闇の覇王と無垢な花嫁

満姫プユ

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  笑瑠がやって来ると男はこちらを見る。
 そして、その可愛らしい顔に一瞬見とれてしまった様だ。
 その顔は完全に恋に落ちた顔だ。

 見てる見てる…ウフフッ。

 その視線が快感で、自分が可愛い事に益々自信が沸いていく。
 いつもは、このパターンだ。

 なのに、どうだろう。
 今回は勝手が違った。
 お目当ての男・九条は一切こちらを見向きもせず、コーヒーを飲みながら視線は相変わらず前を向いている。
 ちっとも見てくれなくてショックを受けるが、少し離れたベンチだから仕方ないかもしれない。
 自分の事を見たくても流石にあからさまに見ることが出来ないのだろう、と思いながら笑瑠は九条の横顔を見つめた。

 …カッコイイ。

 見惚れさせるつもりがウッカリ自分が見惚れてしまい慌てて作戦に移る。
 こういう時はベタだが物を落として拾って貰うのが1番だ。
 笑瑠はリップを取り出すと、さっそく唇へと塗りはじめる。

「あっ!」

 それからわざと落とすと拾おうと立ち上り、ここでも小技でリップを靴で軽く蹴ると、上手く九条の元へと転がって行った。

「ごめんなさい」

 直ぐ足元に転がってきたリップに気づいた九条が綺麗な指先で拾うと笑瑠へと無言で差し出した。
 笑瑠は、らしくなく胸をキュンと高鳴らせた。
 ここで普通に受け取りたいが、それはしない。
 
「きゃっ!…痛ぁ~ちょっと隣、すみません」

 ヒールのせいでバランスを崩した笑瑠は、足首を痛めた風に装って、まんまと九条の隣へと座る事に成功したのだった。

 


「これ美味しそう…って僕の食べたい物じゃダメか。何が好きかな?」

 お土産コーナーで次は眞山と中瀬へとお菓子コーナーを巡っていた祐羽は、お菓子の重なる隙間からガラス越しに九条が僅かに見える事に気がついた。

あっ、ここから九条さんが見えるんだ。

 九条はカップ片手に座っている。
 もう少しズレればもっと見えるかもしれない。
 祐羽は場所を移動して別の隙間を発見すると、お菓子を物色する振りをしてコッソリと見る。

 え?

 そこには、あの女子高生と一緒に並んで座る九条の姿があった。
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