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3月18日 止まれない
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「…ね、夕音!」
バチっと目を覚ます。掛けられた声の方に視線を向けると、視界が滲んで頬に冷たいものが伝った。その奥には大好きな人の顔があって、私は息を吐こうとしてくしゃりと顔を歪ませてしまった。
「っ……~~う、」
「夕音、大丈夫?どこか痛い?魘されてたけど…」
何故泣いているのだろうか。分からない。けど夢の内容ははっきりと覚えていて、それが痛いのだと感覚的に分かる。最後に見た5体の龍がなんだったのか、最後の声は誰のものだったのか、知っているのに知らない気がしてむず痒い。
私は羅樹に抱き留められて、その胸元に顔を埋めて唸った。
私の感情は時々、特に恋使になった時に声を聞いた人のそれに引っ張られることがあったけれど、ならば一体今の私は、誰の感情に引っ張られているのだろうか。
誰に、呼ばれているのだろうか。
「大丈夫、大丈夫だよ夕音」
羅樹の手が私の背を撫でる。その温もりにしがみついて嗚咽を漏らし、また撫でられを繰り返す。先程まで見ていた夢が頭の中を巡る。姫巫女様と徒様と、関わって来た神様のことを思い出した。私の中に、恋音さんを見ていたことも知った。私の中に深く重なっていたはずの恋音さんが、最も近い場所にいた稲荷様以外には見抜かれていたことを、初めて知った。
「っ…、ぁ、…っう」
「大丈夫大丈夫。泣いてもいいよ」
私の中に溶ける夢。それが何を表しているのかを知るには、きっとあの海に行かなければならない。私を呼んでいるのはあの場所だ。あの龍だ。けれど今、何も見えなくなった私が行って分かるものなのだろうか。怖い。怖くて仕方ない。けど、行かなきゃいけない気がする。
「ら、き」
「うん?なぁに?」
「羅樹、羅樹、羅樹…っ」
見えなくなった。羅樹が不安に思っていたあちらの存在を、感知出来なくなった。これはきっと羅樹にとっては良いニュースなのだろう。私を攫う相手が私から見えなくなったのだから、不用意に動けなくなったと見て間違いない。
けれど私はそれを喜べない。
私は羅樹が大切だけど、羅樹が大好きでずっと一緒にいたいけど、その為に他の絆を諦められるほど優しくて一途ではない。
小さい頃から抱えて来た"夕音"を、なくしてしまえるほど強くない。
ごめんね。
羅樹の言った通りだ。私は、決めたら止まれない。私は、泣いて苦しんでいる誰かのために、それがどんなに危険なのか分からなくても進んでしまう。きっと羅樹が止めても、私は飛び込んでしまうだろう。
だから、きっと。
「あのね、羅樹───」
こうするしか、ないんだ。
バチっと目を覚ます。掛けられた声の方に視線を向けると、視界が滲んで頬に冷たいものが伝った。その奥には大好きな人の顔があって、私は息を吐こうとしてくしゃりと顔を歪ませてしまった。
「っ……~~う、」
「夕音、大丈夫?どこか痛い?魘されてたけど…」
何故泣いているのだろうか。分からない。けど夢の内容ははっきりと覚えていて、それが痛いのだと感覚的に分かる。最後に見た5体の龍がなんだったのか、最後の声は誰のものだったのか、知っているのに知らない気がしてむず痒い。
私は羅樹に抱き留められて、その胸元に顔を埋めて唸った。
私の感情は時々、特に恋使になった時に声を聞いた人のそれに引っ張られることがあったけれど、ならば一体今の私は、誰の感情に引っ張られているのだろうか。
誰に、呼ばれているのだろうか。
「大丈夫、大丈夫だよ夕音」
羅樹の手が私の背を撫でる。その温もりにしがみついて嗚咽を漏らし、また撫でられを繰り返す。先程まで見ていた夢が頭の中を巡る。姫巫女様と徒様と、関わって来た神様のことを思い出した。私の中に、恋音さんを見ていたことも知った。私の中に深く重なっていたはずの恋音さんが、最も近い場所にいた稲荷様以外には見抜かれていたことを、初めて知った。
「っ…、ぁ、…っう」
「大丈夫大丈夫。泣いてもいいよ」
私の中に溶ける夢。それが何を表しているのかを知るには、きっとあの海に行かなければならない。私を呼んでいるのはあの場所だ。あの龍だ。けれど今、何も見えなくなった私が行って分かるものなのだろうか。怖い。怖くて仕方ない。けど、行かなきゃいけない気がする。
「ら、き」
「うん?なぁに?」
「羅樹、羅樹、羅樹…っ」
見えなくなった。羅樹が不安に思っていたあちらの存在を、感知出来なくなった。これはきっと羅樹にとっては良いニュースなのだろう。私を攫う相手が私から見えなくなったのだから、不用意に動けなくなったと見て間違いない。
けれど私はそれを喜べない。
私は羅樹が大切だけど、羅樹が大好きでずっと一緒にいたいけど、その為に他の絆を諦められるほど優しくて一途ではない。
小さい頃から抱えて来た"夕音"を、なくしてしまえるほど強くない。
ごめんね。
羅樹の言った通りだ。私は、決めたら止まれない。私は、泣いて苦しんでいる誰かのために、それがどんなに危険なのか分からなくても進んでしまう。きっと羅樹が止めても、私は飛び込んでしまうだろう。
だから、きっと。
「あのね、羅樹───」
こうするしか、ないんだ。
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