2 / 29
2.我が輩は石である。何も起こるわけが無い。
しおりを挟む
我が輩は石である。
諸子諸兄諸君の身近にある、その石コロである。
そして、我が輩は異世界に身を置く石である。
手も足も、目も鼻も、自らの意志で動くことは出来ない、思考するだけの石である。
我が輩は石である。名前など有るわけが無い。
まず、石であると自覚した際に、我が輩は戸惑いと興奮を覚えた。
希望通りの異世界転生である。
何者にもなれなかった自分を捨て、新しいスタートを切ったのだ。
自分一人では何も出来なくても、きっと何かの力を秘めているに違いない。
冒険譚の一端を担う存在になったに違いない。
見慣れぬ世界に、我が輩は心躍った。
異形な獣が跋扈し、剣と魔法で彩られた世界こそ、我が輩の居るべき世界であったのだ。
一日目。何も起きなかった。
二日目。小さな獣が通り過ぎた。
三日目。誰も通り過ぎない。
四日目。猿に放り投げられた。
五日目。今日は雨が強い。誰も来ない。
六日目。大きな黒い獣が匂いを嗅いだ。
七日目。今日は少し涼しいのだろうか。
如何に愚鈍な我が輩も、気付かない訳がなかった。
獣が現れた時は、興奮した。
何が起こるのかと期待した。
猿らしき獣に投げられたときは年甲斐も無く叫んでしまった。
ただ、それだけだ。
大きな獣は山のように大きかった。
そして、何も起きなかった。
ああ、そうだ。そうだとも。
これは地獄だ。
いつ何処で誰に話しかけられることも無く、空腹にさいなまれ親兄弟に当たり散らすことも無く、誰かと比べられ、劣等感に苛まれることも無く、高嶺の花であろう異性に憧れることも無く、教師の上から目線に苛立つことも無く、思い通りにならない世界に対し、理不尽であると喚くことも出来ない、まったく世界と関わることもない低次元な存在として、ただ思考し続けるだけのモノ。
我が輩は石である。
名前など、あるわけが無い。
諸子諸兄諸君の身近にある、その石コロである。
そして、我が輩は異世界に身を置く石である。
手も足も、目も鼻も、自らの意志で動くことは出来ない、思考するだけの石である。
我が輩は石である。名前など有るわけが無い。
まず、石であると自覚した際に、我が輩は戸惑いと興奮を覚えた。
希望通りの異世界転生である。
何者にもなれなかった自分を捨て、新しいスタートを切ったのだ。
自分一人では何も出来なくても、きっと何かの力を秘めているに違いない。
冒険譚の一端を担う存在になったに違いない。
見慣れぬ世界に、我が輩は心躍った。
異形な獣が跋扈し、剣と魔法で彩られた世界こそ、我が輩の居るべき世界であったのだ。
一日目。何も起きなかった。
二日目。小さな獣が通り過ぎた。
三日目。誰も通り過ぎない。
四日目。猿に放り投げられた。
五日目。今日は雨が強い。誰も来ない。
六日目。大きな黒い獣が匂いを嗅いだ。
七日目。今日は少し涼しいのだろうか。
如何に愚鈍な我が輩も、気付かない訳がなかった。
獣が現れた時は、興奮した。
何が起こるのかと期待した。
猿らしき獣に投げられたときは年甲斐も無く叫んでしまった。
ただ、それだけだ。
大きな獣は山のように大きかった。
そして、何も起きなかった。
ああ、そうだ。そうだとも。
これは地獄だ。
いつ何処で誰に話しかけられることも無く、空腹にさいなまれ親兄弟に当たり散らすことも無く、誰かと比べられ、劣等感に苛まれることも無く、高嶺の花であろう異性に憧れることも無く、教師の上から目線に苛立つことも無く、思い通りにならない世界に対し、理不尽であると喚くことも出来ない、まったく世界と関わることもない低次元な存在として、ただ思考し続けるだけのモノ。
我が輩は石である。
名前など、あるわけが無い。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる