163 / 812
8月10日 涙と清算
しおりを挟む
私と北原くんは、木の影となるところで北原くんが落ち着くまで待つことにした。
「…俺、は…亜美が好きだと、思ってた…けど、来との仲を応援したいって気持ちも半分あった…前に、稲森に言われた言葉が離れなくて」
私が北原くんに言った言葉。たしか雨の日、亜美が潮賀くんと一緒に帰っていた日。北原くんの心の雨が、私に響いてきて頭が痛かった日。
「…俺は、どうするべき、なんだろう」
「…突き放すような言い方になるけど、それはもう自分で答えを出すしかないかな」
私はしゃがみこむ北原くんの頭に手をおく。
「…きっと、北原くんの心では答えが出てる。大丈夫」
北原くんなら、という言葉は飲み込んだ。その言葉は自信をつける言葉であるとともに、プレッシャーをかける言葉でもある。ぐるぐる悩んでいるときに、悩み過ぎてしまう人に、その言葉は後者の効果となってしまう。私はそう思った。
「ほら、泣き止んだ?じゃあ戻ろう。皆が待ってるよ」
私は手を伸ばして、北原くんが手を取って、羅樹が私にしてくれるように引っ張っていく。私達の足跡はもう見えづらくなってしまったけれど、さっきから聞こえる悲鳴を頼りに行けば戻れると思った。確信は無かったが、なんとなく、行けるような気がした。
「…うん、戻ろう」
さっきまで涙をこぼしていたのが嘘のように、いつも通りの表情に少し笑顔を加えて、優しい表情をしていた。
「…あ、戻ってきた」
「なんで1番最初に行ったのに、しかも悲鳴も何もあげなかったのにこんなに遅いんだよ…」
「浅野くんって意外と…苦手だったのね」
「浅野、ペアが全然平気だったからって稲森さん達に八つ当たりは良くないっすよ!」
「ちょっと迷っちゃってねー」
「ほぼ一本道だったのに」
「いや、途中で何かもふもふしたのが見えたからそっち追いかけてたら」
「肝試し関係ねぇ!?」
私達が最後だったらしく、話が盛り上がる。別荘の前で話していたからか、小野くんと、眠そうな目をした由芽が出てきた。
「おかえり。なんか良い情報あった?」
「聞いて聞いて!浅野くんがね!」
「やめろって」
利羽ちゃんが楽しそうに話すのを、蒼くんがなだめる。私はその会話を見ながら、ちらっと亜美と潮賀くんの方を見ると、晴れの気配がした。
「…良かった」
「どうしたの、夕音?」
「ううん、なんでもない」
羅樹の声に、笑顔で答える。私はほっとしたような表情をしていただろう。視界の端で、夏川さんが北原くんの異変に気付いて、問い詰めているのが見えた。
「…俺、は…亜美が好きだと、思ってた…けど、来との仲を応援したいって気持ちも半分あった…前に、稲森に言われた言葉が離れなくて」
私が北原くんに言った言葉。たしか雨の日、亜美が潮賀くんと一緒に帰っていた日。北原くんの心の雨が、私に響いてきて頭が痛かった日。
「…俺は、どうするべき、なんだろう」
「…突き放すような言い方になるけど、それはもう自分で答えを出すしかないかな」
私はしゃがみこむ北原くんの頭に手をおく。
「…きっと、北原くんの心では答えが出てる。大丈夫」
北原くんなら、という言葉は飲み込んだ。その言葉は自信をつける言葉であるとともに、プレッシャーをかける言葉でもある。ぐるぐる悩んでいるときに、悩み過ぎてしまう人に、その言葉は後者の効果となってしまう。私はそう思った。
「ほら、泣き止んだ?じゃあ戻ろう。皆が待ってるよ」
私は手を伸ばして、北原くんが手を取って、羅樹が私にしてくれるように引っ張っていく。私達の足跡はもう見えづらくなってしまったけれど、さっきから聞こえる悲鳴を頼りに行けば戻れると思った。確信は無かったが、なんとなく、行けるような気がした。
「…うん、戻ろう」
さっきまで涙をこぼしていたのが嘘のように、いつも通りの表情に少し笑顔を加えて、優しい表情をしていた。
「…あ、戻ってきた」
「なんで1番最初に行ったのに、しかも悲鳴も何もあげなかったのにこんなに遅いんだよ…」
「浅野くんって意外と…苦手だったのね」
「浅野、ペアが全然平気だったからって稲森さん達に八つ当たりは良くないっすよ!」
「ちょっと迷っちゃってねー」
「ほぼ一本道だったのに」
「いや、途中で何かもふもふしたのが見えたからそっち追いかけてたら」
「肝試し関係ねぇ!?」
私達が最後だったらしく、話が盛り上がる。別荘の前で話していたからか、小野くんと、眠そうな目をした由芽が出てきた。
「おかえり。なんか良い情報あった?」
「聞いて聞いて!浅野くんがね!」
「やめろって」
利羽ちゃんが楽しそうに話すのを、蒼くんがなだめる。私はその会話を見ながら、ちらっと亜美と潮賀くんの方を見ると、晴れの気配がした。
「…良かった」
「どうしたの、夕音?」
「ううん、なんでもない」
羅樹の声に、笑顔で答える。私はほっとしたような表情をしていただろう。視界の端で、夏川さんが北原くんの異変に気付いて、問い詰めているのが見えた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる