12 / 1,008
病院
しおりを挟む
祐羽は自分を落ち着けるように、ゆっくりと息を吸って吐いた。
ここは病院といわれたが、白い天井に無機質なカーテンや壁紙、蛍光灯がそれを知らせる。
「安心して貰って結構です。こちらの費用は私どもで持ちますので」
男は祐羽に特別、関心がないようだ。
話す口調がそう物語っていた。
「費用の事は、口止めとして受け取って貰いたい。この度の事務所でありましたことは、口外しないようにお願いします」
男はそれだけ言うと時計を確認する。
「では、私はもう行きますので。後の詳しい事は部下に任せておりますから…では」
男はそのまま踵を返して病室のドアを潜り抜け、お供の男二人を従えて出ていった。
代わりにその辺を歩いていてもおかしくない、普通の男がひとり、ひょっこり入ってくる。
明らかに日陰の道を歩いています、といった風情の男とは異なる。
といっても普通よりは目立つ感じの若い男で、茶色に染めた髪の毛が似合っている。
服装もスーツではなく、若い男の子が着ていそうな服だ。
「どぅも~」
男が軽い口調と共に、ベッドサイドへとやって来た。
祐羽は見ず知らずのその男に、遠慮がちに視線を向ける。
「説明するな~。昨日お前はうちの社長の蹴りをマトモに喰って…まぁ、手加減して貰ってたから大丈夫だろ?んでもって打撲~全治1週間だとさ」
急に喋ったかと思うとペラペラと一気に話出す。
「で、昨日は意識なくしたから慌てて病院連れてきたんだけど…で、そのまま眠り続けて朝になったワケ」
「ええっ ⁉ 朝 ⁉」
確かに窓の外は明るい。
まさの無断外泊になってしまった。
帰らない自分に、両親は心配しているだろう。
探しているか、まさか捜索願いを出したりしてないだろうか?
電話をしなくちゃ‼ と慌てた祐羽は、男に訴えた。
「で、でで、電話を…‼」
それで言いたい事が分かったのだろう。
男は唇の端を上げた。
「お前の家なら大丈夫だ。俺が電話入れといた」
「で、電話?」
携帯は行方不明。
鞄の中にも特に電話番号や住所を示した物は一切入っていない。
どうやって知りもしない家へと連絡したというのだろうか?
疑問に首を内心傾げた祐羽に、男が丁寧に説明をしてくれる。
「あ?そうそう。昨日の夜ね~学生証見たから~。学校名と名前から探せばカンタン、カンタン♪」
さも何でもないように言われて、個人情報取得のお手軽さに目眩を感じそうになる。
見た目は一般人でも、相手はやはりヤクザなのだと確信する。
「お前の母親が出たから、体調崩して近くの先輩の家に泊まる事になった~って話しといたから」
「えっ⁉ せ、先輩?」
「そう。あっ、俺、俺。俺が臨時の先輩ね~」
ふざけているのか、自分を示しながら笑っている。
「ここ、あと三時間で退院になるから。それまでゆっくり療養しときなよ。眞山さんが言ってたけど、お金は心配しなくて大丈夫だから」
どうやら、最初に居た男は眞山と言うらしい。
「それじゃ、俺ももう行くから」
それだけ言うと男は手をヒラヒラさせながら笑った。
「あ、はぁ…ありがとう、ござい、ました…?」
助けてもらったので、一応お礼を言う。
だけど、そもそも原因は向こうだし…と疑問に思いつつ口にした。
すると、ドアを潜り抜けようとして男が止まる。
「あ~言い忘れ。今回のことは喋るなよ?お前の為にはならない。あと、もうあんな場所に行くなよ?じゃぁな‼」
言葉の最後は、ドアの閉まる音に消される形で残った。
「だっ、誰にも喋らないし‼ あと、あんな所二度と絶対に行かないよ…っ!……はぁっ」
誰も居ない静かな病室で、祐羽は掠れた小さな声で叫んだ。
そして、思わず溜め息が零れた。
