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幕間 ファンデンベルク家の誤謬
01話 イレギュラー
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アリアネが魔力切れにより気絶してから少し時が過ぎた後のラトネ大森林に、1人の令嬢が訪れた。
「なによ…これ……」
アリアネに転移魔術をかけた張本人、ドロシー・ファンデンベルクは目の前に広がる信じられない光景に困惑する。4日遅れで大森林へ転送されたアリアネは、今頃用意しておいた暴漢たちにお楽しみされているはずであった。生まれた家とタイミングが良かったというだけで、魔術の才能が無かった癖に聖女選の立候補権を手にした生意気な妹の無様な姿が見れるはずであった。
しかし、そこにあったのは血に染まった数個の大岩のみ。アリアネや暴漢たちの姿はおろか、人間の気配すら感じない。
辺りを漂う異臭からして、人間だったモノが岩の下敷きになっているのは確かであるが。
目に映る全てが想定外なこの状況。計画が失敗したと、何かイレギュラーが起こったのだとドロシーは確信した。
動悸が激しくなり冷汗がじっとりと肌にしみる。しくじった経験など無い名家の令嬢にとって、この状況は恐怖でしかなかった。
何か手を打たないとまずい。そう直感したドロシーは転移魔術によって家族の元へ引き返すのであった。
――――――――――――
4日前。ヴィルデルト帝国某所。
「……ええ、大変申し上げにくいのですが…フィクトル・ファンデンベルク様…あなたの娘、アリアネ様には一切魔術の才能がありませぬ」
「……は?」
魔術適性検査師の告げた衝撃の事実に、フィクトルは一瞬思考を停止する。
「………ふはは!!いや、そんな訳あるはずがない。我の血を引いている人間が、あろうことか魔術を扱えんなどな!さあ、もう一回やってみろ。きっと違う結果が出るはずだ」
「…お言葉ですが、フィクトル様。既に何回も検査し、この結果が間違いではないことを確認し終えたところでございます」
「………………」
『次代聖女も、従来通りファンデンベルク家から選ばれるのだろう』
『いくらロンバード家のジーナが天才だとはいえ、あのファンデンベルク家が敗れる訳がない』
帝国内の聖女選における下馬評は、断トツでアリアネが優勢であった。
魔術の才に溢れるその血を以て、約200年11代に渡り勅撰聖女の座を独占してきたファンデンベルク家。その才覚の凄まじさといったら、直近の5回の聖女選では最初から他の家が諦めてしまって、そもそもファンデンベルク家以外に立候補者が出なかった程なのだから圧倒的と言うほかない。
たった一人とは言え、対抗馬が出てきたこと自体100年振りなのである。
アリアネ・ファンデンベルクとジーナ・ロンバードの一騎打ち。ジーナは既に魔術の才覚を現しているが、アリアネには未だその兆候は見られない。故に、アリアネの検査結果にすべては委ねられていた。
魔術の目覚めと言うのは個人差が大きい。成人するまで魔術に関してはからっきしダメであった人物が、ある日突然…………というのはよくある話。
今までの聖女選でも、現時点での実力で比較すると劣っていた候補者が検査をしたところ、実はとんでもない潜在能力が眠っていることが分かり逆転勝利、という事例は何度となくあった。
フィクトルは確信していた。アリアネもそのパターンなのだろうと。
ファンデンベルク家が敗北することなどあり得ないと。
―――しかし結果は違った。
この検査結果を受けて、同席していた帝国上層部が気まずそうに言う。
「え、ええと……ということは、24代目聖女の座はジーナ・ロンバードの手に渡るということで…」
「…………」
フィクトルは依然黙ったまま。怒りに体を震わせ、強く握られた両拳からは血が滴っている。
「お、お父様……申し訳ありません…わ…わたし…」
目に涙を浮かべながら父に許しを請うアリアネ。だが、実の娘による謝罪に対する返答は酷く冷たいものだった
「………ぃほうだ」
「…え?」
「……追放だ!!ファンデンベルクの顔に泥を塗った貴様は!!追放だ!!!」
「なによ…これ……」
アリアネに転移魔術をかけた張本人、ドロシー・ファンデンベルクは目の前に広がる信じられない光景に困惑する。4日遅れで大森林へ転送されたアリアネは、今頃用意しておいた暴漢たちにお楽しみされているはずであった。生まれた家とタイミングが良かったというだけで、魔術の才能が無かった癖に聖女選の立候補権を手にした生意気な妹の無様な姿が見れるはずであった。
しかし、そこにあったのは血に染まった数個の大岩のみ。アリアネや暴漢たちの姿はおろか、人間の気配すら感じない。
辺りを漂う異臭からして、人間だったモノが岩の下敷きになっているのは確かであるが。
目に映る全てが想定外なこの状況。計画が失敗したと、何かイレギュラーが起こったのだとドロシーは確信した。
動悸が激しくなり冷汗がじっとりと肌にしみる。しくじった経験など無い名家の令嬢にとって、この状況は恐怖でしかなかった。
何か手を打たないとまずい。そう直感したドロシーは転移魔術によって家族の元へ引き返すのであった。
――――――――――――
4日前。ヴィルデルト帝国某所。
「……ええ、大変申し上げにくいのですが…フィクトル・ファンデンベルク様…あなたの娘、アリアネ様には一切魔術の才能がありませぬ」
「……は?」
魔術適性検査師の告げた衝撃の事実に、フィクトルは一瞬思考を停止する。
「………ふはは!!いや、そんな訳あるはずがない。我の血を引いている人間が、あろうことか魔術を扱えんなどな!さあ、もう一回やってみろ。きっと違う結果が出るはずだ」
「…お言葉ですが、フィクトル様。既に何回も検査し、この結果が間違いではないことを確認し終えたところでございます」
「………………」
『次代聖女も、従来通りファンデンベルク家から選ばれるのだろう』
『いくらロンバード家のジーナが天才だとはいえ、あのファンデンベルク家が敗れる訳がない』
帝国内の聖女選における下馬評は、断トツでアリアネが優勢であった。
魔術の才に溢れるその血を以て、約200年11代に渡り勅撰聖女の座を独占してきたファンデンベルク家。その才覚の凄まじさといったら、直近の5回の聖女選では最初から他の家が諦めてしまって、そもそもファンデンベルク家以外に立候補者が出なかった程なのだから圧倒的と言うほかない。
たった一人とは言え、対抗馬が出てきたこと自体100年振りなのである。
アリアネ・ファンデンベルクとジーナ・ロンバードの一騎打ち。ジーナは既に魔術の才覚を現しているが、アリアネには未だその兆候は見られない。故に、アリアネの検査結果にすべては委ねられていた。
魔術の目覚めと言うのは個人差が大きい。成人するまで魔術に関してはからっきしダメであった人物が、ある日突然…………というのはよくある話。
今までの聖女選でも、現時点での実力で比較すると劣っていた候補者が検査をしたところ、実はとんでもない潜在能力が眠っていることが分かり逆転勝利、という事例は何度となくあった。
フィクトルは確信していた。アリアネもそのパターンなのだろうと。
ファンデンベルク家が敗北することなどあり得ないと。
―――しかし結果は違った。
この検査結果を受けて、同席していた帝国上層部が気まずそうに言う。
「え、ええと……ということは、24代目聖女の座はジーナ・ロンバードの手に渡るということで…」
「…………」
フィクトルは依然黙ったまま。怒りに体を震わせ、強く握られた両拳からは血が滴っている。
「お、お父様……申し訳ありません…わ…わたし…」
目に涙を浮かべながら父に許しを請うアリアネ。だが、実の娘による謝罪に対する返答は酷く冷たいものだった
「………ぃほうだ」
「…え?」
「……追放だ!!ファンデンベルクの顔に泥を塗った貴様は!!追放だ!!!」
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