608 / 812
その熱を私に 清歌(短編)
しおりを挟む
「清歌さん」
その優しい声音を、私だけが知っている。
隣というべきか裏というべきか、実家である神社のすぐそばに住んでいる冬間さん。その双子の息子のお兄さんと、私は付き合っている。お兄さんと言えども私より3歳下だ。妹と同い年であり、小さい頃はよく遊んでいた相手だという。妹こと霙に言うと「腐れ縁だよ」と返ってくるが、双子の弟である雪くんと恋人同士になっているのだから、素直じゃないと思う。
今日は恋人である富くんを自室に招いている。畳に低い机など、和室らしい和室。布団は端に畳まれ、それを背もたれにぴったりと寄り添っている。
「清歌さん」
声を掛けられ顔を上げると、富くんの指先が私の頬をくすぐる。じんわりと伝わる熱が心地良くて、私は顔を動かして擦り寄る。チラリと視線を上げれば、一瞬固まった様子の富くんが頬を赤く染めている。必死に取り繕おうとしている姿が可愛らしくて、けれどそう伝えると拗ねるのを知っているから私は何も言わない。そうしてじっと見つめていると、富くんは私の髪を掻き分けて後頭部を撫でてくれる。少しだけ降りて来た手が頸を撫で、首筋を通り頬へ添えられる。高校生とは言え男の子らしいゴツゴツした手が、まるで壊れ物に触れるかのように優しく私の輪郭をなぞる。唇を親指で押され、微笑めば。暗闇の中で柔らかな感触が唇に触れた。
あぁ、甘い。
そして微かに離れた後で、吐息がかかる距離で、富くんは私の名前を呼ぶのだ。
「清歌さん」
蕩けるような、舌先で溶けるような甘い甘い声色。誰にも見せないような柔らかい表情なのに、その瞳の奥には小さく熱が灯っている。酔いそうなほどに甘やかな雰囲気に任せて、富くんの耳に唇を寄せる。魔法の言葉を呟けば、富くんはいつでも驚いたような顔をして、呆れたふりをして笑って、本性を剥き出しにする。その変化を楽しめるのは、この世界で唯一私だけだ。雪くんも、霙も、幼少期から付き合いがあるという友達も、誰も知らない。私だけの富くん。私の大好きな富くん。
代わりに、こんなに意地の悪い私も富くんしか知らない。皆、巫女として社務所で働く私や、大学での私しか知らないのだ。わざと煽るようなことをして求める姿なんて、富くん以外に見せるつもりはない。
背中が柔らかい布団に包まれる。絡まる指先が熱を交換して、混じり合う。衣擦れの音が耳に心地良い。甘ったるい吐息も、こちらを見つめる飢えた瞳も、全部全部、富くんとなら大好きなのだ。
「清歌」
スイッチが切り替わるこの瞬間が、私はとても好きなのだ。
その優しい声音を、私だけが知っている。
隣というべきか裏というべきか、実家である神社のすぐそばに住んでいる冬間さん。その双子の息子のお兄さんと、私は付き合っている。お兄さんと言えども私より3歳下だ。妹と同い年であり、小さい頃はよく遊んでいた相手だという。妹こと霙に言うと「腐れ縁だよ」と返ってくるが、双子の弟である雪くんと恋人同士になっているのだから、素直じゃないと思う。
今日は恋人である富くんを自室に招いている。畳に低い机など、和室らしい和室。布団は端に畳まれ、それを背もたれにぴったりと寄り添っている。
「清歌さん」
声を掛けられ顔を上げると、富くんの指先が私の頬をくすぐる。じんわりと伝わる熱が心地良くて、私は顔を動かして擦り寄る。チラリと視線を上げれば、一瞬固まった様子の富くんが頬を赤く染めている。必死に取り繕おうとしている姿が可愛らしくて、けれどそう伝えると拗ねるのを知っているから私は何も言わない。そうしてじっと見つめていると、富くんは私の髪を掻き分けて後頭部を撫でてくれる。少しだけ降りて来た手が頸を撫で、首筋を通り頬へ添えられる。高校生とは言え男の子らしいゴツゴツした手が、まるで壊れ物に触れるかのように優しく私の輪郭をなぞる。唇を親指で押され、微笑めば。暗闇の中で柔らかな感触が唇に触れた。
あぁ、甘い。
そして微かに離れた後で、吐息がかかる距離で、富くんは私の名前を呼ぶのだ。
「清歌さん」
蕩けるような、舌先で溶けるような甘い甘い声色。誰にも見せないような柔らかい表情なのに、その瞳の奥には小さく熱が灯っている。酔いそうなほどに甘やかな雰囲気に任せて、富くんの耳に唇を寄せる。魔法の言葉を呟けば、富くんはいつでも驚いたような顔をして、呆れたふりをして笑って、本性を剥き出しにする。その変化を楽しめるのは、この世界で唯一私だけだ。雪くんも、霙も、幼少期から付き合いがあるという友達も、誰も知らない。私だけの富くん。私の大好きな富くん。
代わりに、こんなに意地の悪い私も富くんしか知らない。皆、巫女として社務所で働く私や、大学での私しか知らないのだ。わざと煽るようなことをして求める姿なんて、富くん以外に見せるつもりはない。
背中が柔らかい布団に包まれる。絡まる指先が熱を交換して、混じり合う。衣擦れの音が耳に心地良い。甘ったるい吐息も、こちらを見つめる飢えた瞳も、全部全部、富くんとなら大好きなのだ。
「清歌」
スイッチが切り替わるこの瞬間が、私はとても好きなのだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる