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第一章 ラトネ大森林
09話 記憶の復元
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「ええ!?保護ってジャッジさん、上層部に黙ってそのようなことをして良いんですか!?」
「というより、黙ってするほかない」ジャッジは言った。自身に疑問を投げかけたユーバックの元へ近づきながら彼はこう続ける。
「あいにく現在の連邦最高指導者たちは揃いも揃って親帝国派。ただでさえ保身しか頭にない奴らなのに、帝国にとって都合の悪い存在を自国で匿おうなど認めるはずもない。言っても揉み消されるか、最悪秘密裏に始末されるなんてこともあり得る。
……かと言って、そのような権力に迎合して彼女を見捨てるというのは論外。とすれば最初に言った通り、上には黙って保護するしかないという訳だ」
「安心しろ。お前らに危険が及ぶことはない」と肩をポンと叩いたジャッジに、ユーバックは依然釈然としない口調で
「黙って匿うって……簡単に言いますけど、そんなことできるんですか?」と質問を重ねる。
「"できるできない"なんて話じゃないわ、ユーバック」フィーラはジャッジが叩いた方とは反対の肩をバシッと叩き、
「やるしかないのよ!!」とユーバックに発破をかけた。
「フィ、フィーラさんまで!?」
両肩から難題を押し付けられたユーバックはキョロキョロと首を左右に振る。
「なんだフィーラ、お前が乗ってくるとは意外だな。この事案は私一人で抱え込むつもりだったんだが」
「当たり前よ!!困ってる人が居たら助ける!ソレが私のモットーだからね!」
フィーラが言葉を言い終えた瞬間、彼女の身体に鎖が巻き付けられた。
先ほどまで俺を拘束していたアレと全く同じ…いや、それよりも少し太くて強固な感じがする。
鎖に縛られた瞬間、フィーラは力が抜けたようにへたり込んだ。
ジャッジは彼女と目線を合わせるようにしゃがんで皮肉交じりに
「…素晴らしいモットーだな、もう一度聞かせてくれ」
光の全く籠っていない眼からは皮肉など意味をなさないほどに本心がにじみ出ていた。目を見ているようで、見ていない。何かもっと深い部分を覗くようにギロッと彼女を捉える双眸。
「……いや、嘘です」ジャッジに気圧され耐えきれなくなったのか、フィーラは渋々口を開いた。「本当は、同い年くらいの魔術師でこんなに強そうな人久しぶりに見たから、血が騒いじゃって…ソレで、一回戦ってみたいなって…」
それを聞くとジャッジは呆れたように立ち上がり「またソレか…この戦闘狂め」と声を漏らす。
うん、話が難しそうだから首を突っ込むまいと黙っていたが、流石にそろそろ状況を理解したいな。
「ええと…この一連の流れの意味が分からないんだけど。なんで彼女の身体に鎖が?ソレにオキュラス?っていうのも何のことやら……」
「何?私の魔術の事はまだしも"目"を知らないなんてことがあるのか?仮にも帝国の名家出身だろう」
俺はギクッとした。ジャッジの言う通りファンデンベルク家は腐っても一国を代表する名家である。勅撰聖女になるための主な条件が「高い魔術適性」とは言え、他のことをおざなりにしている訳ではなかった。俺に対して心無い言葉を浴びせてきたアイツらも、幼少の頃から様々な教養を叩きこまれて育っている。
中でもアリアネは、自分は魔術に目覚めるのが周りよりも遅い――実際は才能が全くなかったわけだが――のだと察すると、せめて他の部分で努力しようと日々研鑽を積んでいた。
歴史、地理、政治、動植物の知識、文学、主要国家の要人に関する情報…と、挙げていけばキリがないが、とにかくアリアネは様々なことに精通しており、その知識量は計り知れない程であった。
いつ自分が魔術に目覚めても良いよう、実践の必要がない魔術の諸理論も頭に叩き込んでいた。
しかし、その知識のほとんどは引き継がれていない。
今の俺に残っているのはアリアネとファンデンベルク家に関する記憶と、ヴィルデルト帝国についての浅い知識のみ。
コレは困ったな…。
ジャッジの反応からするにオキュラスとかいうのはかなり有名な組織か何かなのだろう。それこそ、アリアネのような名家出身のお嬢様であれば当然知っているような、そういう組織。
ジャッジに嘘はつけない。それは今までのやり取りでなんとなくわかる。
とすれば正直に「実は俺はアリアネじゃなくて、別の世界から転生してきたんだ!だから何にも覚えてないのさ!」と言うほかないのだろうが…。
ソレではジャッジ達からの保護を受けられない可能性がある。
いやだって普通に気味が悪いじゃん。文字通り中身がオッサンの美少女って。
勿論そんなことを気にせず助けてくれるかもしれないが………
得体の知れないオッサンが中身の元お嬢様よりも、濡れ衣を着せられて可哀想な正真正銘のアリアネ・ファンデンベルク、の方がこの世界を生きるうえで絶対に融通が利く気がする。
となれば、やはり正体はバレたくない。
"嘘"にならない範囲で少しはぐらかすか…
「じ、実は追放を突き付けられたタイミングでほとんどの記憶が飛んじゃってさ…多分ショックによるものだと思うんだけど……」
「え、ソレって記憶喪失ってこと!?」俺の怪しさ満点の答えを聞いたフィーラは目を丸くし立ち上がった。
すると「ほらユーバック、アンタ精神系魔術使えたわよね?ちょちょいと治してあげなよ!」と言いながら彼の背を押し俺の目の前まで連れてくる。
……もしかして上手く誤魔化せたのかな?
