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3月10日 友情step
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ふわりと、春の陽光にも似た優しい気配が私の感覚をくすぐる。亜美が泣き始めて、どれくらいの時間が経ったのだろう。落ち着いて来た亜美の背をさすりながら、私は気配を感じた方向に顔ごと視線を動かす。遠くに見えるのは、傾いた夕日とは真逆の、薄暗い青緑に沈みゆく空だ。けれどその方向には雲一つなく、太陽が見えなくなるこの時間でもわかりやすく快晴であることを伝えている。
そう、"晴れ"の気配。
爽が向かったのは何処か、北原くんが今何処にいるのか。そう聞く前に爽が飛び出してしまったから分からないけれど、きっとこの"晴れ"は爽と北原くんのものだろう。何故だかわからないけれど、そう確信している自分がいた。
「…ぅ、ね」
しゃくりあげる亜美に視線を戻し、背中を摩りながら「うん?」と声を返す。ボーッと遠くを眺めていて、上手く聞き取れなかった。顔を覗くように首を傾ければ、亜美は赤く腫れた目から手を離し、小さく笑った。
「ありがと、夕音」
はにかむような、照れたような笑顔。頬に残った涙の痕だけが、亜美の葛藤を表すようにその表情に刻まれていた。
「うん。どういたしまして、亜美」
この返答であっているのかわからないけれど、私は安心させるように微笑み返す。
「あ、服……ごめんね」
亜美が申し訳なさそうに呟くので、そっとその視線の先に目を向けると、ハンカチ代わりにしていた私の肩がぐっしょりと濡れていた。私はゆっくりと目を見開き、あらまぁ、とどこか他人事のように思う。口調がいつもと異なってしまったのは、それだけびっくりしたということだ。濡れた服を濡れたハンカチで拭うわけにもいかず、少し肌から剥がして大丈夫だとアピールする。
「平気平気。それより、うん、もう大丈夫そうだね」
亜美の頬に手を添え、にっこりと笑えば、亜美は苦笑いを浮かべてこくりと頷いた。
「ちょっと取り乱しちゃったみたい。あたし、またあの店に爽ちゃんと行きたいなって思ってたから、また爽ちゃんがあの店に行けるようになった時、一緒に行くのはあたしだと思ってたから、その役を夕音に盗られたーって悔しくなっちゃったみたい」
でも、と亜美は言葉を区切り、深く息を吐く。ふわりと夕日に照らされた顔を赤く染め、嬉しそうに笑った。
「夕音はこんなに頼りになるんだもん。確かに、あのお店に一緒に行きたくなる気持ち、わかるなぁ」
悪戯っぽい笑顔に、ふいに心臓がどくんと音を上げた。不意打ちを食らった私は、くすくすと笑みを返して涙の痕を撫でる。
「なら今度は2人で誘ってよ。絶対行くからさ」
「楽しみにしてるね」
零れた涙はいつの間にか、優しい友情の確認に。
私は先にベンチから立ち上がり、亜美に手を差し出した。亜美が手を取った瞬間、唐突に片足に重心を乗せ、くるくると回って見せる。驚いていた亜美も、いつの間にか自ら足を動かして、楽しそうにステップを踏んだ。
「やっぱり亜美は笑顔が良いね!」
「夕音も、心配してる顔より笑顔の方が可愛いよ!」
2人でくるくると回りながら、夕陽が沈むまで楽しく笑い合っていた。
そう、"晴れ"の気配。
爽が向かったのは何処か、北原くんが今何処にいるのか。そう聞く前に爽が飛び出してしまったから分からないけれど、きっとこの"晴れ"は爽と北原くんのものだろう。何故だかわからないけれど、そう確信している自分がいた。
「…ぅ、ね」
しゃくりあげる亜美に視線を戻し、背中を摩りながら「うん?」と声を返す。ボーッと遠くを眺めていて、上手く聞き取れなかった。顔を覗くように首を傾ければ、亜美は赤く腫れた目から手を離し、小さく笑った。
「ありがと、夕音」
はにかむような、照れたような笑顔。頬に残った涙の痕だけが、亜美の葛藤を表すようにその表情に刻まれていた。
「うん。どういたしまして、亜美」
この返答であっているのかわからないけれど、私は安心させるように微笑み返す。
「あ、服……ごめんね」
亜美が申し訳なさそうに呟くので、そっとその視線の先に目を向けると、ハンカチ代わりにしていた私の肩がぐっしょりと濡れていた。私はゆっくりと目を見開き、あらまぁ、とどこか他人事のように思う。口調がいつもと異なってしまったのは、それだけびっくりしたということだ。濡れた服を濡れたハンカチで拭うわけにもいかず、少し肌から剥がして大丈夫だとアピールする。
「平気平気。それより、うん、もう大丈夫そうだね」
亜美の頬に手を添え、にっこりと笑えば、亜美は苦笑いを浮かべてこくりと頷いた。
「ちょっと取り乱しちゃったみたい。あたし、またあの店に爽ちゃんと行きたいなって思ってたから、また爽ちゃんがあの店に行けるようになった時、一緒に行くのはあたしだと思ってたから、その役を夕音に盗られたーって悔しくなっちゃったみたい」
でも、と亜美は言葉を区切り、深く息を吐く。ふわりと夕日に照らされた顔を赤く染め、嬉しそうに笑った。
「夕音はこんなに頼りになるんだもん。確かに、あのお店に一緒に行きたくなる気持ち、わかるなぁ」
悪戯っぽい笑顔に、ふいに心臓がどくんと音を上げた。不意打ちを食らった私は、くすくすと笑みを返して涙の痕を撫でる。
「なら今度は2人で誘ってよ。絶対行くからさ」
「楽しみにしてるね」
零れた涙はいつの間にか、優しい友情の確認に。
私は先にベンチから立ち上がり、亜美に手を差し出した。亜美が手を取った瞬間、唐突に片足に重心を乗せ、くるくると回って見せる。驚いていた亜美も、いつの間にか自ら足を動かして、楽しそうにステップを踏んだ。
「やっぱり亜美は笑顔が良いね!」
「夕音も、心配してる顔より笑顔の方が可愛いよ!」
2人でくるくると回りながら、夕陽が沈むまで楽しく笑い合っていた。
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