神様自学

3月2日 お菓子戦争

ゆっくりと目を覚まして、今しがた見ていた夢の整理をする。誰かが2人で話していたような気がするけれど、それが誰なのかは分からない。断片的に聞こえて来た会話と、最後の言葉を否定しようとしたことまでは何となく分かっているのに、その会話の内容と何を否定しようとしたのかが分からない。消化不良のまま、仕方なしにベッドを降りた。
今日はいくつかのテスト返却が終われば、すぐに帰宅だ。先生方は高校受験の準備で忙しいみたいだし、一部の部活が残って何かしている程度だ。あと2週間程で3年生は卒業してしまう。そうしたら、次は私達が3年生となる番だ。あっという間の1年間。稲荷様に出会って、あまりにも濃すぎる1年だったからもっと長く感じていたけれど、それも過ぎ去ってみればあっという間だ。
「太陽に決まってるでしょ！」
「いーや、満月だね！」
感傷に浸っていたのも束の間、教室内から怒号のように叫び散らす声が聞こえて来て、私はそっと現実逃避をしたくなった。しかしあっさり眞里阿に見つかってしまい、教室内へと押しやられる。叫び声の主は紗奈と藤上くんだった。その手に持っているお菓子は、かの有名なチョコクッキーである。
「"太陽"はね、サクサクのクッキーとパリパリのチョコチップが混ざり合って最高に美味しいんだから！」
「"満月"だってしっとりしたソフトクッキーと、濃厚で滑らかなチョコの味が絶妙にマッチして、最高に美味いんだぞ！」
「食感が堪らないのよ！甘くて美味しいのに歯も丈夫になるなんて子供にはもってこいでしょ！」
「"太陽"派はお子さまなんだよ！それこそ歯のないご老人でも食べられる"満月"の方が良いに決まってるね！」
「あーら、"満月"派は貧弱すぎて"太陽"が食べられないだけじゃないの？」
「んだと！？」
「何よ！」
永遠に言い争いの終わらない戦争が、ついにこの教室にもやって来てしまった。2人が手にし、言い争っているのは"たいようの泉"と"まんげつの湖"というお菓子だ。サクサクとしっとり、練り込まれたチョコチップと生地そのものがチョコなど、対比されたそれらははっきりと嗜好を分け、たびたび戦争になっている。何度総選挙を行っても決着の付かないこのお菓子戦争は、日月戦争と称され、ある意味お家芸のようになっていた。そんな戦争が急に教室で勃発するとは、誰が予想出来ただろう。心なしか、紗奈と藤上くんを囲んでいる他の生徒もピリピリしている気がする。というより、紗奈と藤上くんを先頭にある程度2分されているような気がする。
「「勝負！」」
呆れ顔で見ている数人を尻目に、お菓子を手に騒ぎ始めるのだった。
いつぞやの性転換事件と同様、これは長くなりそうだと口の中で溜め息を吐いた。