見えるこの『幸せ』にだって、きっといつか終わりがくる。

―――死んで灰になったその後は、きっと一人になってしまう。

……だから。

「―――愛してる。」

「……へ?」

「ふふっ何でもない、言ってみただけ。」

二人で笑みを交し合える『今』に、限りない愛しさを溢れさせるように。

―――重なり合った手の平が、最期の最期まで離れてしまわないように。

それまでは、こうやって……

―――『幸せ』の中で、生きていたいと思うの。
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