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"化かし日和のともしび" 11
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神社に足を踏み入れて、その前に突如として現れたセイ(由芽)の顔は笑っているように見えた。けれど本当は悲しんでいたのだろうと。自ら人の憎悪や嫌悪に塗れた場所に来る程追い詰められたアマネ(霙)のような人間に、同情していたのだろう。逆さまに現れたのは、その感情を隠すためだったのだ。
「気付かないでいてくれれば、良かったのに」
「それはごめんなさいね。でも無理よ、最初から私は、知りたくてここに来たのだから」
セイがアマネの頬に触れる。その手に優しくアマネが手を重ねれば、セイは唇を噛んで涙を溢した。
「僕はたくさんの世界を壊す人間が嫌いだけれど、だからといって自らこんな場所に来るのは間違いだと思ってる。何人も何人もいたけど、その中には他の人に推されて来た人もいたから。だから何も知らずに現世に居る人間が嫌いなんだ。ここに来る程の絶望を与える人間が、嫌いなんだ」
「セイ…」
「僕も長くここに居るから、ここのような世界を幾つも渡り歩いて来たから、影響を受けてるのかもしれない。悪意や憎悪を持つなんて許される身じゃないのだけど、そんなことを言っていられないくらいこの世界に溶け込んでいるのかもしれない。僕はもう"管理人"じゃ居られないのかも」
「…でも、セイの足元は溶けてない。それが答えじゃない?」
アマネの指摘に、セイは驚いたように目を開く。確かに、とくしゃりと笑って呟いた顔は子供のようだった。アマネは真っ直ぐセイを見つめ、囁くように言葉を零す。
「…私ね、どうして神様がこんな苦しみを人に与えるのだろうって不思議に思ったの。乗り越えてほしいのか、そもそも存在を無くしたいのか、分からなかった。けど違うのね。そもそも、あの大災害は神様が作り出した苦しみじゃなかった。この苦しみは人が生み出して、人が背負った十字架だった」
だから、ごめんなさい。
そうアマネは続ける。
「その重荷を背負わせて、蝕ませて、ごめんなさい」
この世界の真実を知った時、アマネは心からそう思っていた。この世界がある理由を、大災害が発生した原因を、知りたかった。だからこの世界にやって来た。全てを捨ててでも知りたかった。
好奇心は猫をも殺すと言うけれど、その猫が自身だと知っていても止められなかった。命を賭してでも知りたかったのだ。何度も苦しみを味わう人間に対し、神はどのような思いでそれを注いでいるのかを。けれどそんな試練は最初からなかった。全ては人間が作り出したもの。自業自得の連鎖が生んだ悲劇なのだ。自らが伸ばした手で、自らの首を絞め落としている。ただそれだけなのだ。
そこに関係がないとすれば、唯一ここの管理人になってしまったセイだけなのだろう。だから詫びる。人間の都合で不幸を背負うことになってしまったセイに、心から謝罪する。
「セイ、ごめんなさい」
セイの涙が、弾ける前に黒く染まった。
「気付かないでいてくれれば、良かったのに」
「それはごめんなさいね。でも無理よ、最初から私は、知りたくてここに来たのだから」
セイがアマネの頬に触れる。その手に優しくアマネが手を重ねれば、セイは唇を噛んで涙を溢した。
「僕はたくさんの世界を壊す人間が嫌いだけれど、だからといって自らこんな場所に来るのは間違いだと思ってる。何人も何人もいたけど、その中には他の人に推されて来た人もいたから。だから何も知らずに現世に居る人間が嫌いなんだ。ここに来る程の絶望を与える人間が、嫌いなんだ」
「セイ…」
「僕も長くここに居るから、ここのような世界を幾つも渡り歩いて来たから、影響を受けてるのかもしれない。悪意や憎悪を持つなんて許される身じゃないのだけど、そんなことを言っていられないくらいこの世界に溶け込んでいるのかもしれない。僕はもう"管理人"じゃ居られないのかも」
「…でも、セイの足元は溶けてない。それが答えじゃない?」
アマネの指摘に、セイは驚いたように目を開く。確かに、とくしゃりと笑って呟いた顔は子供のようだった。アマネは真っ直ぐセイを見つめ、囁くように言葉を零す。
「…私ね、どうして神様がこんな苦しみを人に与えるのだろうって不思議に思ったの。乗り越えてほしいのか、そもそも存在を無くしたいのか、分からなかった。けど違うのね。そもそも、あの大災害は神様が作り出した苦しみじゃなかった。この苦しみは人が生み出して、人が背負った十字架だった」
だから、ごめんなさい。
そうアマネは続ける。
「その重荷を背負わせて、蝕ませて、ごめんなさい」
この世界の真実を知った時、アマネは心からそう思っていた。この世界がある理由を、大災害が発生した原因を、知りたかった。だからこの世界にやって来た。全てを捨ててでも知りたかった。
好奇心は猫をも殺すと言うけれど、その猫が自身だと知っていても止められなかった。命を賭してでも知りたかったのだ。何度も苦しみを味わう人間に対し、神はどのような思いでそれを注いでいるのかを。けれどそんな試練は最初からなかった。全ては人間が作り出したもの。自業自得の連鎖が生んだ悲劇なのだ。自らが伸ばした手で、自らの首を絞め落としている。ただそれだけなのだ。
そこに関係がないとすれば、唯一ここの管理人になってしまったセイだけなのだろう。だから詫びる。人間の都合で不幸を背負うことになってしまったセイに、心から謝罪する。
「セイ、ごめんなさい」
セイの涙が、弾ける前に黒く染まった。
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