ジャッジも特に怪しんでいる様子はないし。
「人使いが荒いなあもう……ではアリアネさん、失礼しますね」ユーバックは俺の額に手をかざすと一言、「【記憶復元】」と魔術らしきものを唱えた。
その瞬間、頭に激痛が奔った。転生直後に生じたものとは比べ物にならない激しい頭痛。
転生してすぐに流れ込んできた情報量が1だとすれば、今回の情報量は恐らく1000以上。そのレベルの記憶がいま頭から引っ張り出されている最中だと考えれば、当然と言えば当然か。
「頭が……わ、割れる…」
「そ、そんなにですか?今までに見たことがないですよ、こんなに痛がっている人」
痛みに苦しむ俺の様子を見てユーバックは困惑している様子。
脳をかき混ぜられ、穿り返されているような激痛がしばらく続いたが、それらも徐々に治まっていく。
痛みがだいぶマシになってきた頃、ユーバックが俺に声をかけてきた。
「終わりましたよ~、、どうです?記憶、戻りました?」
「ど、どうも。いや……今の時点では何とも……」
「"目"、コレについては思い出せたか?」ジャッジは戸惑っている俺を見て言った。
「オキュラ……あ」
探るようにその名前を口にしてみると、今まで脳内に存在していなかったソレがバッチリと記憶に刻まれていることに気づいた。
アリアネの記憶が、完全に戻ってきたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇
[Tips]
"公僕の質疑に対して意図的に虚偽を述べた若しくは虚偽の含まれた文書を提出した者は、それが発覚した時点より最大5月の禁錮に処す"
――連邦国刑法36条 偽証に関する規定
「というより、黙ってするほかない」ジャッジは言った。自身に疑問を投げかけたユーバックの元へ近づきながら彼はこう続ける。
「あいにく現在の連邦最高指導者たちは揃いも揃って親帝国派。ただでさえ保身しか頭にない奴らなのに、帝国にとって都合の悪い存在を自国で匿おうなど認めるはずもない。言っても揉み消されるか、最悪秘密裏に始末されるなんてこともあり得る。
……かと言って、そのような権力に迎合して彼女を見捨てるというのは論外。とすれば最初に言った通り、上には黙って保護するしかないという訳だ」
「安心しろ。お前らに危険が及ぶことはない」と肩をポンと叩いたジャッジに、ユーバックは依然釈然としない口調で
「黙って匿うって……簡単に言いますけど、そんなことできるんですか?」と質問を重ねる。
「"できるできない"なんて話じゃないわ、ユーバック」フィーラはジャッジが叩いた方とは反対の肩をバシッと叩き、
「やるしかないのよ!!」とユーバックに発破をかけた。
「フィ、フィーラさんまで!?」
両肩から難題を押し付けられたユーバックはキョロキョロと首を左右に振る。
「なんだフィーラ、お前が乗ってくるとは意外だな。この事案は私一人で抱え込むつもりだったんだが」
「当たり前よ!!困ってる人が居たら助ける!ソレが私のモットーだからね!」
フィーラが言葉を言い終えた瞬間、彼女の身体に鎖が巻き付けられた。
先ほどまで俺を拘束していたアレと全く同じ…いや、それよりも少し太くて強固な感じがする。
鎖に縛られた瞬間、フィーラは力が抜けたようにへたり込んだ。
ジャッジは彼女と目線を合わせるようにしゃがんで皮肉交じりに
「…素晴らしいモットーだな、もう一度聞かせてくれ」
光の全く籠っていない眼からは皮肉など意味をなさないほどに本心がにじみ出ていた。目を見ているようで、見ていない。何かもっと深い部分を覗くようにギロッと彼女を捉える双眸。
「……いや、嘘です」ジャッジに気圧され耐えきれなくなったのか、フィーラは渋々口を開いた。「本当は、同い年くらいの魔術師でこんなに強そうな人久しぶりに見たから、血が騒いじゃって…ソレで、一回戦ってみたいなって…」
それを聞くとジャッジは呆れたように立ち上がり「またソレか…この戦闘狂め」と声を漏らす。
うん、話が難しそうだから首を突っ込むまいと黙っていたが、流石にそろそろ状況を理解したいな。
「ええと…この一連の流れの意味が分からないんだけど。なんで彼女の身体に鎖が?ソレにオキュラス?っていうのも何のことやら……」
「何?私の魔術の事はまだしも"目"を知らないなんてことがあるのか?仮にも帝国の名家出身だろう」