ここは病院といわれたが、白い天井に無機質なカーテンや壁紙、蛍光灯がそれを知らせる。
「安心して貰って結構です。こちらの費用は私どもで持ちますので」
男は祐羽に特別、関心がないようだ。
話す口調がそう物語っていた。
「費用の事は、口止めとして受け取って貰いたい。この度の事務所でありましたことは、口外しないようにお願いします」
男はそれだけ言うと時計を確認する。
「では、私はもう行きますので。後の詳しい事は部下に任せておりますから…では」
男はそのまま踵を返して病室のドアを潜り抜け、お供の男二人を従えて出ていった。
代わりにその辺を歩いていてもおかしくない、普通の男がひとり、ひょっこり入ってくる。
明らかに日陰の道を歩いています、といった風情の男とは異なる。
といっても普通よりは目立つ感じの若い男で、茶色に染めた髪の毛が似合っている。
服装もスーツではなく、若い男の子が着ていそうな服だ。
「どぅも~」
男が軽い口調と共に、ベッドサイドへとやって来た。
祐羽は見ず知らずのその男に、遠慮がちに視線を向ける。
「説明するな~。昨日お前はうちの社長の蹴りをマトモに喰って…まぁ、手加減して貰ってたから大丈夫だろ?んでもって打撲~全治1週間だとさ」
急に喋ったかと思うとペラペラと一気に話出す。
「で、昨日は意識なくしたから慌てて病院連れてきたんだけど…で、そのまま眠り続けて朝になったワケ」
「ええっ ⁉ 朝 ⁉」
確かに窓の外は明るい。
まさの無断外泊になってしまった。
帰らない自分に、両親は心配しているだろう。
探しているか、まさか捜索願いを出したりしてないだろうか?
電話をしなくちゃ‼ と慌てた祐羽は、男に訴えた。
「で、でで、電話を…‼」
それで言いたい事が分かったのだろう。
男は唇の端を上げた。
「お前の家なら大丈夫だ。俺が電話入れといた」
「で、電話?」
携帯は行方不明。
鞄の中にも特に電話番号や住所を示した物は一切入っていない。
どうやって知りもしない家へと連絡したというのだろうか?
疑問に首を内心傾げた祐羽に、男が丁寧に説明をしてくれる。
「あ?そうそう。昨日の夜ね~学生証見たから~。学校名と名前から探せばカンタン、カンタン♪」
さも何でもないように言われて、個人情報取得のお手軽さに目眩を感じそうになる。
見た目は一般人でも、相手はやはりヤクザなのだと確信する。
「お前の母親が出たから、体調崩して近くの先輩の家に泊まる事になった~って話しといたから」
「えっ⁉ せ、先輩?」
「そう。あっ、俺、俺。俺が臨時の先輩ね~」
ふざけているのか、自分を示しながら笑っている。
「ここ、あと三時間で退院になるから。それまでゆっくり療養しときなよ。眞山さんが言ってたけど、お金は心配しなくて大丈夫だから」
どうやら、最初に居た男は眞山と言うらしい。
「それじゃ、俺ももう行くから」
それだけ言うと男は手をヒラヒラさせながら笑った。
「あ、はぁ…ありがとう、ござい、ました…?」
助けてもらったので、一応お礼を言う。
だけど、そもそも原因は向こうだし…と疑問に思いつつ口にした。
すると、ドアを潜り抜けようとして男が止まる。
「あ~言い忘れ。今回のことは喋るなよ?お前の為にはならない。あと、もうあんな場所に行くなよ?じゃぁな‼」
言葉の最後は、ドアの閉まる音に消される形で残った。
「だっ、誰にも喋らないし‼ あと、あんな所二度と絶対に行かないよ…っ!……はぁっ」
誰も居ない静かな病室で、祐羽は掠れた小さな声で叫んだ。
そして、思わず溜め息が零れた。
20
お気に入りに追加
3,682
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる