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17.我が輩は石である。一縷の望みを導き出した石である。
しおりを挟む今日は随分と雨が強い。
雨ざらしにも随分と慣れてきた。
我が輩は石である。名前など有るわけが無い。
この世界にも等しく水は存在している。
雲から降り注ぎ、木々に恵みとして降り注ぐ。
我が輩の堕ちた異世界という地獄でも、それは変わらないようだ。
それにしても、異世界というなら、現代科学では説明できないような世界でも良いようなものだが、そこまで思い切った舵取りは、世界を生み出す創造神にもそれなりに負担なのであろう。
さて、我が輩が存在するこの世界は、等しく魂が根幹にある、と定義した。
この雨、一粒一粒に至るまで、魂がある。
一体、何万の魂が必要なのか。
しかしながら、この雨という「現象」が「器」と考えれば、自然現象にも魂があると考えられるし、異世界ファンタジーではより明確な言葉で例えられる。
「精霊」である。
我が輩の提唱した万物魂説だが、自然という器を超越出来た魂が精霊として顕現するのではないか、と仮定して考えを進めていきたい。
もちろん、創造神が肉体という器を作った、という説を唱える我が輩なのだから、精霊も予め神が器を準備したと考えるのが妥当であるが、それならば自然現象を目撃する度に、精霊がお目見えしていなければいけないはずだ。
木々の芽吹きにも、嵐の風雨にも、厳しい日照りにも、今の我が輩であれば、精霊が活動する姿を感知出来るはずなのだ。
時に。
異世界は必ず西洋の精霊が準備されているのは、何故なのだろうか。
確かに西洋の四大精霊を扱った方が便利であろうが、日本には八百万の神々がいる。ちょっと調べれば、万物に神がいる、という考えの元、精霊や付喪神が細分化出来るであろうに。
もったいない話である。
もとい。
八百万の神々や、精霊の事を想定して、我が輩という存在にも一縷の希望が灯った。
我が輩は、精霊、またはそれに準じた何かに「進化」することが可能なのでは無かろうか。
全てに平等に魂が宿っている。その中で、何らかの条件下で器の枷を破ったのが、精霊であるならば、我が輩には「ノーム」や「土の神に準じた何か」に至る可能性がある。
それは即ち、この地獄からの離脱を意味している。
そうなれば、我が輩のすることは考察だけではない。
この世界に存在している、精霊、ないし自然のエネルギーに近い、魔物の観察が必要だ。
誰にも気付いて貰えないから、などといじけている場合では無かった。
我が輩は石である。名前など有るわけが無い。
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