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好意的color 光
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夏川のあの髪色は、よく目立つから噂になっていた。確か好きな人にこっ酷く振られた衝撃でとか、事故を目の前で見たショックでとか、色々な噂が一時期彼女を指していたものだ。真偽の程は知らないが、どんな噂にせよ夏川がかなり大きなトラウマを抱えたという点だけは共通していた。同級生の髪色が唐突に変わるのだ。しかも染めたものではなく、何かを失ったかのように真っ白に。青色混じりの暗い紫色の髪に、白はよく映えた。当時は真っ白で元の髪色など見る影もなかったが、今は大分伸びて毛先だけがその名残を残している。
俺は割と、あの髪が好きだった。
流れるように落ちる紫の影に、白の絹糸が走る。それは星空を切り裂く天の川のようにも見えて、夕焼けが1番綺麗に映える。紫色の髪は夕焼けを受けてキラキラと輝き、白へその煌めきを渡す。動く度に揺れる髪が、部活の最中にも視界に入る閃きが、いつでも綺麗だと思っていた。
走る音と共に見えたその影に、俺は小さく息を呑む。足が向いて訪れていた堤防は、蕾を膨らませた桜達が並んで赤く色付いている。それと同じように頬を赤く染めた夏川が、はぁはぁと息を切らしながら俺の前に現れた。何処から走って来たのだろう。何のために走って来たのだろう。その視線が俺を捕らえた瞬間、心臓が酷く跳ねた。傾いた陽が頬に当たって熱い。釣られたように熱を帯びた体が、夏川に向き合って止まる。膝に手をついて息を整えていた夏川が顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめた。その瞳は潤んでおり、頬は蒸気している。
風にそよぐ髪は、やはり綺麗だった。
「光」
「…夏川?」
呼び掛けられたので、名を呼び返す。そういえば俺に下の名前を呼ばれて呼び返してくれたのは、夏川ぐらいだったなとふと思う。他の女子はやはり好きでもない男に下の名前を呼ばれるのには抵抗があるようで、苦笑いを返したり距離を置いたりと一様だった。桐竜も流していたけれど、そのせいで他の男子からも下の名前で呼ばれるようになり困惑していたようだった。申し訳ないことをしたな、とふと眉尻を下げる。そんな俺の表情が見えているのかいないのか、夏川は最後に息を深く吐いて、ぎこちなく微笑んだ。
「好き、だよ」
か細い、緩やかな川の流れのような小さな声。けれどその声は熱に浮かされたかのように確かな温度で、はっきりと俺の耳に伝わって来た。溶けるような驚きに目を見開けば、夏川は再び息を吸う。
「ずっと前から、好きだった」
その瞳に迷いはない。痛みも苦しみもない。淡々と告げるように、俺に確かな温度を伝えて来る。
"愛される"感覚を、俺に真っ直ぐ、伝えて来る。
息が詰まって、今度は俺が苦しくなった。けれど夏川は気にしない。俺を追い詰めるように言葉を重ねる。
「何度伝えても足りないくらい好き。いつも優しい光が、アタシのことを見ていてくれる光が、ずっとずっと大好きなの」
燃えるように純粋な想いが、俺の心に響き渡っていた。
俺は割と、あの髪が好きだった。
流れるように落ちる紫の影に、白の絹糸が走る。それは星空を切り裂く天の川のようにも見えて、夕焼けが1番綺麗に映える。紫色の髪は夕焼けを受けてキラキラと輝き、白へその煌めきを渡す。動く度に揺れる髪が、部活の最中にも視界に入る閃きが、いつでも綺麗だと思っていた。
走る音と共に見えたその影に、俺は小さく息を呑む。足が向いて訪れていた堤防は、蕾を膨らませた桜達が並んで赤く色付いている。それと同じように頬を赤く染めた夏川が、はぁはぁと息を切らしながら俺の前に現れた。何処から走って来たのだろう。何のために走って来たのだろう。その視線が俺を捕らえた瞬間、心臓が酷く跳ねた。傾いた陽が頬に当たって熱い。釣られたように熱を帯びた体が、夏川に向き合って止まる。膝に手をついて息を整えていた夏川が顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめた。その瞳は潤んでおり、頬は蒸気している。
風にそよぐ髪は、やはり綺麗だった。
「光」
「…夏川?」
呼び掛けられたので、名を呼び返す。そういえば俺に下の名前を呼ばれて呼び返してくれたのは、夏川ぐらいだったなとふと思う。他の女子はやはり好きでもない男に下の名前を呼ばれるのには抵抗があるようで、苦笑いを返したり距離を置いたりと一様だった。桐竜も流していたけれど、そのせいで他の男子からも下の名前で呼ばれるようになり困惑していたようだった。申し訳ないことをしたな、とふと眉尻を下げる。そんな俺の表情が見えているのかいないのか、夏川は最後に息を深く吐いて、ぎこちなく微笑んだ。
「好き、だよ」
か細い、緩やかな川の流れのような小さな声。けれどその声は熱に浮かされたかのように確かな温度で、はっきりと俺の耳に伝わって来た。溶けるような驚きに目を見開けば、夏川は再び息を吸う。
「ずっと前から、好きだった」
その瞳に迷いはない。痛みも苦しみもない。淡々と告げるように、俺に確かな温度を伝えて来る。
"愛される"感覚を、俺に真っ直ぐ、伝えて来る。
息が詰まって、今度は俺が苦しくなった。けれど夏川は気にしない。俺を追い詰めるように言葉を重ねる。
「何度伝えても足りないくらい好き。いつも優しい光が、アタシのことを見ていてくれる光が、ずっとずっと大好きなの」
燃えるように純粋な想いが、俺の心に響き渡っていた。
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