闇の覇王と無垢な花嫁

満姫プユ

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隠し事

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 呼ばれて何かと顔を向ける。
 丁度、九条の事を考えていただけに内心冷や汗が出てしまう。
 誤魔化すつもりで返事をする。

「…何ですか?」

 よく嘘や隠し事が下手だと言われる表情筋が、やはり不自然にピクッと動いたのが自分でも分かった。
 ダメだと言い聞かせてもこればっかりは言うことをきかない。
 上手く隠せたか不安に顔を若干曇らせた。

 そんな祐羽の顔を面白そうに、けれどどこか真剣な顔で見てきた中瀬は、口を尖らせた。

「考えてる事、隠そうとしても無駄だよ~。さっきから挙動不審だし表情に出てる」

考えてる事がバレてるの?!

 そう言われてなんとなく両手で頬を押さえる。

「ん~そういうトコロなんだけどねぇ~」

 けれどまさか考えている内容までは分からないだろうと、祐羽は唇をきゅっと結び気持ちを引き締めた。
 こうすれば表情には出ないだろう。
 その様子を何処か呆れた様子で、中瀬は話を続けた。

「あのさ…そうやって意識して不自然な方が怪しいって、何で気づかないかな?」

「不自然…」

 必死の隠し事も全く隠し事になっていなくて、呆然とする。

「話し戻すけど、月ヶ瀬くんは下手な事考えないでいた方がいいと思うよぉ。で、これ行くときにも話したけど重要だからもっかい言っとくねぇ~」

 するといきなり顔を近づけてきたので、祐羽は思わず少し仰け反った。
 その中瀬の目がスッと細まる。
 瞳の色が暗く沈んだ。

「九条社長には逆らうな。あの人ほど出来る男は居ないし、あの人ほど容赦の無い人は居ないからな。やるといったらやるし、欲しいと思ったら絶対手に入れる…。その為には…」

神妙な顔でそこまで言ってから押し黙ると、少し考えてからコロッと表情を一変させた。

「まぁ俺が言わなくても直ぐに分かることか~。とりま帰ってから親には言わない方がいいよ!」

 そうは言うが、祐羽は既に決めている。
 両親に本当の事を話す、と。
 
 行く前に脅された時は両親に迷惑をかけまいとして黙っておく決意をしたが、九条の手が伸びる前に警察に駆け込めばいい事に気がついたのだ。
 今は暴対法もあり、警察も厳しい対応をしているイメージがある。
 一市民が困っていれば絶対なんとかしてくれるはずだ。

 帰って直ぐに相談しよう。

 その為には今は大人しくしておくのが得策だと、祐羽は頷いた。

「…九条さんの事、親には、言いません」

 自分に言い聞かせるように。

「言っとくけど九条社長の事をその辺のヤクザと一緒だと思ってるなら、考えが甘すぎるよ~」

 そして中瀬は反対の窓の外を見つめながら呟いた。

「…まぁ自分で気づくのが一番か」

 九条とはこれでお別れなのだから、これ以上知る必要はない、と祐羽は中瀬から視線を逸らした。
 
車はいつの間にか自宅のある市内へと入っていた。
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