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熱色rhapsody 光
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じわじわと、夏川の想いが俺の中に沈んでいく。
「えっ、と」
「好きよ、光。だから、ごめんなさい。勝手にキスしたこと、反省はしてるけど後悔はしてない」
夏川の言葉にドキッとして、視線を彷徨わせる。忘れていたわけではない。むしろ鮮明に思い出さないよう気を付けて、余計に思い出しやすくなっていた。柔らかな唇が触れたあの瞬間。事故でも何でもなく、ただ夏川が望んで行ったあのキス。奪われた俺の初めては、それが欲しいと望んだ少女に捧げることになった。
戸惑ってチラリと夏川を見ると、見たこともないくらい自然に、艶やかに笑っていた。
「だって気付かない光が悪いんだよ。アタシは亜美や夕音のことを見ていた光のことを、ずっと見て来たんだもの」
「っ!」
俺の恋心がバレていた。まぁ確かに稲森に対しては隠す気もなかったし当然とも言えるが、桐竜についてもバレていたとは。あの時は行動するのが恥ずかしくて、格好悪いと思っていて、むしろマイナスな態度を取っていたから。軟派男を気取って、馬鹿みたいに近付くチャンスを探っていた。そんな俺を見て来て、それでもずっと想っていてくれたという。そんな相手を、俺はずっと気付かずにいたという。
何と、愚かなんだろうか。
「光の気持ちはいつもこっちを見てくれない。なら、多少強引に振り向かせたって罰は当たらないでしょう?」
夏川は俺に1歩近付いて来る。混乱した俺は後ずさることもせず、夏川をただ眺めていた。
「ねぇ、光」
夏川が目の前で瞳を伏せた。案外長い睫毛が頬に影を作る。そんな細かな特徴も、近くにいたのに気付かなかった。その瞳が熱を灯すとこんなにも美しく輝くことすら、俺は今まで知らなかった。いや、知ろうともしなかったのだ。俺はいつもその隣の少女に視線を奪われていたから。そして彼女からやっと目を離せるようになっても、目を向けたのは別の女の子だったから。
「光の気持ちは知ってる。アタシに恋愛感情なんて抱いてないこともわかってる。それでも、少しでもアタシの告白に心が動いたのなら、少しだけアタシのことを見てほしい」
すぅ、と息を深く吸う音が聞こえて来る。川のせせらぎも木の葉が揺れる音も、何も耳に届かない。静寂の中で夏川の息遣いと、俺の騒がしく鳴り響く心臓の音だけが響いていた。
「好きだよ、光。アタシと、付き合ってほしい」
壊れそうなくらいに体の内側が鳴いている。何処も触られていないのに縛り付けられたように動かなくて、全身に熱が巡る。ぐらぐらと煮えたぎるような血流に、喉の奥が焼けるように熱い。
真摯な想いは、こんなにも痛いのか。
初めて向けられた自分への"想い"に、胸が張り裂けそうだった。
「えっ、と」
「好きよ、光。だから、ごめんなさい。勝手にキスしたこと、反省はしてるけど後悔はしてない」
夏川の言葉にドキッとして、視線を彷徨わせる。忘れていたわけではない。むしろ鮮明に思い出さないよう気を付けて、余計に思い出しやすくなっていた。柔らかな唇が触れたあの瞬間。事故でも何でもなく、ただ夏川が望んで行ったあのキス。奪われた俺の初めては、それが欲しいと望んだ少女に捧げることになった。
戸惑ってチラリと夏川を見ると、見たこともないくらい自然に、艶やかに笑っていた。
「だって気付かない光が悪いんだよ。アタシは亜美や夕音のことを見ていた光のことを、ずっと見て来たんだもの」
「っ!」
俺の恋心がバレていた。まぁ確かに稲森に対しては隠す気もなかったし当然とも言えるが、桐竜についてもバレていたとは。あの時は行動するのが恥ずかしくて、格好悪いと思っていて、むしろマイナスな態度を取っていたから。軟派男を気取って、馬鹿みたいに近付くチャンスを探っていた。そんな俺を見て来て、それでもずっと想っていてくれたという。そんな相手を、俺はずっと気付かずにいたという。
何と、愚かなんだろうか。
「光の気持ちはいつもこっちを見てくれない。なら、多少強引に振り向かせたって罰は当たらないでしょう?」
夏川は俺に1歩近付いて来る。混乱した俺は後ずさることもせず、夏川をただ眺めていた。
「ねぇ、光」
夏川が目の前で瞳を伏せた。案外長い睫毛が頬に影を作る。そんな細かな特徴も、近くにいたのに気付かなかった。その瞳が熱を灯すとこんなにも美しく輝くことすら、俺は今まで知らなかった。いや、知ろうともしなかったのだ。俺はいつもその隣の少女に視線を奪われていたから。そして彼女からやっと目を離せるようになっても、目を向けたのは別の女の子だったから。
「光の気持ちは知ってる。アタシに恋愛感情なんて抱いてないこともわかってる。それでも、少しでもアタシの告白に心が動いたのなら、少しだけアタシのことを見てほしい」
すぅ、と息を深く吸う音が聞こえて来る。川のせせらぎも木の葉が揺れる音も、何も耳に届かない。静寂の中で夏川の息遣いと、俺の騒がしく鳴り響く心臓の音だけが響いていた。
「好きだよ、光。アタシと、付き合ってほしい」
壊れそうなくらいに体の内側が鳴いている。何処も触られていないのに縛り付けられたように動かなくて、全身に熱が巡る。ぐらぐらと煮えたぎるような血流に、喉の奥が焼けるように熱い。
真摯な想いは、こんなにも痛いのか。
初めて向けられた自分への"想い"に、胸が張り裂けそうだった。
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