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男
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人間、諦めるとこうもなるのか?
祐羽は正直、泣き叫びたい気持ちでいっぱいだった。
けれど、泣き叫んでも無駄ということは分かっているし、そうすることで相手を刺激して益々恐ろしい事態に陥ることは、絶対に避けたかった。
このまま大人しくしてやり過ごし、無関係で何の力も持たない一般人を解放してほしい。
本当かどうかは知らないが『一般人には手を出さない』ということを小耳に挟んだ事がある。
なので、祐羽はこのまま大人しくして何とか解放されたい一心で、ただひたすら下を向いていた。
だからといって、こんな事態に慣れていない祐羽の恐怖は言葉では言い尽くせない。
「…あうっ⁉」
そんな祐羽の願いも空しく、側に居た男に顎を持ち上げられる。
華奢な顎に力が込められて、祐羽は眉間に少し皺を寄せた。
そして隠していたかった顔を上げられたことで、祐羽は自然と目を前へと向けた。
「あ…」
そして祐羽は次の瞬間、口をポカンと開けた。
目の前に居た男は想像とは全く違っていたからだ。
ヤクザの組長というイメージは、そこには無かった。
え?この人、ヤクザの組長…だよね…?
話の内容から、それは確かな事だった。
ソファにどっかりと腰を下ろして自分を見つめる男は、冷めたような何を考えているのか分からない表情でそこに居た。
男らしいキリリとした眉。
その下には切れ長で、二重の意思の強さを宿した黒い瞳。
筋の通った高い鼻梁と形の良い唇。
整えられ軽く撫で付けられた黒い髪が、男の顔にとても似合っている。
そんな美形と言うのが正しいだろう。
整った顔立ちが無表情だと、相当な威圧感を与えてくる。
「…」
男は無言だった。
祐羽はゴクリと小さく唾液を呑み込むと、少し視線を外す。
男は、座っていても高身長だと分かる。
持て余している長い脚には高級そうな革靴。
この少し薄暗い室内でも輝いていた。
「おい」
どの位の時間そうしていたか、突然男が口を開いた。
祐羽はそちらを見た。
唇から出たその声は、やはり心地よい音をしていた。
低く怖いと思わせるには充分なものだが、祐羽には魅力的にしか思えなかった。
だから、もう一度聞けたら嬉しいのになぁ…と唇を見つめた。
「…おい。聞こえてるなら返事くらいしろ」
祐羽の念願叶って男は再び口を開いたが、その内容まで頭には入ってこなかった。
男は祐羽に声を掛けていた。
けれど全く気づかずに、ぼんやりと男を見ていた祐羽は次の瞬間男から視線を外すことになる。
「返事しろッ‼」
ガツッといきなり衝撃が来た。
どうや祐羽を捕らえていた男が、軽く頬を叩いたらしい。
祐羽が組長である男の言葉に返事をしなかったことに対して、強面の男が不機嫌そうに声を荒げながら手を出してきたのだ。
小造な祐羽には男の軽い平手でも相当な衝撃で、頭がクラクラして目の前にまさしく星がチカチカと飛び散っていた。
「ぁ…」
声も出せなかった。
まるで歯医者で麻酔をされた時のような…。
ドゴッ
「ぐあっ…‼」
祐羽が涙を浮かべて呆然と俯いていると、直ぐ側で男の呻き声が聞こえた。
「誰が手を出していいと言った?」
静かに問い掛ける声は魅惑的で、そして怖いと思うものだった。
祐羽は正直、泣き叫びたい気持ちでいっぱいだった。
けれど、泣き叫んでも無駄ということは分かっているし、そうすることで相手を刺激して益々恐ろしい事態に陥ることは、絶対に避けたかった。
このまま大人しくしてやり過ごし、無関係で何の力も持たない一般人を解放してほしい。
本当かどうかは知らないが『一般人には手を出さない』ということを小耳に挟んだ事がある。
なので、祐羽はこのまま大人しくして何とか解放されたい一心で、ただひたすら下を向いていた。
だからといって、こんな事態に慣れていない祐羽の恐怖は言葉では言い尽くせない。
「…あうっ⁉」
そんな祐羽の願いも空しく、側に居た男に顎を持ち上げられる。
華奢な顎に力が込められて、祐羽は眉間に少し皺を寄せた。
そして隠していたかった顔を上げられたことで、祐羽は自然と目を前へと向けた。
「あ…」
そして祐羽は次の瞬間、口をポカンと開けた。
目の前に居た男は想像とは全く違っていたからだ。
ヤクザの組長というイメージは、そこには無かった。
え?この人、ヤクザの組長…だよね…?
話の内容から、それは確かな事だった。
ソファにどっかりと腰を下ろして自分を見つめる男は、冷めたような何を考えているのか分からない表情でそこに居た。
男らしいキリリとした眉。
その下には切れ長で、二重の意思の強さを宿した黒い瞳。
筋の通った高い鼻梁と形の良い唇。
整えられ軽く撫で付けられた黒い髪が、男の顔にとても似合っている。
そんな美形と言うのが正しいだろう。
整った顔立ちが無表情だと、相当な威圧感を与えてくる。
「…」
男は無言だった。
祐羽はゴクリと小さく唾液を呑み込むと、少し視線を外す。
男は、座っていても高身長だと分かる。
持て余している長い脚には高級そうな革靴。
この少し薄暗い室内でも輝いていた。
「おい」
どの位の時間そうしていたか、突然男が口を開いた。
祐羽はそちらを見た。
唇から出たその声は、やはり心地よい音をしていた。
低く怖いと思わせるには充分なものだが、祐羽には魅力的にしか思えなかった。
だから、もう一度聞けたら嬉しいのになぁ…と唇を見つめた。
「…おい。聞こえてるなら返事くらいしろ」
祐羽の念願叶って男は再び口を開いたが、その内容まで頭には入ってこなかった。
男は祐羽に声を掛けていた。
けれど全く気づかずに、ぼんやりと男を見ていた祐羽は次の瞬間男から視線を外すことになる。
「返事しろッ‼」
ガツッといきなり衝撃が来た。
どうや祐羽を捕らえていた男が、軽く頬を叩いたらしい。
祐羽が組長である男の言葉に返事をしなかったことに対して、強面の男が不機嫌そうに声を荒げながら手を出してきたのだ。
小造な祐羽には男の軽い平手でも相当な衝撃で、頭がクラクラして目の前にまさしく星がチカチカと飛び散っていた。
「ぁ…」
声も出せなかった。
まるで歯医者で麻酔をされた時のような…。
ドゴッ
「ぐあっ…‼」
祐羽が涙を浮かべて呆然と俯いていると、直ぐ側で男の呻き声が聞こえた。
「誰が手を出していいと言った?」
静かに問い掛ける声は魅惑的で、そして怖いと思うものだった。
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