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姉妹の憤怒
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天女神様は、恋音さんの生が神様の世に引っ張られていることに気付き、最初からこの世で生きるよう手を回した。同族をも騙し、ヒトならざるモノとしての生を与えた。
そうなったのは、稲荷様のせいだ。
稲荷様が何度も偶然を装って魂に干渉し、ヒトならざるモノとの縁を濃くしてしまった。記憶もなく転生し続ければ薄まった筈のそれを、逆に強くしてしまったのだ。恋音さんがヒトを嫌い、ヒトを憎み、ヒトに馴染めなくなったきっかけを、神自体が与えてしまったのだ。
勿論稲荷様だけのせいとは言えない。あの転生に手を貸した魂の管理者も、転生の手続きを行う神様も、そうやって恋音さんが神の元へ逃げる以外の道を潰したヒト達も、皆罪を背負っている。
皆、"過ち"を背負っている。
そこまで考えて、今稲荷様が犯そうとしている過ちは何かと改めて思考を巡らせる。
1つ、使と対話をしなかった。
私も恋音さんも、稲荷様から選択肢を与えられなかった。恋音さんは魂の状態だったから難しかったのかもしれないが、私は今私として生きているのだから出来た筈だ。
1つ、一方的に幸せを決め付けた。
恋音さんはヒトとして生きていくのが幸せだろうと、私は使としてより普通の人として生きていく方が幸せだろうと、何も聞かずに決め付けた。
1つ、縁を切ろうとして、逆に縁を強めてしまった。
恋音さんは先の説明の通り。そして私は、稲荷様への怒りから神の地へやって来てしまった。これを縁と言わず何と言うか。稲荷様の想定では使の関係を改めヒトならざる力を失った私は、平和にヒトとして全てを忘れて暮らしていくつもりだったのだろう。
ふざけるな。
そんな簡単に忘れられるほど、ヒトの心は軽くない。
ゆらりと、心の奥底が燻る。この怒りは自分のものか、はたまた虹様の怒りに影響されたのか。それすらも分からないけれど、確かに私の中にある炎だと強く認識出来る。
「わたし、は…っ」
稲荷様が頭を押さえ、青褪めた顔でふらつく。
「リーロの中に宿るのが、誰か分かるか」
「…わかる、わけ」
虹様の問いに顔を上げた稲荷様が、気配を抑えるために全身を落ち着かせているリーロの姿を一瞬だけ見て、また目を伏せた。それを見て、虹様は稲荷様に掴みかかる。頬を両手でがっちりと押さえ、無理やり顔を上げさせた。
「そうやって目を逸らすな!お前が蒔いた種だろう!?」
種、という言葉に反応して、私の目が稲荷様を捉える。その奥に、震える小さな姿が見えた。
そうなったのは、稲荷様のせいだ。
稲荷様が何度も偶然を装って魂に干渉し、ヒトならざるモノとの縁を濃くしてしまった。記憶もなく転生し続ければ薄まった筈のそれを、逆に強くしてしまったのだ。恋音さんがヒトを嫌い、ヒトを憎み、ヒトに馴染めなくなったきっかけを、神自体が与えてしまったのだ。
勿論稲荷様だけのせいとは言えない。あの転生に手を貸した魂の管理者も、転生の手続きを行う神様も、そうやって恋音さんが神の元へ逃げる以外の道を潰したヒト達も、皆罪を背負っている。
皆、"過ち"を背負っている。
そこまで考えて、今稲荷様が犯そうとしている過ちは何かと改めて思考を巡らせる。
1つ、使と対話をしなかった。
私も恋音さんも、稲荷様から選択肢を与えられなかった。恋音さんは魂の状態だったから難しかったのかもしれないが、私は今私として生きているのだから出来た筈だ。
1つ、一方的に幸せを決め付けた。
恋音さんはヒトとして生きていくのが幸せだろうと、私は使としてより普通の人として生きていく方が幸せだろうと、何も聞かずに決め付けた。
1つ、縁を切ろうとして、逆に縁を強めてしまった。
恋音さんは先の説明の通り。そして私は、稲荷様への怒りから神の地へやって来てしまった。これを縁と言わず何と言うか。稲荷様の想定では使の関係を改めヒトならざる力を失った私は、平和にヒトとして全てを忘れて暮らしていくつもりだったのだろう。
ふざけるな。
そんな簡単に忘れられるほど、ヒトの心は軽くない。
ゆらりと、心の奥底が燻る。この怒りは自分のものか、はたまた虹様の怒りに影響されたのか。それすらも分からないけれど、確かに私の中にある炎だと強く認識出来る。
「わたし、は…っ」
稲荷様が頭を押さえ、青褪めた顔でふらつく。
「リーロの中に宿るのが、誰か分かるか」
「…わかる、わけ」
虹様の問いに顔を上げた稲荷様が、気配を抑えるために全身を落ち着かせているリーロの姿を一瞬だけ見て、また目を伏せた。それを見て、虹様は稲荷様に掴みかかる。頬を両手でがっちりと押さえ、無理やり顔を上げさせた。
「そうやって目を逸らすな!お前が蒔いた種だろう!?」
種、という言葉に反応して、私の目が稲荷様を捉える。その奥に、震える小さな姿が見えた。
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