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羅樹と彼方の天秤
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海に呼ばれた私は、そこに羅樹を同行させることを選んだ。そしてそこでヒトならざる力を羅樹と共に見ることで、半ば強制的に羅樹に理解してもらうことに繋がった。羅樹はその前から私のことを疑う様子などなかったし、実際昔に神隠しに遭った姿を見ているので疑念を持つことはなかったようだ。しかしそれ故に、羅樹はあちら側のことを敵視している節があった。それは私が居なくなるところを目の前で見たからで、トラウマになっていたからで、何よりも恐怖を抱いていたせいだった。
けれど今回、稲荷様へ会いに行く道中に同行してもらった結果、より羅樹から私への、私の持つ力への理解が深まったのではないかと思う。リーロの目を借りて私の視界を見たり、飛んだり、多くのヒトならざる経験をした。私もここ1年で経験したことばかりだが、元々力を持つ私とは違い、羅樹はこれから先同じような経験をすることはほとんどないだろう。今回は、私が羅樹も稲荷様も選ぶという強欲さを見せつけるために、羅樹だけを置いて行ったりはしないし、稲荷様を忘れることもしないと伝えるために連れて行った。羅樹は、知らなかった世界を知ったのだ。
それが、知らなくて良い世界だった可能性は否めないけど。
「…どうかした?」
虹様は既に話し終えていたらしく、私が無意識に呟いた声は見事に羅樹に聞こえていた。ハッとして羅樹の方を向けば、少しだけ間を空けて私の顔を覗いているのが見えた。どう説明しようかと迷い、素直に話すことにした。
「あの、演劇部の公演を見る前に、私が体調を崩した日があったでしょ?あれは、稲荷様から契約を解かれて力を失ったせいだったの」
あの前後に何があっただろうかと、思い出しながら言葉にする。
「そのせいかあんまり寝れなくて。その時にガラス玉が落ちて来たんだけど、握り締めて眠ったら龍の夢を見て。それで、呼ばれているような気がして。あの場所に行かなきゃって思って。あの時、思ったの。私は、神様とか妖怪とかあっち側のモノが見えなくなるのは、凄く嫌なんだって。ずっと恋音さんに目隠しされてたから、他人と違うって理解する前に見えなくなってたし、知ってたのは音だけだけど、やっとまた会えるようになって、楽しかったことを思い出しちゃったの」
あちらのモノは、今思えば怖い見た目のモノも多かったと思うけど。それが"見えていた"私には、ヒトと変わらない存在でしかなくて。ヒトが居なくなったら悲しいと感じるように、私は彼らに会えなくなるのが寂しいと思っていた。
「嫌だった。また会いたいと思った。でもその願いは、羅樹を怖がらせることだから。どっちを選ぶかって言われたら、きっと私は選ぶ間もなく変われない人だから。ならいっそ、羅樹の恐怖が無くなれば良いって。羅樹を置いて行くことなんかないって、知ってもらえれば良いのかなって」
真っ直ぐに、空色を見つめて。
「そう、思ったの」
私は、思いを口にした。
けれど今回、稲荷様へ会いに行く道中に同行してもらった結果、より羅樹から私への、私の持つ力への理解が深まったのではないかと思う。リーロの目を借りて私の視界を見たり、飛んだり、多くのヒトならざる経験をした。私もここ1年で経験したことばかりだが、元々力を持つ私とは違い、羅樹はこれから先同じような経験をすることはほとんどないだろう。今回は、私が羅樹も稲荷様も選ぶという強欲さを見せつけるために、羅樹だけを置いて行ったりはしないし、稲荷様を忘れることもしないと伝えるために連れて行った。羅樹は、知らなかった世界を知ったのだ。
それが、知らなくて良い世界だった可能性は否めないけど。
「…どうかした?」
虹様は既に話し終えていたらしく、私が無意識に呟いた声は見事に羅樹に聞こえていた。ハッとして羅樹の方を向けば、少しだけ間を空けて私の顔を覗いているのが見えた。どう説明しようかと迷い、素直に話すことにした。
「あの、演劇部の公演を見る前に、私が体調を崩した日があったでしょ?あれは、稲荷様から契約を解かれて力を失ったせいだったの」
あの前後に何があっただろうかと、思い出しながら言葉にする。
「そのせいかあんまり寝れなくて。その時にガラス玉が落ちて来たんだけど、握り締めて眠ったら龍の夢を見て。それで、呼ばれているような気がして。あの場所に行かなきゃって思って。あの時、思ったの。私は、神様とか妖怪とかあっち側のモノが見えなくなるのは、凄く嫌なんだって。ずっと恋音さんに目隠しされてたから、他人と違うって理解する前に見えなくなってたし、知ってたのは音だけだけど、やっとまた会えるようになって、楽しかったことを思い出しちゃったの」
あちらのモノは、今思えば怖い見た目のモノも多かったと思うけど。それが"見えていた"私には、ヒトと変わらない存在でしかなくて。ヒトが居なくなったら悲しいと感じるように、私は彼らに会えなくなるのが寂しいと思っていた。
「嫌だった。また会いたいと思った。でもその願いは、羅樹を怖がらせることだから。どっちを選ぶかって言われたら、きっと私は選ぶ間もなく変われない人だから。ならいっそ、羅樹の恐怖が無くなれば良いって。羅樹を置いて行くことなんかないって、知ってもらえれば良いのかなって」
真っ直ぐに、空色を見つめて。
「そう、思ったの」
私は、思いを口にした。
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