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3月24日 答えの理由
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赤い瞳が、ゆらゆらと揺れる。私の朱色が混ざって、隠れて、また現れた。
『…分かりました』
「…え?いいの、ですか?」
提案しておいて何だが、断られると思っていた。羅樹がついて来ないという可能性もあるが、それでもその前段階として虹様には断られ、ついて来ると言った羅樹と2人で説得することになると思っていた。
驚いて目を瞬く私に、虹様は苦笑いを浮かべる。
『私は夕音様の温情で生かされている身。どちらにしても夕音様の願いを叶えない選択はないのですよ』
「…負担が、増えるのに?」
『構いません。人1人が背負う荷など、我らにとってないに等しいですから』
その言葉に、神としての強い意志を感じた。虹様は本来、自身の役割に真摯で真面目な性格らしい。稲荷様と似て、一つのことに集中すると他のことが疎かになるたちはあるようだが、その仕事ぶりを頼られ慕われるのが本来の姿なのだろう。現在も、与えられた役割の中で最善の結果を出そうと努めている。否守様の言葉に出来ない意図を汲んで、その通りにしようと動いている。私の願いを聞いて、恐らく羅樹の言葉も聞いて、その上で最善へ向かって導いてくれる。そんな神様だ。
『では、羅樹様の護衛には私が付きましょう』
虹様の隣で、煙が坂巻いた。白い毛並みを持った美しいその姿は、私にも見覚えがあるもので。
「リーロ?」
『はい。お久しぶりで御座います、夕音様』
かつて"夕音さん"と呼んでくれたその方は、主人に倣って私を呼ぶ。虹様のお付きであるリーロは、かつて主人の罪を軽くするために私へ向けられた呪いを肩代わりしてくれた。結局私がその呪いをこの身に移し、恋音さんに解呪してもらうという結果に終わってしまったのだが、それで虹様は自身の過ちを自覚することになったのだから、リーロの自己犠牲精神は無駄ではなかったのだろう。
そんなリーロは、白銀の狐を模した耳と尾を揺らしながらくすりと笑う。
『夕音様の御尽力のお陰で、私は今も生を繋いでおります。今も虹様の側に居ることが出来ております。虹様のように強力な力は御座いませんが、これでも高貴なる方へ仕える身。羅樹様を中・低級から守る程度のことは出来ましょう』
『私クラスが出て来ることは稀でしょうし、そうなれば私が出向きましょう』
虹様だけでなく、リーロの力も貸してもらえるとの申し出。ありがたいと一言では表せないくらいだ。
「どうして、そこまで」
納得出来るような納得出来ないような"恩"という理由に、つい疑問が漏れる。すると顔を見合わせた2柱が、小さく微笑んだ。そして代表して虹様が口を開く。
『愛する者との邂逅に手を貸してくれた夕音様の、愛する者を想う気持ちを止める権利が私に御座いましょうか』
その答えで、やっと理解が出来た。
『…分かりました』
「…え?いいの、ですか?」
提案しておいて何だが、断られると思っていた。羅樹がついて来ないという可能性もあるが、それでもその前段階として虹様には断られ、ついて来ると言った羅樹と2人で説得することになると思っていた。
驚いて目を瞬く私に、虹様は苦笑いを浮かべる。
『私は夕音様の温情で生かされている身。どちらにしても夕音様の願いを叶えない選択はないのですよ』
「…負担が、増えるのに?」
『構いません。人1人が背負う荷など、我らにとってないに等しいですから』
その言葉に、神としての強い意志を感じた。虹様は本来、自身の役割に真摯で真面目な性格らしい。稲荷様と似て、一つのことに集中すると他のことが疎かになるたちはあるようだが、その仕事ぶりを頼られ慕われるのが本来の姿なのだろう。現在も、与えられた役割の中で最善の結果を出そうと努めている。否守様の言葉に出来ない意図を汲んで、その通りにしようと動いている。私の願いを聞いて、恐らく羅樹の言葉も聞いて、その上で最善へ向かって導いてくれる。そんな神様だ。
『では、羅樹様の護衛には私が付きましょう』
虹様の隣で、煙が坂巻いた。白い毛並みを持った美しいその姿は、私にも見覚えがあるもので。
「リーロ?」
『はい。お久しぶりで御座います、夕音様』
かつて"夕音さん"と呼んでくれたその方は、主人に倣って私を呼ぶ。虹様のお付きであるリーロは、かつて主人の罪を軽くするために私へ向けられた呪いを肩代わりしてくれた。結局私がその呪いをこの身に移し、恋音さんに解呪してもらうという結果に終わってしまったのだが、それで虹様は自身の過ちを自覚することになったのだから、リーロの自己犠牲精神は無駄ではなかったのだろう。
そんなリーロは、白銀の狐を模した耳と尾を揺らしながらくすりと笑う。
『夕音様の御尽力のお陰で、私は今も生を繋いでおります。今も虹様の側に居ることが出来ております。虹様のように強力な力は御座いませんが、これでも高貴なる方へ仕える身。羅樹様を中・低級から守る程度のことは出来ましょう』
『私クラスが出て来ることは稀でしょうし、そうなれば私が出向きましょう』
虹様だけでなく、リーロの力も貸してもらえるとの申し出。ありがたいと一言では表せないくらいだ。
「どうして、そこまで」
納得出来るような納得出来ないような"恩"という理由に、つい疑問が漏れる。すると顔を見合わせた2柱が、小さく微笑んだ。そして代表して虹様が口を開く。
『愛する者との邂逅に手を貸してくれた夕音様の、愛する者を想う気持ちを止める権利が私に御座いましょうか』
その答えで、やっと理解が出来た。
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