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第二章 連邦首都アルステイラ

07話 15秒

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  大森林で2度も俺のことを救った相棒、キャノアルクトスがその巨躯を揺らしながら召喚される。
 ……種族名で呼ぶのは愛がないから、あとでちゃんと名前考えてあげようかな。

「……へえ」魔族の男は感嘆に似た声を漏らす。「キャノアルクトスか、召喚魔術も使える訳ね」

 相棒は肩部の外骨格の形状を巨大な筒形に変化させる。
 2門の真っ赤な大砲から高出力の魔力光線が射出された。
 光線は射出されてすぐに複数に枝分かれする。そしてまるで生き物のように、獲物を狙う大蛇のようにそれぞれの光線が巧妙にくねりながら魔族を貫かんと向かっていく。
 俺とフィーラはその光線群を挟みながら同時に魔族へ駆け出す。
 恐らく俺が魔術を使える時間はあと僅か、数秒後には先ほどのフィーラと同じように魔力操作だけの戦い方に限定される。タイムリミットを迎える前に、俺は自身に2つの標識効果を付与した。

 <最低速度制限・100㎞/h>+<最低重量制限・200㎏>

 強制的に移動速度の下限を時速100キロにまで底上げし、同時に体重を重くする。
 打撃の強さは速度と重量に左右される。いくら拳を魔力で纏って強化しても、元の身体が貧弱ではインパクトの衝撃は小さい。故の強化だ。

「確かにコレを10秒で黙らせるのは難しそうだ」魔族の男は言った。「15秒は必要かな」

 男は光線の射線上から消える。再び煙のように掻き消えたのだ。
 俺はまた背後を取られたのではないかと思い後ろを向いて<立入禁止>を展開しようとする。
 アイツが背後を狙っているという推測は正しかった。しかし対象が違った。
 魔族の男は相棒の真上に現れると、
「【メントゥム】」と詠唱。
 瞬間、男の右手がグロテスクな音をたてながら急激に膨張した。赤黒い積乱雲のような肉塊と化した彼の右手。
 その先端がパックリと割れノコギリを思わせる鋭い歯が姿を見せた。
 森で遭遇したラトネボアアジャラの大口と同じかそれ以上のサイズだ。

 いやな予感を感じ取り俺は相棒の背中に<立入禁止>を展開する。
 バリアに腕の歯がぶつかり、金属同士が激突したような甲高い音が鳴り響いた。

「……結界魔術かあ」男がそう言うと、膨張した腕が穴の開いた風船のように一気に萎んで元に戻った。すると男は宙に浮いた状態で首だけをこちらに向け

「やっぱりお前が一番面倒だわ」と呟いた。瞳には俺に対する明確な敵意が宿っていた。黒曜石のような冷たい色。底の見えない深淵。
 
 静かな圧力に気圧されて俺は誘導灯を振り下ろす。恐らくこれが最後の魔術だろう。
 魔族の男は表情一つ変えずに虚空を蹴り、こちらに正面から突っ込んでくる。
 <踏切あり>によって具現化された電車と魔族の男は衝突し轟音と共に爆炎を巻き起こす。
 
 しかしソレでも男は止まらなかった。
 1秒も経たないうちに粉塵を掻き分け姿を現す。まるで何も起こっていないかのように平然と。
 衝突前と全く変わらないスピードで俺を屠らんと接近してくる魔族。
 ソイツから俺を守るように相棒は間に入り突撃を阻む。そしてゼロ距離から魔力光線を放った。

 だが、男は再び煙のように消える。
 こう何回も回避されると流石に心折れるな…。

 少し遠くの方に姿を現した男は口を開く
 
「…そろそろかな」

 男がそう言った瞬間、俺の右手にあった誘導灯がフッと消えた。出ろ!と念じても再出現しない。
 時間切れか…。フィーラと同じく、呪詛魔術の効果が俺にも顕れ始めたのだ
 ここからは基本的な魔力操作と既に発動済みの魔術効果のみで戦わないといけない。
 正直言ってかなり厳しい状況だ。

「時間切れだね。でも、人間の小娘にしてはよくやった方だよ」男は言った。「だけど幾ら磨いたところでゴミはゴミさ。残念だけど君たちはコレで終了――」
「ソレはどうかしら?」

 フィーラはそう言うと視線を修練場の外壁に移す。
 そこには黒いスーツを着た大勢の人間が修練場を取り囲むように並んでいた。

「時間切れはアンタの方よ、魔族」
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