追放令嬢に転生した交通警備のオッサン(36)、何でもありな【道路標識の効果を具現化する】魔術で無双し成り上がる

カタギのまぐろ

文字の大きさ
上 下
23 / 24
第二章 連邦首都アルステイラ

06話 修練場での攻防

しおりを挟む
術式が刻まれていない純粋な殴打。練り固めた魔力のみを纏わせた拳。
 魔族の言葉を最後まで聞くこともなく、フィーラの右手は彼の顔面を打ち抜いた。
 浮遊魔術の反重力性を超える一撃により魔族の男は地面に叩きつけられる。

「痛てて……魔術が使えないから魔力操作だけの戦法に変えたんだ。まあそうするしかないよね」

 頬を片手で掻きながらすぐに立ち上がる。
 まるで効いていませんよ、と言いたげに。

「私の家族をどこにやった!!」
「俺は知らないって、エリヴェータ本人に聞いてくんない?アイツのことだし、まだ同じようなことやってるよ多分。今は連邦を北上してウェルテキアの方に行ってるんじゃない?」

 フィーラの必死の訴えを軽く受け流す魔族。

「ふざけるな……」フィーラは声を漏らす。魔族の男を屠るに至らなかった華奢な拳は、悔しさからかプルプルと震えている。

 今までのやり取りからして、フィーラと魔族たち――具体的にはエリヴェータという魔族――の間に確執があるのは明らかだ。話を聞くにフィーラは目の前で家族を弄られ、奪われた。恐らくそういう目に遭っている。詳しいことは分からない。だが俺はソレを聞き出そうとするほど野暮な人間ではない。幼少期に起こった悲劇というの得てしては人間の心に真っ黒な影を落とす。この件は間違いなく彼女にとっての地雷だ。
 たった1日の付き合いで決めつけていたのは良くないが、俺はフィーラに対し悩み1つ無い天真爛漫な少女だという印象を抱いていた。
 この軽率な考えのまま、ふとした話の流れで家族の話なんて切り出していたら…気まずい状況になっていたのは容易に想像がつく。
 記憶の片隅から拾った情報によれば、オキュラスの構成員は全員ではないにしろ過去に何かしらの遺恨を抱えている人間が多い。フィーラのような戦闘員では特にその傾向が顕著だ。生前の世界でいう、警察官や軍人を志す動機の1つに通ずるものがあると思う。

 彼女の拳から滴る鮮血を以て、過去への詮索をタブーとする業界の人間にお世話になっているということを俺は実感した。

「ふざけるなって言われてもなぁ……」頭を搔きながら魔族は言った。「結局あの時パパとママを守れなかったのは、お前が弱っちいからでしょ?」いやらしく口角を上げて。

「…黙れ!!!!」フィーラは固めた魔力を左手から2つ放出する。双方とも並みの鎧であれば消し炭になりそうなほど高密度なエネルギー弾だ。

 しかし魔族は片方を裏拳で右側に弾き返し、もう片方は首を軽く傾けることで回避する。

「芸がないね~まあ術式を練れない人間だったらそんなもんか」

 俺は加勢すべく誘導灯を握った腕を振り上げた。【巨岩重砲ロックブラスト】を発動するために<落石注意>+<一方通行>+<最低速度制限・150㎞/h>の3つの標識を具現化しようと誘導灯を振るうが、3度目の振り上げの時にソレは起こった。

「ッ!?」

 右手のひらに突然衝撃波のようなものが当たり、思わず誘導灯を離してしまったのだ。
 衝撃波は勿論、魔族の男から飛ばされたものだ。

 <落石注意>+<一方通行>の2つの標識しか具現化に至らなかった為、召喚された4つの大岩は自由落下の速度に則り魔族の方へ射出される。勿論コレだけでも強力なのは間違いないが、相手はかつて人類を滅亡させた化け物。これまた難なく回避される。

「…嬢ちゃんは芸はあるけど、発動条件が分かり易いから妨害が簡単。天賦に甘えた初心者まじゅちゅちさんにありがちな弱点だね」

 赤ちゃん言葉を交えながら挑発的に講釈を垂れられてカチンときたが、正直否定はできない。
 異世界人にとって『道路標識』と『誘導灯』がイレギュラーな存在だとは言え、魔族のような魔術戦のスペシャリストからすれば、具体的な効果は兎も角、発動メカニズム自体の看破は容易だろう。

「くそ!もう1度!」フィーラは再び左手から魔力を練り出そうとする。しかし――
「…あれッ……魔力が…」
「ハイ時間切れ」魔族の男は言った。「術式だけじゃなくて魔力も封じ込めたよん……じゃあお次は……」宙に浮いたソイツは再び姿を消し

「お嬢ちゃんの番ね」俺の真後ろから囁きかけてきた。
「ッ!アリアネちゃん後ろ!!」
「やべッ――」
「【ヒューパ】」詠唱と共に魔族の男は俺の顔に手をかざす。

 魔術に目覚めて僅か1日であるが、俺の全神経が最大レベルの危険信号を発した。
 この魔術はヤバいと。恐らくフィーラにかけたのもコレなのだと。
 アレコレ深く考えるよりも前に、俺は右腕に全魔力を込めて逆ラリアットをお見舞いしようとする。
 が、命中の直前にソイツの姿は煙のように掻き消えた。

「そんなに怯えなくても~殺しはしないって」

 俺とフィーラは声が聞こえた方を同時に見る。2人の視線が交錯したタイミングで魔族の男は語りだす。

「ちょいとばかし、記憶を弄って洗脳するだけ。君たちには生きた状態で伝言者メッセンジャーになってもらいたいんだよ」

 洗脳が「ちょいとばかし」だ?人間と価値観が違いすぎるだろ!
 まあソレよりも気になるのが……

「…メッセンジャー?」
「ああ、こっちの話」魔族の男は答える。「じゃあ早速、脳みそイジイジといきますか――」

 恐ろしいことを口走り、指をぽきぽきと鳴らしながら魔族の男が一歩踏み出した、そのタイミングで

 ヴゥーーーーーン!!!ヴゥーーーーーン!!!

 ブザーともサイレンともとれる、何か根源的に身体が拒否反応を起こしてしまうような甲高い警報音が一帯に鳴り響いた。
「なんだ?」と魔族の男は不思議そうに辺りを見回す。それに対しフィーラは
「庁舎に魔力の塊をぶつけて警報を鳴らしたわ。コレでオキュラスの精鋭がすぐに駆け付ける」
「…ああ」魔族の男は恐らく、先ほど自身が避けた2発目の魔力の塊の存在を思い出して「あの当てる気が無かったへなちょこボールはそゆことね…」と呟く。

「まあでも、小娘1人捻りつぶすのに10秒もいらないから……無駄なあがきかな」

 男の声からは軽薄さが薄れ、その代わりに凄味が増していた。
 上位種の有無を言わさぬ威圧感に気圧されそうになるが、俺は対抗して一言。

「1人じゃないさ」
「……そこの魔力すらも封じられた娘も合わせて戦力ってこと?笑わせないでく――」
「それもあるけど…更に追加でもう!」

 俺は邪魔されないように一瞬で誘導灯を振った。
 具現化したのは、<クマ出没注意>

 鳴り響く警報音にも負けずとも劣らない遠吠えと共に、俺の相棒、キャノアルクトスが召喚された。
 
 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

処理中です...