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桃のケーキ 眞里阿
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紗奈ちゃんとケーキを選びに来た私達は、ガラスで出来たショーケースの中に並んだ色取り取りのスイーツを見て大きく目を見開いた。
「お、美味しそ~~っ!!」
「ここは天国ですか!?」
左側にはホールケーキが並び、半分を超えた右側は切り分けられたケーキが整列している。それらはオレンジ掛かった優しい照明の光に照らされて、キラキラと反射している。きめ細かなスポンジ生地はガラス越しでも分かるほどで、思わずごくりと喉が鳴った。
「ど、どれにしよう…っ」
「え、選べませんね…っ」
隣で紗奈ちゃんも同じように迷っている気配がする。視線はお互いケーキに奪われてしまっているため見ることは叶わないが、きっと同じような顔をしているのだろう。甘い物は人類の前で等しく魅力的なものなのだ。
…かおくんには反論されそうな言葉だけど。
それはともかく、端から端まで皆美味しそうだ。食べてと懇願されているのではないかと感じてしまうほどに。
「ねぇ眞里阿、あれ、キャラメルクリームだって…!」
「本当だ…っ!えぇ、うぅん、迷います!」
うんうんと唸る私達の他にお客さんはほとんどいないので、ショーケースの前を堂々と陣取り悩み抜いている。遠くの夕音ちゃんと由芽ちゃんが座ってる方には同じくティータイムを過ごしている人がいるが、おしゃべりに夢中で私達のことは見ていない。だからこそ、思いっきり悩むことにした。
「やっぱり最初は定番ですかね…」
「最初?」
「え?はいっ!今日は解禁デーなので!いっぱい食べます!」
具体的には胃が許すくらい。甘い物は別腹だから、きっと夕ご飯も入る筈。そうじゃなかったら怒られる。そんな言い訳を口の中で並べていると、紗奈ちゃんが驚いたような羨ましそうな顔をしていた。
「紗奈ちゃんも食べません?」
「いや、私はこの後ゲーセンで使う分もあるし…また今度いっぱいお金貯めてからね…」
「はいっ!…それにしても、本当に決められませんね」
「ふふっ、たくさん悩んでくれて嬉しいわ。きっと由芽はすぐ決めてしまうから」
急に声が降って来て、私と紗奈ちゃんは顔を上げる。由芽ちゃんのお母さんと、同僚であろう同じ制服を着た店員さんが微笑んでいるのが見えた。改めて私達の発言を振り返って、少し恥ずかしくなった。そうして考えたところで、発言に引っ掛かりを覚える。
「…由芽ちゃんがすぐ決めてしまう、とは?」
恐る恐る聞けば、ぱちくりと瞬いた後でふわりと笑みを零した。慈愛のこもった、子を想う母親の顔だ。
「あぁ。あの子ね、桃のショートケーキが大好きなの。昔作った時に大喜びして、それからずっと。でも旬でもない限り、あんまり見掛けないでしょう?だからきっとこの店に来るなら、桃のショートケーキを選んでくれると思ってたの」
そうして示されたのは、淡いピンク色の大きな果肉が乗った、甘いクリームで包まれた可愛らしいショートケーキだ。確かに珍しいラインナップで、とても美味しそうである。
「そういえばさっき、由芽が何か言いかけてたかも」
「桃のショートケーキを頼もうとして、あるかわからないからやめちゃったんですかね?」
「ならこれにしよう!他は定番にしてさ!」
「ありかもです!夕音ちゃんには…あ!私のおすすめのイチゴのタルトを!前に食べてすっっごく美味しかったんです!」
そうして連鎖的にあっという間に決まったケーキを持って行った先で、由芽ちゃんが本当に桃のショートケーキを選んだので、少し嬉しくなって紗奈ちゃんと笑い合ったのだった。
「お、美味しそ~~っ!!」
「ここは天国ですか!?」
左側にはホールケーキが並び、半分を超えた右側は切り分けられたケーキが整列している。それらはオレンジ掛かった優しい照明の光に照らされて、キラキラと反射している。きめ細かなスポンジ生地はガラス越しでも分かるほどで、思わずごくりと喉が鳴った。
「ど、どれにしよう…っ」
「え、選べませんね…っ」
隣で紗奈ちゃんも同じように迷っている気配がする。視線はお互いケーキに奪われてしまっているため見ることは叶わないが、きっと同じような顔をしているのだろう。甘い物は人類の前で等しく魅力的なものなのだ。
…かおくんには反論されそうな言葉だけど。
それはともかく、端から端まで皆美味しそうだ。食べてと懇願されているのではないかと感じてしまうほどに。
「ねぇ眞里阿、あれ、キャラメルクリームだって…!」
「本当だ…っ!えぇ、うぅん、迷います!」
うんうんと唸る私達の他にお客さんはほとんどいないので、ショーケースの前を堂々と陣取り悩み抜いている。遠くの夕音ちゃんと由芽ちゃんが座ってる方には同じくティータイムを過ごしている人がいるが、おしゃべりに夢中で私達のことは見ていない。だからこそ、思いっきり悩むことにした。
「やっぱり最初は定番ですかね…」
「最初?」
「え?はいっ!今日は解禁デーなので!いっぱい食べます!」
具体的には胃が許すくらい。甘い物は別腹だから、きっと夕ご飯も入る筈。そうじゃなかったら怒られる。そんな言い訳を口の中で並べていると、紗奈ちゃんが驚いたような羨ましそうな顔をしていた。
「紗奈ちゃんも食べません?」
「いや、私はこの後ゲーセンで使う分もあるし…また今度いっぱいお金貯めてからね…」
「はいっ!…それにしても、本当に決められませんね」
「ふふっ、たくさん悩んでくれて嬉しいわ。きっと由芽はすぐ決めてしまうから」
急に声が降って来て、私と紗奈ちゃんは顔を上げる。由芽ちゃんのお母さんと、同僚であろう同じ制服を着た店員さんが微笑んでいるのが見えた。改めて私達の発言を振り返って、少し恥ずかしくなった。そうして考えたところで、発言に引っ掛かりを覚える。
「…由芽ちゃんがすぐ決めてしまう、とは?」
恐る恐る聞けば、ぱちくりと瞬いた後でふわりと笑みを零した。慈愛のこもった、子を想う母親の顔だ。
「あぁ。あの子ね、桃のショートケーキが大好きなの。昔作った時に大喜びして、それからずっと。でも旬でもない限り、あんまり見掛けないでしょう?だからきっとこの店に来るなら、桃のショートケーキを選んでくれると思ってたの」
そうして示されたのは、淡いピンク色の大きな果肉が乗った、甘いクリームで包まれた可愛らしいショートケーキだ。確かに珍しいラインナップで、とても美味しそうである。
「そういえばさっき、由芽が何か言いかけてたかも」
「桃のショートケーキを頼もうとして、あるかわからないからやめちゃったんですかね?」
「ならこれにしよう!他は定番にしてさ!」
「ありかもです!夕音ちゃんには…あ!私のおすすめのイチゴのタルトを!前に食べてすっっごく美味しかったんです!」
そうして連鎖的にあっという間に決まったケーキを持って行った先で、由芽ちゃんが本当に桃のショートケーキを選んだので、少し嬉しくなって紗奈ちゃんと笑い合ったのだった。
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