俺はギクッとした。ジャッジの言う通りファンデンベルク家は腐っても一国を代表する名家である。勅撰聖女になるための主な条件が「高い魔術適性」とは言え、他のことをおざなりにしている訳ではなかった。俺に対して心無い言葉を浴びせてきたアイツらも、幼少の頃から様々な教養を叩きこまれて育っている。
中でもアリアネは、自分は魔術に目覚めるのが周りよりも遅い――実際は才能が全くなかったわけだが――のだと察すると、せめて他の部分で努力しようと日々研鑽を積んでいた。
歴史、地理、政治、動植物の知識、文学、主要国家の要人に関する情報…と、挙げていけばキリがないが、とにかくアリアネは様々なことに精通しており、その知識量は計り知れない程であった。
いつ自分が魔術に目覚めても良いよう、実践の必要がない魔術の諸理論も頭に叩き込んでいた。
しかし、その知識のほとんどは引き継がれていない。
今の俺に残っているのはアリアネとファンデンベルク家に関する記憶と、ヴィルデルト帝国についての浅い知識のみ。
コレは困ったな…。
ジャッジの反応からするにオキュラスとかいうのはかなり有名な組織か何かなのだろう。それこそ、アリアネのような名家出身のお嬢様であれば当然知っているような、そういう組織。
ジャッジに嘘はつけない。それは今までのやり取りでなんとなくわかる。
とすれば正直に「実は俺はアリアネじゃなくて、別の世界から転生してきたんだ!だから何にも覚えてないのさ!」と言うほかないのだろうが…。
ソレではジャッジ達からの保護を受けられない可能性がある。
いやだって普通に気味が悪いじゃん。文字通り中身がオッサンの美少女って。
勿論そんなことを気にせず助けてくれるかもしれないが………
得体の知れないオッサンが中身の元お嬢様よりも、濡れ衣を着せられて可哀想な正真正銘のアリアネ・ファンデンベルク、の方がこの世界を生きるうえで絶対に融通が利く気がする。
となれば、やはり正体はバレたくない。
"嘘"にならない範囲で少しはぐらかすか…
「じ、実は追放を突き付けられたタイミングでほとんどの記憶が飛んじゃってさ…多分ショックによるものだと思うんだけど……」
「え、ソレって記憶喪失ってこと!?」俺の怪しさ満点の答えを聞いたフィーラは目を丸くし立ち上がった。
すると「ほらユーバック、アンタ精神系魔術使えたわよね?ちょちょいと治してあげなよ!」と言いながら彼の背を押し俺の目の前まで連れてくる。
……もしかして上手く誤魔化せたのかな?
ジャッジも特に怪しんでいる様子はないし。
「人使いが荒いなあもう……ではアリアネさん、失礼しますね」ユーバックは俺の額に手をかざすと一言、「【記憶復元】」と魔術らしきものを唱えた。
その瞬間、頭に激痛が奔った。転生直後に生じたものとは比べ物にならない激しい頭痛。
転生してすぐに流れ込んできた情報量が1だとすれば、今回の情報量は恐らく1000以上。そのレベルの記憶がいま頭から引っ張り出されている最中だと考えれば、当然と言えば当然か。
「頭が……わ、割れる…」
「そ、そんなにですか?今までに見たことがないですよ、こんなに痛がっている人」
痛みに苦しむ俺の様子を見てユーバックは困惑している様子。
脳をかき混ぜられ、穿り返されているような激痛がしばらく続いたが、それらも徐々に治まっていく。
痛みがだいぶマシになってきた頃、ユーバックが俺に声をかけてきた。
「終わりましたよ~、、どうです?記憶、戻りました?」
「ど、どうも。いや……今の時点では何とも……」
「"目"、コレについては思い出せたか?」ジャッジは戸惑っている俺を見て言った。
「オキュラ……あ」
探るようにその名前を口にしてみると、今まで脳内に存在していなかったソレがバッチリと記憶に刻まれていることに気づいた。
アリアネの記憶が、完全に戻ってきたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇
[Tips]
"公僕の質疑に対して意図的に虚偽を述べた若しくは虚偽の含まれた文書を提出した者は、それが発覚した時点より最大5月の禁錮に処す"
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