神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
710 / 812

桃のケーキ 眞里阿

しおりを挟む
紗奈ちゃんとケーキを選びに来た私達は、ガラスで出来たショーケースの中に並んだ色取り取りのスイーツを見て大きく目を見開いた。
「お、美味しそ~~っ!!」
「ここは天国ですか!?」
左側にはホールケーキが並び、半分を超えた右側は切り分けられたケーキが整列している。それらはオレンジ掛かった優しい照明の光に照らされて、キラキラと反射している。きめ細かなスポンジ生地はガラス越しでも分かるほどで、思わずごくりと喉が鳴った。
「ど、どれにしよう…っ」
「え、選べませんね…っ」
隣で紗奈ちゃんも同じように迷っている気配がする。視線はお互いケーキに奪われてしまっているため見ることは叶わないが、きっと同じような顔をしているのだろう。甘い物は人類の前で等しく魅力的なものなのだ。
…かおくんには反論されそうな言葉だけど。
それはともかく、端から端まで皆美味しそうだ。食べてと懇願されているのではないかと感じてしまうほどに。
「ねぇ眞里阿、あれ、キャラメルクリームだって…!」
「本当だ…っ!えぇ、うぅん、迷います!」
うんうんと唸る私達の他にお客さんはほとんどいないので、ショーケースの前を堂々と陣取り悩み抜いている。遠くの夕音ちゃんと由芽ちゃんが座ってる方には同じくティータイムを過ごしている人がいるが、おしゃべりに夢中で私達のことは見ていない。だからこそ、思いっきり悩むことにした。
「やっぱり最初は定番ですかね…」
「最初?」
「え?はいっ!今日は解禁デーなので!いっぱい食べます!」
具体的には胃が許すくらい。甘い物は別腹だから、きっと夕ご飯も入る筈。そうじゃなかったら怒られる。そんな言い訳を口の中で並べていると、紗奈ちゃんが驚いたような羨ましそうな顔をしていた。
「紗奈ちゃんも食べません?」
「いや、私はこの後ゲーセンで使う分もあるし…また今度いっぱいお金貯めてからね…」
「はいっ!…それにしても、本当に決められませんね」
「ふふっ、たくさん悩んでくれて嬉しいわ。きっと由芽はすぐ決めてしまうから」
急に声が降って来て、私と紗奈ちゃんは顔を上げる。由芽ちゃんのお母さんと、同僚であろう同じ制服を着た店員さんが微笑んでいるのが見えた。改めて私達の発言を振り返って、少し恥ずかしくなった。そうして考えたところで、発言に引っ掛かりを覚える。
「…由芽ちゃんがすぐ決めてしまう、とは?」
恐る恐る聞けば、ぱちくりと瞬いた後でふわりと笑みを零した。慈愛のこもった、子を想う母親の顔だ。
「あぁ。あの子ね、桃のショートケーキが大好きなの。昔作った時に大喜びして、それからずっと。でも旬でもない限り、あんまり見掛けないでしょう?だからきっとこの店に来るなら、桃のショートケーキを選んでくれると思ってたの」
そうして示されたのは、淡いピンク色の大きな果肉が乗った、甘いクリームで包まれた可愛らしいショートケーキだ。確かに珍しいラインナップで、とても美味しそうである。
「そういえばさっき、由芽が何か言いかけてたかも」
「桃のショートケーキを頼もうとして、あるかわからないからやめちゃったんですかね?」
「ならこれにしよう!他は定番にしてさ!」
「ありかもです!夕音ちゃんには…あ!私のおすすめのイチゴのタルトを!前に食べてすっっごく美味しかったんです!」
そうして連鎖的にあっという間に決まったケーキを持って行った先で、由芽ちゃんが本当に桃のショートケーキを選んだので、少し嬉しくなって紗奈ちゃんと笑い合ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...