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姉妹の邂逅
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聳え立つ大きな屋敷。それは我が国の古き良き家屋のようで、神社の本殿のような作りをしていた。霜月神社と同じ大きく赤く聳え立つ鳥居もあり、幻想的な世界によく映える。
「あれ。そう言えばここからどう行くんですか?」
「そうですね。隠れてこっそり行くのも面白いですが、ここは正面突破致しましょう」
「え?」
驚けば、虹様が私に重なる。驚いて視界を動かせば、隣には羅樹は居らず、リーロがしずしずと立っていた。
「少しの間、気配をお借りします。リーロ、必ず羅樹様をお守りするように」
「承知致しました」
リーロが深々と頭を下げる。話の内容と今の状況から、私と羅樹は虹様とリーロの気配に隠されているのだと気付いた。人らの世界で私達の中に虹様とリーロが隠れていたのと逆の現象だ。私と羅樹が虹様とリーロの中に入っている。視界が自由に動くのは、この世界が私達の世界と異なる理に動いているからだろうか。
私と羅樹を隠した状態で、虹様は躊躇うことなく進んで行く。鳥居を潜り抜け、稲荷様の領界へと足を踏み入れた。草原を動き回っている稲荷様の使であろう狐達が、虹様達に気付いて驚いたような顔をした。慌てて動き出し、本殿へと四足歩行で駆ける。人型と獣型は、都合の良い方へ形を変えるのだと虹様が心の中で教えてくれた。
扉の前へ辿り着くと、厳かに扉が開く。そして先程の時の神同様、開いた先にすぐ稲荷様が待っていた。空間が歪んでいるようだ。
「姉神様…?」
「久しぶり、稲荷」
感動の再会、とは行かず。稲荷様は怪訝そうな表情で虹様を出迎えた。その顔は俯きがちで、元気がない。
「元気、ではなさそうね」
「…当然でしょう。姉様と慕っていた方が罪を犯し、目の前から去ったのですから」
「それは申し訳ないことをしたわ。でも、貴方が思い詰めてるのは私じゃないでしょう」
神にとっては3ヶ月前など瞬きの間の出来事だ。けれどその密度は人よりも寿命が長い分濃くなる筈で、一々覚えていないことも合わせると人の数年、数十年分に値するかもしれない。私の感覚でしか語れない為、想像でしかないが。
黙り込んでしまった稲荷様を見て、虹様がふっと悲しげに眉を下げる。
「…どうして、此方に?貴方はもう、この地には」
「えぇ。神格を下げられて奉仕を命じられたわ。気の脈の管理を1から確認するとか。けれど残念なことに、私は古い神なのよ。そう簡単に位を譲ることも代わりを立てることも出来ないの」
つまり、人を殺めようとしてもその程度の罰しか与えられないということだ。未遂だったことや、私と虹様の間で清算が済んでいることも影響しているのかもしれない。そこにとやかく言うほど私も固執していない。けれど、稲荷様は違うようだ。
「…禁忌を犯しておいて?わたしの使を殺めようとしておいて、その程度なのですか」
ぴくりと耳を動かして、鋭い目を虹様に向ける。重なっている私も睨み付けられているようで、びくりと奥で震えた。
「今は特例措置が取られているだけだけどね」
「特例…?」
訝しげな目をした稲荷様に、虹様はにこりと口角を上げる。
「えぇ。馬鹿な妹がまた、同じ過ちを繰り返そうとしているせいで」
挑発するような声音が、辺りに響いた。
「あれ。そう言えばここからどう行くんですか?」
「そうですね。隠れてこっそり行くのも面白いですが、ここは正面突破致しましょう」
「え?」
驚けば、虹様が私に重なる。驚いて視界を動かせば、隣には羅樹は居らず、リーロがしずしずと立っていた。
「少しの間、気配をお借りします。リーロ、必ず羅樹様をお守りするように」
「承知致しました」
リーロが深々と頭を下げる。話の内容と今の状況から、私と羅樹は虹様とリーロの気配に隠されているのだと気付いた。人らの世界で私達の中に虹様とリーロが隠れていたのと逆の現象だ。私と羅樹が虹様とリーロの中に入っている。視界が自由に動くのは、この世界が私達の世界と異なる理に動いているからだろうか。
私と羅樹を隠した状態で、虹様は躊躇うことなく進んで行く。鳥居を潜り抜け、稲荷様の領界へと足を踏み入れた。草原を動き回っている稲荷様の使であろう狐達が、虹様達に気付いて驚いたような顔をした。慌てて動き出し、本殿へと四足歩行で駆ける。人型と獣型は、都合の良い方へ形を変えるのだと虹様が心の中で教えてくれた。
扉の前へ辿り着くと、厳かに扉が開く。そして先程の時の神同様、開いた先にすぐ稲荷様が待っていた。空間が歪んでいるようだ。
「姉神様…?」
「久しぶり、稲荷」
感動の再会、とは行かず。稲荷様は怪訝そうな表情で虹様を出迎えた。その顔は俯きがちで、元気がない。
「元気、ではなさそうね」
「…当然でしょう。姉様と慕っていた方が罪を犯し、目の前から去ったのですから」
「それは申し訳ないことをしたわ。でも、貴方が思い詰めてるのは私じゃないでしょう」
神にとっては3ヶ月前など瞬きの間の出来事だ。けれどその密度は人よりも寿命が長い分濃くなる筈で、一々覚えていないことも合わせると人の数年、数十年分に値するかもしれない。私の感覚でしか語れない為、想像でしかないが。
黙り込んでしまった稲荷様を見て、虹様がふっと悲しげに眉を下げる。
「…どうして、此方に?貴方はもう、この地には」
「えぇ。神格を下げられて奉仕を命じられたわ。気の脈の管理を1から確認するとか。けれど残念なことに、私は古い神なのよ。そう簡単に位を譲ることも代わりを立てることも出来ないの」
つまり、人を殺めようとしてもその程度の罰しか与えられないということだ。未遂だったことや、私と虹様の間で清算が済んでいることも影響しているのかもしれない。そこにとやかく言うほど私も固執していない。けれど、稲荷様は違うようだ。
「…禁忌を犯しておいて?わたしの使を殺めようとしておいて、その程度なのですか」
ぴくりと耳を動かして、鋭い目を虹様に向ける。重なっている私も睨み付けられているようで、びくりと奥で震えた。
「今は特例措置が取られているだけだけどね」
「特例…?」
訝しげな目をした稲荷様に、虹様はにこりと口角を上げる。
「えぇ。馬鹿な妹がまた、同じ過ちを繰り返そうとしているせいで」
挑発するような声音が、辺りに響いた。
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